Compiler Construction Lecture 1/24

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先週の復習

先週は、について勉強したのであった。


mc のコンパイル

/usr/open から Micro-C のソースをとってきてコンパイルしよう。
	cp -r /usr/open/lectures/kono/compiler/mc-intel  .
	cd mc-intel
	make


Mule の gdb mode

Mule (Emacs) には、gdb mode というのが付いている。コンパイラの動作をこれを使って調べる。

    M-X gdb 


コード生成の詳細

これまで勉強してきた簡単なコンパイラと、C コンパイラでは、複雑さがずいぶん違う。特に、配列(array)、構造体(struct,union)、そして、ポインタ(pointer)をコンパイルしなくてはならない。逆にこれらを理解して使いこなせなければCを理解していることにはならない。これらは、逆にアセンブラを通して理解する方が容易だともいわれている。


左辺値と右辺値 left value and right value

ポインタや構造体が出て来ると、代入文も複雑になる。代入文は以下のような構造をしている。
    left value = right value

s-compile.c では、left value は単純(英字一文字!)だったが、今度は配列の引数や構造体へのポインタなどを計算しなくては代入ができない。

これらは、最終的にはload/storeの機械語に落ちるはずである。つまり、どのアドレス(address)から、どれくらい(size)を loadして、どれくらいをstoreするのかを決めれば良い。

Micro-C では、i386の汎用Registerを使ってaddressを計算する。実際には、%ebxなどの3種類のポインタを使い分けている。

これらを使って、というようの代入文は実現される。PowerPCやSPARCでは、汎用のポインタがたくさんあり、それらをもっと自由に使う。ただし、局所変数を示すポインタはやはり決まっていることが多い。

left valueもright valueもアドレスを計算するところまでは同じである。そこで、Micro-C では expr はアドレスまで中間木を生成し、必要な時にrvalue()という手続きにより値をloadする中間木を生成している。もちろん、定数などはアドレスを計算しなくても直接にloadされているので、rvalue() は何もしない。

ravlue() は短いが、それを理解するためには、Micro-C の中間木を理解しなくてはならない。


Micro-C の中間木

Micro-C での木を扱う手続きには奇妙な名前をした関数(function)が使われている。

  2836	car(e)
  2837	int e;
  2838	{	return heap[e];
  2839	}
  2840	cadr(e)
  2841	int e;
  2842	{	return heap[e+1];
  2843	}
  2844	caddr(e)
  2845	int e;
  2846	{	return heap[e+2];
  2847	}
  2848	cadddr(e)
  2849	int e;
  2850	{	return heap[e+3];
  2851	}
  2852	list2(e1,e2)
  2853	int e1,e2;
  2854	{int e;
  2855		e=getfree(2);
  2856		heap[e]=e1;
  2857		heap[e+1]=e2;
  2858		return e;
  2859	}
  2860	list3(e1,e2,e3)
  2861	int e1,e2,e3;
  2862	{int e;
  2863		e=getfree(3);
  2864		heap[e]=e1;
  2865		heap[e+1]=e2;
  2866		heap[e+2]=e3;
  2867		return e;
  2868	}
  2869	list4(e1,e2,e3,e4)
  2870	int e1,e2,e3,e4;
  2871	{int e;
  2872		e=getfree(4);
  2873		heap[e]=e1;
  2874		heap[e+1]=e2;
  2875		heap[e+2]=e3;
  2876		heap[e+3]=e4;
  2877		return e;
  2878	}
  2879	getfree(n)
  2880	int n;
  2881	{int e;
  2882		switch (mode)
  2883		{case GDECL: case GSDECL: case GUDECL: case GTDECL:
  2884			e=gfree;
  2885			gfree+=n;
  2886			break;
  2887		default:
  2888			lfree-=n;
  2889			e=lfree;
  2890		}
  2891		if(lfree<gfree) error(HPERR);
  2892		return e;
  2893	}
  2894	rplacad(e,n)
  2895	int e,n;
  2896	{	heap[e+1]=n;
  2897		return e;
  2898	}

これらの関数名は、LISPというLIST処理専門に設計されたプログラミング言語から来ている。しかし、Micro-CでのLISTは、やや簡略化された形で実装されている。本来は、list2()などは、配列ではなくLISTを返すべきだ。これは Micro-Cでは8bit CPUつまり、64kbyteのメモリ空間を想定しているので、LIST(2進木)を使うことによりメモリをより多く消費することを嫌ったのだと思われる。

この(簡略化された)LIST(専門的にはcdr codingというのだが、そんなことはどうでもいいことなのだが...)の、最初の要素をcar()、次の要素をcadr()、次の次の要素をcaddr() という。(最近のLISPでは、first(), second(), third() を使うのが普通なようだ) 木には葉(leaf)と幹(node)があるのだが、car()の値によって、それらを区別している。cadr()とかの内容はcar()によって異なる。これはかなり複雑だが、実際には、car()の値によって処理を変えれば良いだけだ。

どのような中間木のノードがあるかは、list2 などをgrepしてみれば簡単にわかる。(が、かなりあるので、ここでは省略する) Micro-C では、変数の型も木で表している。したがって、式を表す木と型を表す木の二つの木を扱うことになる。型は常にtype という変数に入っている。この二種類の木は、違う構造をしているので気をつけて扱わなくてはならない。

式の方は、binop()等で生成される。ここではleft valueが生成される。binop()はかなり複雑なので、ここには載せないことにしよう。rvalue() は、それをright value(右辺値)に変換する。

  1332	rvalue(e)
  1333	int e;
  1334	{	if(type==CHAR)
  1335		{	type= INT;
  1336			switch(car(e))
  1337			{case GVAR:
  1338				return(list2(CRGVAR,cadr(e)));
  1339			case LVAR:
  1340				return(list2(CRLVAR,cadr(e)));
  1341			case INDIRECT:
  1342				return(list2(CRINDIRECT,cadr(e)));
  1343			default:return(e);
  1344			}
  1345		}
  1346		if(!integral(type))
  1347			if(car(type)==ARRAY)
  1348			{	type=list2(POINTER,cadr(type));
  1349				if(car(e)==INDIRECT) return cadr(e);
  1350				return list2(ADDRESS,e);
  1351			}
  1352			else if(car(type)!=POINTER) error(TYERR);
  1353		switch(car(e))
  1354		{case GVAR:
  1355			return(list2(RGVAR,cadr(e)));
  1356		case LVAR:
  1357			return(list2(RLVAR,cadr(e)));
  1358		case INDIRECT:
  1359			return(list2(RINDIRECT,cadr(e)));
  1360		default:return(e);
  1361		}
  1362	}
  1363	lcheck(e)
  1364	int e;
  1365	{	if(!scalar(type)||car(e)!=GVAR&&car(e)!=LVAR&&car(e)!=INDIRECT)
  1366			error(LVERR);
  1367	}

となっている。lcheck()は代入可能な値を表す中間木かどうかを決めている。ここで出て来るINDIRECTとADDRESSが、Cの配列や構造体、そして、ポインタに対応している。これらは、どういう構文で生成されるのだろうか?


indirect and reference

Cでは、以下のポインタ演算が可能である。これらは、registerに直接対応している。例えば &p は変数pのアドレスを指すregisterを生成する。*p は、その register の指し示す先を、load したり store したりするわけである。これが構文解析される部分は以下のようになっている。

  1183          case MUL:
  1184                  getsym();
  1185                  e=rvalue(expr13());
  1186                  return(indop(e));
  1187          case BAND:
  1188                  getsym();
  1189                  switch(car(e=expr13()))
  1190                  {case INDIRECT:
  1191                          e=cadr(e);
  1192                          break;
  1193                  case GVAR:
  1194                  case LVAR:
  1195                          e=list2(ADDRESS,e);
  1196                          break;
  1197                  case FNAME:
  1198                          return e;
  1199                  default:error(LVERR);
  1200                  }
  1201                  type=list2(POINTER,type);
  1202                  return e;

indop()では以下のように中間木を生成する。

  1368	indop(e)
  1369	int e;
  1370	{	if(type!=INT&&type!=UNSIGNED)
  1371			if(car(type)==POINTER) type=cadr(type);
  1372			else error(TYERR);
  1373		else type= CHAR;
  1374		if(car(e)==ADDRESS) return(cadr(e));
  1375		return(list2(INDIRECT,e));
  1376	}


array and struct

array と struct は、アドレスを考えれば、統一的に扱うことができる。例えば、a[4]というのは、a+4 というアドレスだし、a->type というのは、a の指し示す構造体ののアドレスにtypeというoffsetを足したアドレスである。実際に、expr16()では、indop()を使ってarrayとstructの中間木を作っている。Cから見た時には、すべてはアドレスと、その指し示す先の大きさでしかない。大きさは型から決まる。

  1312  expr16(e1)
  1313  int e1;
  1314  {int e2,t;
  1315          while(1)
  1316                  if(sym==LBRA)
  1317                  {       e1=rvalue(e1);
  1318                          t=type;
  1319                          getsym();
  1320                          e2=rvalue(expr0());
  1321                          checksym(RBRA);
  1322                          e1=binop(ADD,e1,e2,t,type);
  1323                          e1=indop(e1);
  1324                  }
  1325                  else if(sym==LPAR) e1=expr15(e1);
  1326                  else if(sym==PERIOD) e1=strop(e1);
  1327                  else if(sym==ARROW) e1=strop(indop(rvalue(e1)));
  1328                  else break;
  1329          if(car(e1)==FNAME) type=list2(POINTER,type);
  1330          return e1;
  1331  }
  .....
  1377  strop(e)
  1378  {       getsym();
  1379          if (sym!=IDENT||nptr->sc!=FIELD) error(TYERR);
  1380          if (integral(type)||car(type)!=STRUCT && car(type)!=UNION)
  1381                  e=rvalue(e);
  1382          type = nptr->ty;
  1383          switch(car(e))
  1384          {case GVAR:
  1385          case LVAR:
  1386                  e=list2(car(e),cadr(e) + nptr->dsp);
  1387                  break;
  1388          case INDIRECT:
  1389                  if(!nptr->dsp) break;
  1390                  e=list2(INDIRECT,list3(ADD,cadr(e),list2(CONST,nptr->dsp

)));
  1391                  break;
  1392          default:
  1393                  e=list2(INDIRECT,list3(ADD,e,list2(CONST,nptr->dsp)));
  1394          }
  1395          getsym();
  1396          return e;
  1397  }


ポインタに関するコード生成

これらの中間木はgexprによってコード生成される。

  1663  gexpr(e1)
  1664  int e1;
  1665  {int e2,e3;
  1666          if (chk) return;
  1667          e2 = cadr(e1);
  1668          switch (car(e1))
  1669          {case GVAR:
  1670                  leaxy(e2);
  1671                  return;
  1672          case RGVAR:
  1673                  lddy(e2);
  1674                  return;
  1675          case CRGVAR:
  1676                  ldby(e2);
  1677                  sex();
  1678                  return;
      ....
  1829          case ASS: case CASS:
  1830                  assign(e1);
  1831                  return;
  1832          case ASSOP: case CASSOP:
  1833                  assop(e1);
  1834                  return;

GVARがleft value、RGVARがright valuewを表している。代入文は、さらに、assign()というコード生成手続きを呼び出す。

  2014  assign(e1)
  2015  int e1;
  2016  {char *op;
  2017  int e2,e3,e4,e5,l;
  2018          op = (car(e1) == CASS ? "STB" : "STD");
  2019          e3 = cadr(e2 = cadr(e1));
  2020          e4 = caddr(e1);
  2021          switch(car(e2))
  2022          {case GVAR: case LVAR:
  2023                  gexpr(e4);
  2024                  index(op,e2);
  2025                  return;
  2026          case INDIRECT:
  2027                  switch(car(e3))
  2028                  {case RGVAR: case RLVAR:
  2029                          gexpr(e4);
  2030                          indir(op,e3);
  2031                          return;

ここで、index()がmovlやmovbを生成していることが分かる。

binop(), assign() などは、さらに細かい処理を行っているので、このあたりを読んで見るとcompilerの構文木の生成と、コード生成の実際が良く分かるはずである。特にアドレスの足し算、引き算では、特別な扱いをしていることに注意しよう。

問題1 以下のCのstatementに対応するMicro-Cの中間木と生成されるi386のコードについて考察せよ。ただし、以下のint *a; という型を仮定する。

問題2 &a = (int *)3; というのは、Micro-C ではエラーになる。なぜ、エラーなのかを説明せよ。


Shinji KONO / Mon Jan 31 09:58:32 2000