Compiler Construction Lecture 1/22

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Micro-C の全体構成

全体構成をつかみ、Cの文法を思い出しながら、個々の関数を読んでいくことにより、実際的なcompilerの詳細を理解して欲しい。自分で、すべてを理解しなくては、どんなプログラムでも完成させることはできない。あてずっぽうにコードを書いても、それは絶対に動くことはないし、それは、他のコードに影響を与え、正しい部分まで汚染してしまう。バグは避けられないものではあるが、自分で書いたコードを完全に理解していれば、どのようなバグにも対処できる。

Micor-C の全体構成


mc のコンパイル

/usr/open から Micro-C のソースをとってきてコンパイルしよう。
	cp -r /usr/open/lectures/kono/compiler/mc-intel  .
	cd mc-intel
	make


Mule の gdb mode

Mule (Emacs) には、gdb mode というのが付いている。コンパイラの動作をこれを使って調べる。

    M-X gdb 


モードに依存する文法

文法規則だけでは解釈する情報が足りない場合がある。

例えば、Micro-C では、Cの以下の宣言を一つの文法で済ましている。

これらは、mode 変数の、

    45	#define TOP	0
    46	#define GDECL	1    /* global 変数 */
    47	#define GSDECL	2    /* global struct */
    48	#define GUDECL	3    /* global union */
    49	#define ADECL	4    /* argument 変数 */
    50	#define LDECL	5    /* local 変数 */
    51	#define LSDECL	6    /* local struct */
    52	#define LUDECL	7    /* local union */
    53	#define STADECL 8    /* static */
    54	#define STAT	9    /* function の最初 */
    55	#define GTDECL	10   /* global typedef */
    56	#define LTDECL	11   /* local typedef */

によって区別されている。getsym() では、このmodeを見ながら、どの処理を変えている。ただし、このmodeによる区別はプログラムの見通し悪くするので使い方には気を付けよう。


Symbol Table

Tokenizerでは、記号の切り出しとkeywordの切り出しをおこなう。同時に、名前の登録をおこなう必要がある。実際、Tokenizerが、普通の名前、(例えば英字で始まる英数字の列などだが)に出会ったとしよう。それは、名前(name)、つまり、予約語(reserved word)か、変数名か関数名である。Micor-C では、getsym() という関数がTokenizerである。

これらは compiler 内部の表に登録されなければならない。この表を Symbol Tableという。Interpreter の場合でもSymbol Tableは必要である。Compilerが出力したコードでは、Symbol Tableは不要である。しかし、分割compile (Separate compilation)の場合は、相互のSymbol Tableを接続する必要があるので、Symbol Table そのものも出力しなくてはならない。この問題は、異なるcomputer上で分散計算を行う場合にも出て来る。

名前には様々な属性がある。例えば、ある名前はlocalであり、ある関数や、関数の一部でしか有効でない。ある名前で指し示される(実体/objectゥ)ものは、名前で呼ばれなくなった後も存在し続ける場合がある。あるいは、そのようなものを別な名前で呼びたい時もある。このような属性には以下のようなものがある。

例えば、Cだったら、scopeとextentには以下のようなものがある。

compilerにとって問題なのは変数の有効範囲であり、大域名(global)と局所名(local)が衝突した場合には大域名を優先する必要があり、局所名が有効でなくなれば、その名前を再利用する必要がある。

名前には、その名前が指すもの(object)の型がある。一つの名前には一つの型がある言語(Cはそうだ)もあるが、一つの名前を複数の型に使うことができるもの(Perlなど)もある。前者の場合は、名前を検索することにより型が分かる。しかし、後者の場合には、型は名前とは別に指定する必要がある。後者の方がどちらかといえば優れているようである。Cには以下のような型がある。

さらに、Cには、cast という概念があり、型を変換することができる。この時の構文はなかなか面白い。このあたりのcompileの詳細は、また後日、追求することにしよう。


Implementation of Symbol Table

Symbloc Table(記号表)の実装は、さまざまな方法があるが、hash tableと、stack を組み合わせるのが容易である。

localな名前は、stack上に作られる。入れ子(nest)になったものを実現する場合には常にstackを使う。localな名前が作れる度に名前はstackにつまれる。そして、compileが、そのscope(手続き、または{}(statement))から抜けると、必要な所までstackを開放する。検索を、localな名前を格納したstack そして、大域名を格納したhash tableという順番に探すことにより、Cの変数の有効範囲を実現することができる。

名前にはreserved word(予約語)が取られることがある。例えば、if, for, continue などはCの予約語である。これらの語を字句解析のレベルで切り分ける手もあるが、ユーザの定義よりも先に表に登録してしまうという手もある。すると、reserved wordかどうかは、一種の名前の型となる。 </p>

さて、Micro-CではSymbol tableは以下のように定義されている。

   168  typedef struct nametable {
   169          char nm[9];
   170          int sc,ty,dsp; } NMTBL;
   171  
   172  NMTBL ntable[GSYMS+LSYMS],*nptr,*gnptr,*decl0(),*decl1(),*lsearch(),*gse

arch();

9文字しか変数名は見ないらしい。逆に言えば、iという変数に対しても9文字分のデータが取られている。実用的にはこんなものかも知れない。GSYMS,LSYMSは、global, local の記号の最大値である。定数は、このように大文字のマクロで書くのが C 流である。sc は、たぶん、symbol class の意味で、以下のどれかである。これと ty との値で型が決まる。ty には、struct, unioon を表す木構造(tree)か INT が入る。

さて、getsym()を見てみよう。

  2520  getsym()
  2521  {NMTBL *nptr0,*nptr1;
  2522  int i;
  2523  char c;
  2524          if (alpha(skipspc()))
  2525          {       i = hash = 0;
  2526                  while (alpha(ch) || digit(ch))
  2527                  {       if (i &lt;= 7) hash=7*(hash+(name[i++]=ch));
  2528                          getch();
  2529                  }
  2530                  name[i] = '\0';
  2531                  nptr0 = gsearch();
  2532                  if (nptr0->sc == RESERVE) return sym = nptr0->dsp;

ここでは、hash table という技術を使っている。名前によって決まったrandamな値により、表を引く。このようにすることにより、randamな値が重ならなければ一度だけで記号に対応する値を取りだすことができる。2527ではhashを計算するだけで、実際の検索は、gsearch(),lsearch() でおこなう。

  2661  NMTBL *gsearch()
  2662  {NMTBL *nptr,*iptr;
  2663          iptr=nptr= &ntable[hash % GSYMS];
  2664          while(nptr->sc!=EMPTY && neqname(nptr->nm))
  2665          {       if (++nptr== &ntable[GSYMS]) nptr=ntable;
  2666                  if (nptr==iptr) error(GSERR);
  2667          }
  2668          if (nptr->sc == EMPTY) copy(nptr->nm);
  2669          return nptr;
  2670  }
  2671  NMTBL *lsearch()
  2672  {NMTBL *nptr,*iptr;
  2673          iptr=nptr= &ntable[hash%LSYMS+GSYMS];
  2674          while(nptr->sc!=EMPTY && neqname(nptr->nm))
  2675          {       if (++nptr== &ntable[LSYMS+GSYMS]) nptr= &ntable[GSYMS];
  2676                  if (nptr==iptr) error(LSERR);
  2677          }
  2678          if (nptr->sc == EMPTY) copy(nptr->nm);
  2679          return nptr;
  2680  }

このsearchは、もし表になかった場合には登録も行う。これは標準的な実装である。lsearch()とgsearch()の差はどこにあるか考えてみよう。

  2532                  if (nptr0->sc == RESERVE) return sym = nptr0->dsp;
  2533                  if (nptr0->sc == MACRO && !mflag)
  2534                  {       mflag++;
  2535                          chsave = ch;
  2536                          chptrsave = chptr;
  2537                          chptr = (char *)nptr0->dsp;
  2538                          getch();
  2539                          return getsym();
  2540                  }
  2541                  sym = IDENT;
  2542                  gnptr=nptr=nptr0;
  2543                  if (mode==GDECL || mode==GSDECL || mode==GUDECL ||
  2544                      mode==GTDECL || mode==TOP)
  2545                          return sym;
  2546                  nptr1=lsearch();
  2547                  if (mode==STAT)
  2548                          if (nptr1->sc == EMPTY) return sym;
  2549                          else { nptr=nptr1; return sym;}
  2550                  nptr=nptr1;
  2551                  return sym;
  2552          }

検索が修了すると、その後で予約語とマクロの処理を行う。どちらでもなければglobalかlocalかどちらかである。この後、その記号のscとtyが決まることになる。これらは、構文解析の途中で決定するので、そこで代入される。mode により、記号の扱いが変わることに注意しよう。


左辺値と右辺値 left value and right value

ポインタや構造体が出て来ると、代入文も複雑になる。代入文は以下のような構造をしている。
    left value = right value

s-compile.c では、left value は単純(英字一文字!)だったが、今度は配列の引数や構造体へのポインタなどを計算しなくては代入ができない。

これらは、最終的にはload/storeの機械語に落ちるはずである。つまり、どのアドレス(address)から、どれくらい(size)を loadして、どれくらいをstoreするのかを決めれば良い。

Micro-C では、i386の汎用Registerを使ってaddressを計算する。実際には、%ebxなどの3種類のポインタを使い分けている。

これらを使って、というようの代入文は実現される。PowerPCやSPARCでは、汎用のポインタがたくさんあり、それらをもっと自由に使う。ただし、局所変数を示すポインタはやはり決まっていることが多い。

left valueもright valueもアドレスを計算するところまでは同じである。そこで、Micro-C では expr はアドレスまで中間木を生成し、必要な時にrvalue()という手続きにより値をloadする中間木を生成している。もちろん、定数などはアドレスを計算しなくても直接にloadされているので、rvalue() は何もしない。

ravlue() は短いが、それを理解するためには、Micro-C の中間木を理解しなくてはならない。


Micro-C の中間木

Micro-C での木を扱う手続きには奇妙な名前をした関数(function)が使われている。

  2836	car(e)
  2837	int e;
  2838	{	return heap[e];
  2839	}
  2840	cadr(e)
  2841	int e;
  2842	{	return heap[e+1];
  2843	}
  2844	caddr(e)
  2845	int e;
  2846	{	return heap[e+2];
  2847	}
  2848	cadddr(e)
  2849	int e;
  2850	{	return heap[e+3];
  2851	}
  2852	list2(e1,e2)
  2853	int e1,e2;
  2854	{int e;
  2855		e=getfree(2);
  2856		heap[e]=e1;
  2857		heap[e+1]=e2;
  2858		return e;
  2859	}
  2860	list3(e1,e2,e3)
  2861	int e1,e2,e3;
  2862	{int e;
  2863		e=getfree(3);
  2864		heap[e]=e1;
  2865		heap[e+1]=e2;
  2866		heap[e+2]=e3;
  2867		return e;
  2868	}
  2869	list4(e1,e2,e3,e4)
  2870	int e1,e2,e3,e4;
  2871	{int e;
  2872		e=getfree(4);
  2873		heap[e]=e1;
  2874		heap[e+1]=e2;
  2875		heap[e+2]=e3;
  2876		heap[e+3]=e4;
  2877		return e;
  2878	}
  2879	getfree(n)
  2880	int n;
  2881	{int e;
  2882		switch (mode)
  2883		{case GDECL: case GSDECL: case GUDECL: case GTDECL:
  2884			e=gfree;
  2885			gfree+=n;
  2886			break;
  2887		default:
  2888			lfree-=n;
  2889			e=lfree;
  2890		}
  2891		if(lfree&lt;gfree) error(HPERR);
  2892		return e;
  2893	}
  2894	rplacad(e,n)
  2895	int e,n;
  2896	{	heap[e+1]=n;
  2897		return e;
  2898	}

これらの関数名は、LISPというLIST処理専門に設計されたプログラミング言語から来ている。しかし、Micro-CでのLISTは、やや簡略化された形で実装されている。本来は、list2()などは、配列ではなくLISTを返すべきだ。これは Micro-Cでは8bit CPUつまり、64kbyteのメモリ空間を想定しているので、LIST(2進木)を使うことによりメモリをより多く消費することを嫌ったのだと思われる。

この(簡略化された)LIST(専門的にはcdr codingというのだが、そんなことはどうでもいいことなのだが...)の、最初の要素をcar()、次の要素をcadr()、次の次の要素をcaddr() という。(最近のLISPでは、first(), second(), third() を使うのが普通なようだ) 木には葉(leaf)と幹(node)があるのだが、car()の値によって、それらを区別している。cadr()とかの内容はcar()によって異なる。これはかなり複雑だが、実際には、car()の値によって処理を変えれば良いだけだ。

どのような中間木のノードがあるかは、list2 などをgrepしてみれば簡単にわかる。(が、かなりあるので、ここでは省略する) Micro-C では、変数の型も木で表している。したがって、式を表す木と型を表す木の二つの木を扱うことになる。型は常にtype という変数に入っている。この二種類の木は、違う構造をしているので気をつけて扱わなくてはならない。

問題1 以下のCのstatementに対応するMicro-Cの中間木と生成されるi386のコードについて考察せよ。ただし、以下のint *a; という型を仮定する。

問題2 &a = (int *)3; というのは、Micro-C ではエラーになる。なぜ、エラーなのかを説明せよ。


Shinji KONO / Sun Jan 21 07:57:53 2001