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From: Hideaki Iwata 
Newsgroups: fj.soc.copyright
Subject: Re: 法30条と49条の関係
Date: 25 Aug 2000 14:58:05 +0900
Organization: Center for Information Science, Wakayama University
Lines: 243
Message-ID: < m3itspopaq.fsf@dolphin.eco.wakayama-u.ac.jp> 
References: < 39A3EED1.561E0E8D@af.wakwak.com>  < 200008242105266.EwVflMHw7@pin.tky.plala.or.jp> 
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Xref: ie.u-ryukyu.ac.jp fj.soc.copyright:11566


ひで@和大、です。
岩田説から離れて、49条の解釈論に的を絞ります。
でもあいも変わらず長いです。

# 岩田説を強調したってあまり面白くありませんからね:-)

私>  大体、49条と30条の関係を考える場合、49条は30条がいうところの
私>  「私的使用目的で複製された著作物」が、結果的に目的外使用された
私>  場合、当該著作物は30条に基づく複製物とは見なさない(つまり目的外
私>  使用である)、と宣言している条項だと私は認識しています。

Richter ABC  writes:
>      そもそも、ここが間違っています。
>  
>      まず、21条は、著作者に複製権を占有させています。そして、30条は、そ
>      の複製権の範囲を画する規定です。
>      つまり、著作者が専有する複製権は、元々、30条の適用を受ける複製行為に
>      は及ばないのです。
>      著作者がすべての複製について専有権を有していて、例外として恩恵的に30
>      条に該当する場合に複製を認めてやっているというものではありません。

違う(というか、ニュアンスの違いがある)と思いますよ。

まず、複製権については、21条により「著作者は、その著作物
を複製する権利を専有する」。

# 細かいことですが、法律的には「専有」と「占有」は違った
# 意味を持ちます。タイポだと思いますが、一応、念の為。

続いて「著作権の制限」の30条(私的使用のための複製)に
よって、私的使用目的の場合は、「その使用する者が複製す
ることができる」、となっていますよね。

30条から50条は、一般に著作権の制限事項として知られています。
この項目に合致する場合は、それ以前に定められた著作権が制限
される、と考えるのが一般的です。

だからこそ、「第二章 著作者の権利」は次の様な構造になって
います。

 第一節 著作物(第十条−第十三条)
 第二節 著作者(第十四条−第十六条)
 第三節 権利の内容
  第一款 総則(第十七条)
  第二款 著作者人格権(第十八条−第二十条)
  第三款 著作権に含まれる権利の種類(第二十一条−第二十八条)
  第四款 映画の著作物の著作権の帰属(第二十九条)
  第五款 著作権の制限(第三十条−第五十条)

# 半田先生は著書の中で第五款を「著作権の公的限界」と称さ
# れていますけどね。

>      他方、49条1項は、複製行為に該当しない頒布(公衆への譲渡又は貸与)及
>      び公衆への提示について、上記のように認められている著作者の複製権を実質
>      的に保障するために特に複製とみなすことにしている規定です。

違います。第四十九条では「次に掲げる者は、第二十一条の複製を
行つたものとみなす。」と明確に書かれています。

一 第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第三十七条第二項、
   第四十一条、第四十二条又は第四十四条第一項若しくは第二項に定める
   目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作
   物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示
   した者 

つまり、第三十条第一項に定められた目的(つまりは私的使用目的)以外
の目的の*ため*に、もともとは30条に則って複製された複製物を頒布し
たり公衆に提示したりする者は、複製権を侵害したとみなす訳です。
従って、仮に使用目以外に使用したとして、その際は私的使用目的の複製
行為そのものを違法とするのではなく、複製物を目的使用以外に使用した
行為そのものが、複製権の侵害に該当する、と定めているだけです。

次に、貴殿の説明の不適切な部分を指摘しておきます。
「複製」と「頒布」は、法においては全く異なる概念として定義されて
います。
第2条より引用します。

十五 複製 
印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する
ことをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を
含むものとする(以下略)

十九 頒布 
有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又
は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製
されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示すること
を目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与すること
を含むものとする。

にも関わらず貴殿は「複製行為に該当しない頒布(公衆への譲渡又は
貸与)及び公衆への提示」という表現を用いています。
この点はおかしいと言わざる得ません。

>      複製とみなされるのは上記の頒布又は提示行為です。頒布又は提示された複製
>      物が遡って違法に複製された物になるのではありません。もちろん、30条に
>      よって適法に行われた複製行為が遡って違法な複製行為になるものでもありま
>      せん。

30条で規定された目的(私的使用目的)以外に使用された複製物を頒布
あるいは公衆に提示した*者*は、著作者が専有するはずの複製権を侵
害していることになります。

従って、複製者と頒布者が異なっている場合は、頒布者が権利侵害者に
なる訳です。例えば、兄が私的使用目的にダビングしたMDを、弟が兄に
勝手に頒布した場合、弟の行為が複製権侵害に当たる訳です。
仮に弟の頒布行為に兄が許諾を与えていたとしたら、兄も複製権を侵害
したことになるでしょう。

しかし、兄が私的使用目的にダビングしたMDを兄と一緒に弟が聞く分に
は、これは私的使用目的の範囲内ですから、30条により著作者の複製権
を侵害する行為には当たらない訳です。

理解して欲しいのは、複製行為の先には、「複製物の利用」という当然
の帰着がある、ということです(使用と利用を使い分けている点に注意)。

30条に基づく複製でありかつ、私的使用目的の範囲内であれば、その複
製物をどう利用しても当人の勝手です。しかし、30条は「その使用する
者が複製することができる」と定めています。30条に規定された著作者
が専有する複製権が制限される必要条件の一つは、使用者と複製者が同
じ、なのです。

# 単なるコレクターであり、壁に並べるだけでも十分に立派な「複製
# 物の利用方法」になる訳です。私みたいなコレクターは、手元にある
# というだけで満足感を得る訳ですから(^_^;;)

で、仮に、複製者がゴミ箱に捨てた複製物を第三者が拾って頒布したと
しましょう。すると、この頒布者が複製権を侵害した訳であって、実際
に複製を行なった者は(管理責任は別にして)複製権侵害に問われるこ
とはないでしょう(民事上は、管理不十分として何らかの損害賠償を請
求される可能性は否定できないけど)。

しかし、30条の定める私的使用目的以外にその複製物を頒布あるいは
公衆に提示した場合は、頒布あるいは公衆に提示した者をもって、複製
権侵害と定めているのが49条です。

その上で、私的使用の定義を思い出すと、「個人的に又は家庭内その他
これに準ずる限られた範囲内において使用すること」となります。

最後にまとめます。
まず第一に、30条における「私的使用目的」の中には、公衆への提示も
頒布も含まれていません。「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」
と「公衆」という二つの集合に共通する要素が存在すると考えることは
まず不可能です。

次に、30条は私的使用目的以外の使用者自身による複製行為を権利の
制限とは認めていません。従って、「私的使用目的以外の利用者自身
による複製行為」は、その時点で著作者の複製権を侵害しています。

第三に、複製物を当初は私的使用に合致して使用者自身が使用していた
が、ある時で私的使用の範囲を超えた使用を使用者本人が行なったとし
ます。
この際、複製行為自体が権利侵害かどうかの判断は難しいですが、
少なくとも、30条により作成された複製物は、「使用者本人が私的使用
を目的とした場合に限り」複製が許された物な訳ですから、目的外使用
と言わざる得ません。頒布や公衆に提示しなかったとしても、複製権を
侵害したと言わざる得ません。
例えば、複製者が家庭内その他これに準ずる限られた範囲外にその複製
物を譲渡する(有償無償を問わず)ことは、それが公衆に合致しなかっ
たとしても、許されません。
また、119条自身によって刑事罰規定は適用されませんが、権利(複製権)
を侵害していることは間違いありませんから、民事上の損害賠償を求め
られる可能性は常に存在します。

繰り返しますが、30条は私的使用目的に限って使用者自身が複製しても
権利侵害には当たりません、と定めているに過ぎません。
つまりは、その複製物を使用者以外が使用したり、私的使用目的以外に
使用した場合には言及していません。従って、それら状況に基づく複製
権は、著作者が専有します。著作者の許諾なしに複製すると、その時点
で権利侵害に当たります。

# うち、私的使用目的以外でも特に頒布と公衆への提示に関しては、
# 49条をわざわざ定めています。

また、複製権を侵害した場合は112条がありますから、侵害の停止又は予
防を請求することも出来ます。

第四に、もともとは30条により作成された複製物が何者か(含む複製者)
により頒布あるいは公衆に提示されたとします。その時点で、49条に基
づく「目的外使用」に相当しますから、頒布者あるいは提示者が複製権
を侵害したことになります。

>      なお、49条の行為主体は、30条により複製をした者に限定されていません。
>      30条も49条も、「行為」について規定していることに注意する必要があり
>      ます。

そうです。あくまでも行為者主体です。

>      特に、49条は、113条を介して犯罪構成要件ともなるのです。その規定を
>      むやみに拡張解釈したり、法が特に定めている「公衆」の意義を無視した解釈
>      をすることは許されません。

しかし、法は条文によって「公衆」を定義していないんですよね。
単に「特定かつ多数も公衆に含む」と述べているだけであって、特定少数
や不特定少数のどれだけが公衆に含まれるのか、までは規定していないん
です。

>      なお、私は、著作権のような新しい法分野では、複写等の技術の進歩や社会状
>      況の変化によって立法当初の法律あるいは法律解釈では著作者の利益が十分守
>      れない状況が生じるということは十分認識しています。
>      そして、それを解釈で補うべき場合があることも知っています。

個人的には、解釈論で議論できる範囲を超えていると認識しています。
繰り返しますが、無体財産であり、かつ技術の進歩が激しい分野ですから、
その技術の進歩に合わせた有機的で迅速な法の改正をすることこそが、
主権者である我々国民の責務だと考えている訳です。

# 著作権の場合、著作者人格権ってのもあって非常にやっかいですから
# ね。特に無方式主義に則れば、著作者の権利を如何に上手に守って、
# かつ公正な利用ルールを確立するか?ってのは大問題ですよね。

>      この部分は、趣旨を理解しかねます。「整合」というのをどのような意味で使
>      用されているのでしょうか?

これまでの説明で御理解頂けましたでしょうか?

>    法律解釈は、技術の進歩をも踏まえて適性にされる必要がありますが、
>    技術の進歩に合わせて法律の内容まで自動的に変わることはありません。

そうですね。

>    必要があれば、法改正をすべきなのです。

だからこそ、我々主権者はこの問題に関する関心を高め、もっと知識を
付けて大いに議論すべきだ、ってのが私の主義です。

>      法概念自体がが技術の進歩によってあやふやになるということはあり得ないと
>      思います。
>      公衆の概念も、説が別れる部分はありますが、それほど曖昧ではありません。
>      ただし、限界事例では公衆に当たるかどうかの判断が難しいということは言え
>      ます。また、この分野では、技術の進歩により法令の適用が難しい事例が多く
>      なるということは言えると思います。

個人的には、著作権法の他の部分、例えば映画の著作物の扱いにだって
大きな「限界」が生じていると思います。
ある論文で指摘しましたが、この限界に対する問題意識は、1973年3月答申
の「著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)報告書」で既に指摘されて
います。近いところでは1993年11月答申の第9小委員会(コンピュータ創作
物関係)報告書ってのもあります。

指摘されて既に30年近くが経過しているにも関わらず、一向に法律改正で
きないのは、単に我々主権者のふがいなさが理由ではありませんかね?

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