第七話 もう少し早ければ 


  玄馬:「良いか乱馬。いかなる場合、いかなる時においても無差別格闘早乙女流は、修業を怠るなど
      断じて許されんのだ。それが例え、戦国時代においてもだ。」

  乱馬:「ごたごた言ってねーで、さっさと始めよーぜ親父。」

  玄馬:「うむ。では、行くぞ乱馬っ!」

  乱馬:「おうっ!」

     早朝の広々とした屋敷の庭に早乙女親子の威勢の良い声が響き渡る。

  九能:「朝早くからやかましい親子だ。」

  良牙:「まったくだぜ。村を救ったお礼で泊めてもらったとはいえ、少しは礼儀というものを知らんのか。」

     早乙女親子の朝早くからの稽古に対して呆れ気味な二人であった。そこへ、奥の方からやってきた
     あやねが声をかける。

 あやね:「まぁ、こんなに朝早くから稽古ですか。もう少しゆっくりしてくださればよろしいのに。」

  九能:「これはあやね殿、この様な朝早くからとんだご迷惑を。」

 あやね:「いえいえ、あなた方は妖怪から村を救ってくれた恩人です。迷惑だなんてとんでもない。
      逆に感謝していますよ。本当に昨夜はありがとうございました。」

     「ありがとう」と礼を言い深深と頭を下げてあやねは感謝の気持ちを表した。

  良牙:「いいですよそんな。ところであやねさん、何か用でも?」

 あやね:「そうでした。実は・・・。」

シャンプー:「あやね、良い所に来た。ちょっとこっちに来るね。」

     突然シャンプーが襖を開け、あやねの腕を引っ張って部屋へと連れこんでいった。

 あやね:「あ、あの、ちょっと!?」

シャンプー:「いいから、ちょっと来るよろし。」

     あやねを部屋へ入れると大きな音を立てて襖を閉めた。

  良牙:「何だったんだシャンプーのやつ?」

  九能:「さぁな、あの女の考える事はよく分からん。」

 ムース:「こりゃ、お前達。礼儀がどうとか言うよりも、自分で使った布団くらい片づけたらどうじゃ。」

     呆けていた二人に向かって、布団をたたみながら告げる。

  良牙:「お前に言われんでも分かっとる。九能行くぞ。」

  九能:「ふっ、本来なら佐助に任せるところだがこの場合仕方ないな。」

     ムースに言われ渋々布団を片しに部屋へ入る二人であった。



 あやね:「私は何をお手伝いしたら良いのですか?」

シャンプー:「私がこれを着るのを教えて欲しいね。」

      シャンプーは淡い青色をした着物を手にとって見せた。

シャンプー:「私,着物着たことないから着付けが分からない。教えててくれるか?」

 あやね:「はい、それぐらいのことでしたらお安いご用です。私がお着せしますからしっかり覚えてくださいね。」

シャンプー:「わかたね。でも、ゆっくりやってくれるか?」

 あやね:「ふふっ、わかりました。」

     あやねはゆっくりとシャンプーに着物を着せていくその手つきは見事なもので、ゆっくり着せているのにも
     かかわらず、10分程度で仕上げてしまった。

シャンプー:「あっという間だたな。ところで、この着物私に似合ってると思うか?」

 あやね:「はい、とても良く似合っておりますよ。」

シャンプー:「本当か、大歓喜!。早速乱馬に見せるね。乱馬ぁ♪」

     嬉しそうにシャンプーは勢い良く襖を開け、乱馬のところへ駆けて行った。



  早雲:「早乙女く~ん。碁盤と碁石借りてきたから碁でもしないか?」

     早雲は碁盤と碁石を持ち、乱馬と朝稽古中の玄馬に声を掛ける。

  玄馬:「お、良いねぇそれ。朝飯の前の一勝負といくか。と言う訳で乱馬、今日の稽古はここまでじゃ。」

  乱馬:「ちょっと待てよ親父。まだ、いつもの半分しかしてねーだろ。」

  玄馬:「後はお前の好きにせい。わしはこれで。さぁ天道君、始めるとしようか。」

     庭に面した廊下で碁の用意をしている早雲のところへ向かっていった。

  乱馬:「ちぇっ、それじゃあ代わりに良牙とでも稽古すっかな。」

シャンプー:「乱馬ぁ!」

  乱馬:「シャンプー!?ったく、いきなり引っ付いてくんじゃねぇ!」

     突然抱き着いてきたシャンプーを振りほどく。

シャンプー:「乱馬、この着物似合ってると思うか?」

     シャンプーはくるっと一回まわって着ている着物を見せた。

  乱馬:「あぁ、良いんじゃねーか。似合ってるぜ。」

シャンプー:「大歓喜!!私、乱馬にそう言ってもらえると嬉しいね!」

     再びシャンプーが乱馬に抱き着いてくる。

  乱馬:「だから、引っ付いてくんじゃねぇっての!」

 ムース:「何やってるだ乱馬。おらのシャンプーから離れるだ!」

     シャンプーにべたべたしている?乱馬に、今度はその様子を目撃したムースがいきなり飛びかかってくる。

  乱馬:「ムース!?落ち着けって、シャンプーの方から抱き着いてきたんだって。」

 ムース:「言いわけ無用じゃー!乱馬、今日こそは覚悟するだ!!」

     怒りに燃えるムースは数々の暗器を投げつける。乱馬はそれをいとも簡単に避けてしまうが
     いくつかが避けきれず、手足に引っかかって身動きが取れなくなる。

  乱馬:「しまったっ!」

 ムース:「今じゃ!!」

     ムースは乱馬の頭上高くに飛びあがり、足に付けた鷹の爪にみせた鉤爪で襲いかかろうとした。

 ムース:「くらえ乱馬!秘技鷹爪拳・・・って何するだシャンプー!?どぉわ!」

シャンプー:「私の乱馬にちょっかい出す、許さないねムース。」

     何処から取り出したのかバケツでムースに水を掛ける。水を被りアヒルとなったムースは
     ガァガァ言いながらシャンプーの足元に近づいてきた。

シャンプー:「前から言ってる通り、私お前と付き合う気など全然ないね。ふんっ。」

 ムース:「ぐぁーーん!!」

     いつもの事ながらシャンプーに冷たくあしらわれたムースはショックの余り泣き伏せてしまうのであった。

  乱馬:「(はぁ~、ムースのやつがもっとしっかりしてくれりゃ、おれもシャンプーに付きまとわれなくて
       済むんだけどなぁ。この様子じゃ無理な話か。)」

シャンプー:「邪魔なムースこれで静かになったね、これから私とデートするよろし♪」

     案の定、シャンプーは乱馬をデートに誘うのであった。

  乱馬:「デートなんてしねぇよ。第一、何処でデートなんかすんだ?それに、おれはこれから朝稽古の続きを
      するから、親父の代わりに良牙を呼んでくんだよ。じゃあな。」

シャンプー:「乱馬、待つね!」

     乱馬は良牙を呼びに部屋へと走っていった。その後をシャンプーが追っていく。

   男:「に、人間が、アヒルになった・・・。まさか、妖怪!?こ、これは、旦那様に知らせなくては!」



     どたどたとを走る足音が静かな廊下中に響く。そして、とある部屋の前につくと息を切らしてその部屋へ
     声もかけずにいきなり入って行った。

   男:「だ、旦那様!た、大変でございます!」

  地主:「ん、薫か。全く騒々しい。どうしたそんなに慌てて、何が大変なのか言ってみろ。」

     布団からまだ眠たそうな様子で起きあがり、その薫と言う男から聞き出す。

   薫:「は、はい。実は、あの一行の中に・・・。」

     呼吸を整えながら先ほど目撃したムースの変身のことを話した。

   薫:「・・・と言うわけなのです。ですから、一刻も早くあの物達を追い出すべきかと。」

  地主:「はっはっは、馬鹿を言え。あの方々が妖怪であったのなら、わし等は昨夜のうちに襲われておったわ。
      お前の見間違いであろう。さぁ、もたもたしとらんで食事の用意をせい。それと、仕度が整ったら
      あやねにあの方々を呼んでくるように伝えておけ。」

   薫:「し、しかし・・・、分かりました。では失礼いたします。」

     もうこれ以上何を言っても聞き入れてはくれないと悟り、部屋から出ていった。

   薫:「(たしかに、あの男はアヒルになったのだが・・・。)」







 犬夜叉:「んぁ、もう朝か?ったく、いつの間に寝ちまったんだ。」

     ぽりぽりと頭をかきながら気だるそうに起きあがった。

 かごめ:「犬夜叉、起きるの遅~い!みんなもう待ちくたびれちゃってるわよ。」

     後ろからかごめが怒った口調で言いながら近づいてきた。

 犬夜叉:「かごめ。なぁ、どうしておれ、こんなとこで寝てたんだ?」

 かごめ:「え、昨夜の事覚えてないの?」

 犬夜叉:「ああ、ばばぁの後ろを取ったまでは覚えてんだけど。う~ん、その後からは・・・・・。」

     ふだん使わない頭を駆使して昨晩起こったことを懸命に思い出そうとしている。

 かごめ:「本当に覚えてないみたいね。いいわ、何があったか教えたげる。昨日あんたはね・・・。」

     かごめは犬夜叉に昨日何があったかを説明する。その話の内容と言うのがこうだ。
     一旦は諦めがついた犬夜叉は、右京の作ったお好み焼きを七宝と大食い競争の様に競っていたが、
     食事が終わりしばし休んでいるとやはりまだ納得がいかないのか、再びコロンに挑んだのだった。
     しかし、何度やっても軽くあしらわれていた。そのうち、相手をするのが面倒になってきたコロンが、
     背後に隙を装い攻撃を誘い、寸でのところでそれを避け首筋に一撃を加えて犬夜叉を気絶させたので
     あった。その後は朝まで弥勒が犬夜叉の代わりに見張りをし、他の者は眠りについたのであった。

 かごめ:「・・・・・と言うわけ。分かった?」

 犬夜叉:「つまりおれは、あのばばぁに負けたままなんだな。くっ、もう一度勝負してやる!今度こそ負けね・・・。」

  弥勒:「いい加減にしなさい!コロンさまはお前が勝てる相手ではありません。昨日あれだけやられておきながら
      まだ分からないのですか?」

     弥勒は錫杖で犬夜叉の頭を殴りつける。犬夜叉は余りの痛さに頭を押さえしゃがみ込む。

 犬夜叉:「ってぇ~なっ!!何しやがんだ弥勒!?」

  弥勒:「ですから、これ以上やっても無駄だと言っておるのです。」

 犬夜叉:「それじゃあ、何か?おれがあの老いぼればばぁよりも弱いってのか?」

  弥勒:「はい。」

     犬夜叉の問いに対して弥勒はあっさりと即決で答える。

 犬夜叉:「なんだとぉ!?」

  弥勒:「落ち着きなさい。私はお前がコロンさまよりも弱いとは思っていません。だが、一撃も入れられなかった。
      これは、単にお前の経験不足です。だから、お前もコロンさまに劣らぬほどの経験を積むのです。」

 犬夜叉:「んな事言ったって、経験なんてすぐに積めるもんじゃないぞ。」

  弥勒:「そこでです。手っ取り早く経験を積むために犬夜叉、お前コロンさまに稽古をつけてもらいなさい。」

     犬夜叉はその提案を聞くと、すぐさま反発にする。

 犬夜叉:「なんでおれがあんなばばぁに教わんなきゃならねーんだ!冗談じゃねーぜ。」

  弥勒:「しかし犬夜叉。お前が人間に戻る間の事を考えると得策ではないか?」

     犬夜叉の最も弱い部分を突いた。それを聞くと犬夜叉も考えるしかなくなってしまう。

 犬夜叉:「そ、そりゃそうだけどよ、おれはあんなばばぁなんぞに教わるのは真っ平ごめんだぜ。」

 かごめ:「いいじゃない、教われば。強くなれるんでしょ?」

  弥勒:「かごめさまの言う通りです。強くなれるならいいじゃないですか。」

 犬夜叉:「勝手な事をぬかすんじゃね~!おれは絶対あんなばばぁから教わんねーからな。」

     かごめと弥勒は稽古をつけてもらう様に勧めるが、犬夜叉はそれを断固として拒否した。

 あかね:「ねぇ、三人とも何してるの?早く行きましょうよ。」

     待ちくたびれてあかねが三人のことを呼びにきた。

 かごめ:「ごめ~ん、すぐ行くから。この事は後でって事で、早く行って用を済ませよ。」

  弥勒:「そうですな。早く行ってとっとと退治して参りましょう。犬夜叉の事はその後でも良いですし。」

     ふたりはそう言うと犬夜叉をおいてさっさとあかね達がいる所へ戻っていった。

 犬夜叉:「ちょっ、ちょっと待てよ!いいか、おれは絶対にだな、あんなばばぁなんぞにって聞いてんのか!?
      おれは絶対に教わんねーからな!」



 あかね:「ねぇ、さっき何の話してたの?」

     今は移動中であり、一行は川沿いの街道を歩いていた。

 かごめ:「あ、それはね。犬夜叉にコロンばあちゃんに稽古つけてもらえばって話してたの。でも、あいつったら
      強がっちゃって話を聞かないのよ。おれは弱くね~!ってさ。」

 あかね:「へぇ~、。でも、おばあさんには敵わなかったけど、犬夜叉って十分強いと思うわよ。」

 かごめ:「そうかしらねぇ?」

      二人はチラッと犬夜叉のほうを見る。犬夜叉はその一瞬の視線にも過敏に反応する。

 犬夜叉:「おいおめぇら、何見てんだよっ?」

 かごめ:「あ、うん。ちょっとね。」

 犬夜叉:「ふん、まぁいいや。ところでよぉ弥勒、あとどれくらいで着くんだ?」

  弥勒:「そうですねぇ、向こうが午の方角ですから・・・多分前方の山を越えたところでしょう。」

     弥勒は前方に聳え立つを指差しながら言った。しかし、それに珊瑚が異議を唱える。

  珊瑚:「それ違うよ法師さま。あっちの山の向こうだよ。」

  弥勒:「そうでしたか?確か私はあちらの方角と聞いたのですが。」

 犬夜叉:「おい、どっちなんだよ?まさか、忘れたんじゃねーだろうな。」

     どちらの方向かもめている二人に犬夜叉は、恐る恐る尋ねる。

  弥勒:「・・・・・・珊瑚、雲母を使って空から・・・」

 犬夜叉:「忘れたのかっ!?何を聞いてやがったんだ!?」

  弥勒:「まあまあ、雲母を使えばすぐわかる事です。良いじゃないですか。」

     突っかかってくる犬夜叉をなだめながら、珊瑚に目で訴える。

  珊瑚:「・・・しょーがないね。雲母行くよ、おいで。」

  雲母:「ミィー。」

     珊瑚に呼ばれるとすぐさま駆け寄ってきた。

  珊瑚:「みんな、待ってて。すぐ戻ってくるから。特に犬夜叉、大人しくしてるんだよ。」

 犬夜叉:「けっ、お前こそすぐ戻ってこいよ。」

     雲母に乗りこみ、村のある方角を確かめに向かっていった。

  右京:「うちら、乱ちゃん達を見つけられるんかな?」

 コロン:「さぁな。」



  乱馬:「お、うまそぉ!良牙との朝稽古でもうすっげー腹へってたんだ。いっただっきま~す!」

     乱馬たちはあやねに案内され、大きな広間へと連れてこられた。そこには、人数分の食事が用意
     されていた。乱馬は早速、並んでいる天道家では滅多にいや、絶対に食べれないほどの豪華な御膳を
     豪快に食べ始める。その姿からは、礼儀と言う言葉は見当もつかない。

  玄馬:「こりゃ、人様の前でみっともない姿をするな。父は悲しいぞ。」

  乱馬:「うっせーな、人の食べ方にけちつけんじゃねーよ。」

     乱馬は、既に食べ終わった食器の一つを投げつける。その皿は見事、玄馬の頭に命中した。

  玄馬:「ふっ・・・乱馬よ。貴様がそう出るなら、わしはこうじゃ!」

     箸を構え、乱馬の御膳からまだ手をつけていない無傷のおかずをさらっていった。

  乱馬:「てめぇ、おれが楽しみにしていたおかずを・・・。返しやがれっ!」

  玄馬:「わっはっは、息子の物は父の物、父の物は父の物じゃ。とり返したくば、取ってみよ。」

  乱馬:「上等じゃねーか、いくぜっ!」

     おかずを奪い返すために玄馬と箸で格闘する。これは天道家朝の二大風物詩だ。

  九能:「本当にやかましいやつらだ。落ち着いて食事も出来ん。」

  良牙:「おれは、いつも一人で食っていたから賑やかな食事は心休まるが、あの親子の場合は別だ。」

 ムース:「全くじゃ。何とかならんのだか?」

     そう文句を言う割には、平然として朝食を済ましている。

  早雲:「すまないねぇ、みんな。その内治まるから気にしないでおくれ。」

シャンプー:「乱馬、ファイトね♪」

     にぎやかなのか、ただ単に騒々しいだけなのか良く分からないその食事のさまを使用人達は
     ただただ、唖然としてみているだけだった。その中の一人である薫は、じ~っとムースの事を
     睨みつづけていた。

   薫:「(絶対に見間違いなんかじゃない。あいつは絶対に妖怪なんだ。そしてこの一行も・・・。)」

  地主:「薫、ぼさっとしておらんで、追加の料理を持ってこないか。あれでは、足りんぞ。」

   薫:「はい、すいません。すぐにお持ちいたします。」

     地主に言われ、慌てて食事を運び、乱馬たちに近づいていった。

   薫:「・・・。(参ったなぁ~、こんなに近づいて平気かな?)あの~、これもどうぞ。」

シャンプー:「すまないな。ん、お前いくつだ?ずいぶん若い様に見えるが。」

   薫:「え?あ、はい。若いって程でもありませんよ、今年で十三ですし。」

     戦国時代なので十三歳といえば、現代とは違い立派な大人である。

シャンプー:「十三!?あいや~、まだ子供なのに、そんなに働かされて平気なのか?」

   薫:「し、失礼な!十三といえばもう立派な大人です。馬鹿にしないで下さい。」

  九能:「ふっ、ここは戦国時代なのだ、現代とは違うのだよ。」

     はじに座って落ち着いて食事をしていた九能がボソッと呟く。

シャンプー:「そう言えばそうだたな。え~っと・・・名前は?」

   薫:「僕の名前は薫です。ここの屋敷の使用人をしています。」

シャンプー:「そうか、悪かたな薫。」

     シャンプーは軽く笑顔を浮かべた。その愛らしい笑顔に薫は一瞬ドキッとしてしまった。

   薫:「(か、可憐だ・・・。はっ、いかんいかん。相手は妖怪の仲間なんだ。)」

 ムース:「何赤くなってるだ?まさか、おらのシャンプーに惚れたのではないじゃろうな!?」

     シャンプーの隣にいたムースは薫の肩を掴む。しかし実際には、反対に座っていた早雲の肩であった。

  早雲:「あのねぇ、君。そっちだよ、そっち。」

 ムース:「ん?これは、失礼しただ。シャンプーはおらの嫁だ。誰にも渡さ・・・。」

     言い終わる前にムースの顔面にシャンプーの拳が入る。

シャンプー:「何ふざけたこと言うか。私の婿は乱馬だけね。乱馬♪」

  乱馬:「シャンプー!?いきなり抱きつくなよ。」

 ムース:「そんなぁ~、どうしておらの愛がわからんのじゃ。」

  玄馬:「隙あり、もらったぁ!どわぁっはっはっはぁ。」

     玄馬は一瞬の隙をついて乱馬からおかずを奪った。

  乱馬:「てめぇ、またおれのおかずを。もう許さねぇ!」

     乱馬はついに頭にきて玄馬を庭にある池めがけて蹴り飛ばした。玄馬が飛びこみ、しばらくすると
     パンダの姿になって現われた。

  玄馬:「(それが実の父に対してする事か?)」

  乱馬:「うっせ~、そう言う事言う前にもっと親らしい事をしやがれってんだ。」

  玄馬:「(それならば・・・、こうしてくれるわぁ!)」

     そう書いてあるプラカードを片手に玄馬は、どこからかバケツを取りだし、乱馬に水をかける。水を被った
     乱馬は赤毛の可愛らしい女の子に姿を変えた。

 らんま:「いきなり何しやがんだ!?つめてーじゃねーか!」

シャンプー:「ニィ~。」

 らんま:「ひぃっ、ねこぉ~!!」

     隣にいたシャンプーにも水がかかり、猫に変身していたのだった。

  九能:「おお、おさげの女ではないか!お前も戦国時代へと連れてこられたのだな?」

 らんま:「ひぃ~、抱きつくなっ!気色悪い。」

     乱馬とらんまが同一人物だと理解できない九能は、らんまに抱き着こうとする。がしかし、いつも通りに
     気色悪いとされて顔面に蹴りを入れられる。蹴りを入れた直後に猫シャンプーがらんまの顔にへばりつく。

シャンプー:「ミィ~♪」

 らんま:「・・・・・・・・・・!!!!」

     顔にシャンプーが飛びつき、らんまは言葉にもならない叫び声を上げ、そのまま気絶してしまった。

   地主:「これは、一体・・・?」

     突然の出来事に唖然としてしまい、言葉が出なかった。

   薫:「だ、旦那さま!やはりこやつらは妖怪の類いだったのです。今も見ましたでしょう!?」

  地主:「ああ、確かにお前の言うとおりだった・・・。こやつらは、妖怪じゃ!今すぐ追い出すのだ。
      者ども、であえっ!」

     そう言うと、隣の座敷から刀や槍と言った武器を持った、いわゆる用心棒らしい男達が出てきた。

  良牙:「一体何のつもりだ!?」

  地主:「ええい黙れ!この妖怪どもが、よくもわしを騙してくれたな。」

 ムース:「おらたちが妖怪じゃと?何を馬鹿なことを言っておるだ。」

   薫:「男が女に、人間が猫や白と黒の熊になっているんだぞ。これが妖怪と呼ばずしてなんと言う。」

     気絶しているらんまやシャンプーを証拠として指差しながら言う。

  地主:「そう言うわけだ。だが、妖怪とは言え、お前らは村を救ってくれた恩人だ、手荒なまねはしたくない。
      このまま黙って村から出ていってくれ。」

  良牙:「何を言ってやがる、そんな言い方されて黙って出ていけるか!」

 ムース:「そうじゃ、貴様らなんぞに妖怪呼ばわりされる筋合いはねーだ!」

      良牙とムースは一歩前に踏み出る。すると、すかさず武器を持った男共はいっせいに構える。

  早雲:「良牙君、ムース君。ここは、大人しくしたがった方が良い。」

  良牙:「ですが・・・。」

  早雲:「いいんだ。それに、この状態は多勢に無勢。ただでは済まんだろう。」

     前方に武器を構える男たちを見ながら良牙とムースをなだめる。

 ムース:「分かっただ。ここは、天道あかねの親父殿に任せるだ。」

  良牙:「仕方ねー。おい、いくぞらんま。」

     気絶しているらんまを背負い屋敷の庭に出る。

  九能:「貴様っ!僕のおさげの女に何をするか!?」

  良牙:「気絶してっから、運んでやるだけだ。お前もぼさっとしてないでいくぞ。」

     人一人背負ってるにもかかわらず、軽い身のこなしで塀を飛び越える。

  九能:「まて、おさげの女は僕が運ぶ。」

シャンプー:「ニィ~。」

 ムース:「待つだシャンプー、おらも行くだ。」

     続いて、二人と一匹が軽く塀を飛び越えていく。

  早雲:「では、失礼する。行くよ、早乙女君。」

  玄馬:「・・・・・。」

     玄馬は黙々とまだ手の付けられていない食事を食べていた。

  早雲:「何やってるの早乙女君。わしらも行くよ。」

  玄馬:「ぱふぉ~~。(まだ、残ってるのに~。)」

     まだ残っている食事に名残惜しそうにしている玄馬を引っ張り、塀の向こうへと出ていった。

   薫:「これで、もう安心ですね旦那さま。」

  地主:「う~ん、果たしてそうなのだろうか?」

   薫:「え?」

  地主:「いや、何でもない。ほれ、あと片づけをさっさとせんか。」

   薫:「は、ハイ。ただいま。」

     慌てて、乱馬たちが食い散らかした跡を片づけに行く。

 あやね:「あの、旦那さま。私にはどうしてもあの方々が妖怪とは思えないのですが。」

  地主:「わしにもそれはわからん。分からないからこそ出ていってもらったのだ。」

 あやね:「さようですか。」

     あやねは何かこう、やるせない気持ちで乱馬達が越えていった塀をただ見つめていた。




 犬夜叉:「はぁ~、やっとついた。もう昼になっちまったぜ。」

  弥勒:「無事についたのですから良いではないか。」

 犬夜叉:「あのなぁ~、誰のせいででこうなったんだと思ってんだよ。」

 かごめ:「そんな事は後で良いから、どこかに話を聞きに行きましょうよ。」

     絶妙のタイミングで間に入り話題を変える。

  弥勒:「そうですな、とりあえずそこの家の人に聞いてみましょう。」

 かごめ:「そうね。でね、お願いがあるんだけど・・・。」

  弥勒:「はい、何でしょうか?」

     かごめは前からある事を考えており、それを実行するために今回の件は弥勒・珊瑚・犬夜叉の三人で
     行ってもらうように頼み込んだ。

 かごめ:「おねがい!この機会を逃すと当分出来そうもないのよ。」

  弥勒:「それは構いませんが・・・。」

 かごめ:「ほんとっ!?やったー、それじゃあ後よろしくね!」

     かごめは了解を得て、嬉しそうに駆けて行く。

  弥勒:「ですがかごめさま、四魂の玉を探すときは頼みますよぉ!」

 かごめ:「わかってるって!」

     そう言い返すとかごめは、あかね達のところへ向かっていった。

  珊瑚:「どうしたのかごめちゃん?」

  弥勒:「なんでも、今のうちに勉学に励むそうで。」

 犬夜叉:「四魂の玉よりもガッコウってのが大事なんだとよ。」

     皮肉たっぷりに言い放つ。

  弥勒:「かごめさまも大変なのです。ここはかごめさまの望む様にさせてあげましょう。」

  珊瑚:「そうだね。それじゃ、私達でがんばろうか。」

 犬夜叉:「っけ。」



 かごめ:「あのね、二人にお願いがあるんだけど良いかな?」

 あかね:「私にできることなら良いわよ。」

  右京:「うちも、出きる事ならええで。」

 かごめ:「本当っ!?ヤッター!」

     かごめはふたりの言葉を聞き、とても喜んだ。

  右京:「で、そのお願いってなんや?」

 かごめ:「それはね、今年高校受験だから勉強を教えて欲しいの。私ってしょっちゅうこっちの時代に
      いるから、学校の授業に出れなくて。おねがいっ!」

     そうある事とは、あかねと右京に勉強を教えてもらう事だったのだ。かごめはせっかく高校生が
     側にいるのだから教えてもらわなければ損だと考えていたのだ。

 あかね:「な~んだ、そんな事か。お安いご用よ、任せなさい。」

 かごめ:「ありがとうあかねさんっ。」

  右京:「うちにはそれ、出来ひんわ。」

     右京は顔を少し青ざめてかごめの頼みを拒否した。

 かごめ:「え、どうして?」

  右京:「うち、他人に教えられるほど成績良くないんよ。だからごめんな。」

     手を合わせてかごめに謝った。

 かごめ:「いいですよ。私が無理言って頼んだんだから。」

 あかね:「右京、かごめちゃんは私に任せて。責任持って右京の分までみっちり教え込むから。」

 かごめ:「あかねさん、あまり厳しくしないで下さいよ。」

 あかね:「わかったわ♪で、何から始める?」

 かごめ:「え~っとねぇ、じゃあまずこれからお願い。」

     かごめは近くの木陰であかね先生による個人授業をはじめた。まずは、苦手で補習を受けまくっている
     数学からはじめる様だ。一方の右京はその後、七宝に頼まれお好み焼きを作っていた。



 犬夜叉:「何ぃ~!?それじゃあ、何か?その武道家の一行がもう退治しちまったのかよ。」

     村人に聞きこみを開始して一件目、犬夜叉は思いもよらぬ情報に腹を立てる。

  弥勒:「で、その武道家たちはどこへ?」

  村人:「はい、多分まだこの辺りの地主様の屋敷に泊まられてると思います。」

 犬夜叉:「その、地主の屋敷はどこだ!?」

     犬夜叉は村人の服を掴み強引に聞き出そうとする。

  珊瑚:「犬夜叉止めな。怖がってるじゃないか。」

 犬夜叉:「あ、すまねぇ。で、どこなんだ屋敷の場所は?」

  村人:「は、はい。この村のはずれの高台のところです。」

 犬夜叉:「よしっ、早速その屋敷に行くぞ。」

     威勢良く、勝手に屋敷の方へ飛び出していった。

  珊瑚:「待ちな犬夜叉!」

  弥勒:「お教え下さりありがとうございました。お前達、私を置いていくな!」

  村人:「なんだったんだ、一体?」

     呆然として走っていく三つの後ろ姿をしばらく見つづけた。



 犬夜叉:「ここが、そうだな。」

  珊瑚:「その様だね。一体どんな集団なんだ?」

  弥勒:「はぁはぁはぁ、お前達、私を置いて、先に行くな。」

     後から行きを切らして弥勒がやってきた。

 犬夜叉:「おめぇがちんたらしてんのが悪ぃんだよ。ほら、行くぜ。」

     犬夜叉は勝手に門を開け中へと入って行った。

  弥勒:「こら、先に行くなと言っておろうが。」

     その後に弥勒と珊瑚もしょうがなくついて行く。しばらく屋敷の中を歩いていると
     一人の若い女性が現われた。

 あやね:「何ですかあなた方は?勝手に人の屋敷に上がるなんて。」

  弥勒:「おぉ、これはとんだ失礼を。私達はこの村の妖怪を退治しに参りました妖怪退治の者です。」

     弥勒は相手が若い女性なのでいつもの様に目を輝かせる。

 あやね:「そうでしたか。それで、ここへはなぜ?」

  弥勒:「はい、村についた我々は早速、村の衆に聞いてまわったのですが、どうも既に退治されたと聞きました。
      そこで、誰がやったのか尋ねてみたところ、ここに泊まっている武道家のご一行がそうだと申したので
      どんな方々なのか一度披見しようと思いましてやって来ました。」

 あやね:「はぁ、でも残念ですが、その方々はもうこの屋敷には居りません。」

     あやねは申し訳なさそうにして言う。  珊瑚:「それはどうしてだい?」

 あやね:「そ、それは・・・・・。」

   薫:「あいつらは妖怪だったんだ。だから追い出してやったんだよ。」

     あやねの後ろから生意気そうな少年が出てきた。

 犬夜叉:「なんだよそれ。この村を救った連中なんだろ?妖怪が村を救うわけがねーだろ」

   薫:「いいや、あいつらは妖怪だ。この屋敷の人間はみんな見たんだ。」

  珊瑚:「一体何があったんだい?話しておくれよ。」

     珊瑚は薫から何があったのか聞き出す。

   薫:「それはだな、あいつらの中の・・・・・。」



  弥勒:「かごめさま~。」

 かごめ:「あ、戻ってきた。お~い、どうだった~?」

     かごめはあかねに勉強を教えてもらうのを中断し、戻ってきた犬夜叉達の方へ向かっていく。

  珊瑚:「それがね、あたし達が来る前にもう退治されてたんだよ。」

 かごめ:「へぇ~、そうだったの。じゃあ、四魂のかけらはどうなってるの?」

 犬夜叉:「それはだなぁ、その退治しってた奴らが持っていっちまったんだよ。っちっくしょ~!
      もう少し早く到着してれば手に入れられ物を。」

     犬夜叉は悔しそうに地団駄を踏みながら言う。そこへ、あかねと右京もやって来る。

  右京:「どうしたんや?」

 あかね:「何か問題でもあったの?」

 かごめ:「ううん、何でもない。大丈夫だから心配しないで。それで法師さま、その人たちの特徴は?」

  弥勒:「それですがどうもその連中は妖怪らしいのです。聞いた話では、男から女になる者や女から猫になる者
      男からアヒルになる者と男から白と黒の珍しい熊になる者がいると言ってました。他にも、髪の長い
      中年の男や木刀を持った男や八重歯が目立つ男がいるらしいです。」

     弥勒からその人物像をきいたあかねと右京はある人物が浮かびやがってきた。

 あかね:「(ねぇ、右京これってもしかして・・・。)」

  右京:「(そやね、きっと乱ちゃんたちに違いないわ。)」



 (第七話・完)



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