No. 843/1090 Index Prev Next
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From: Richter ABC
Newsgroups: fj.soc.copyright
Subject: Re: 30条と49条 (罰則関係)
Date: Tue, 19 Sep 2000 21:07:41 +0900
Organization: Nifty News Service
Lines: 191
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NNTP-Posting-Date: 19 Sep 2000 12:07:45 GMT
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こんにちは。
おひさしぶりです。
Hideaki Iwata さん wrote:
> A.30条は、次の三条件(以降、30条の三条件)を全て満たした場合に限り、著
> 作者に無断で著作物を複製しても、21条により定められた著作者が専有する
> 複製権を侵害したことには当たらない、と定めている。
>
> ・個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲(以降、家庭内準拠)に
> おいて使用すること(以降、私的使用)を目的とする
> ・公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を使用し
> ない
> ・その使用する者が複製する
>
> これら三条件の最低一つに反した条件下で複製が行なわれた場合、法律上は
> 21条の複製権侵害となる。
> 従って、これら三条件を満たさない複製行為は、30条違反と称するべきでな
> く、21条違反行為と称するべきである。30条はその文末を「複製することが
> できる」としていることから判る通り、権利の制限を明示しているだけであ
> り、著作者が本来的に持つ権利とは21条を指すのが、その理由である。
>
> B.30条の三条件を満たさず複製行為に及んだ場合は、21条違反により、119条
> の罰則規定(著作権侵害)が適用される。ただし、119条に明記されている
> 通り、三条件を全て満たした複製行為は、著作者の権利が制限されているの
> で、119条は適用されない。
>
> C.30条の三条件合致して作成された複製物(以降、私的使用目的の複製物)
> を著作者に無断で頒布(公衆に提示)した者は、49条によって複製権を侵害
> したとされる。この際注目すべきは、複製行為を行なった本人ではなく、
> 私的使用目的の複製物を複製の事後に頒布した者が、複製権侵害とみなされ
> る点である。つまり、私的使用目的の複製行為自体が違法と定めるのではな
> く、頒布行為が違法と定められている。(みなし条項である点に注意)
>
> D.49条の適用によって複製権侵害と認められると、B.と同様に119条が適用さ
> れる。
>
> E.しかし、49条は頒布(公衆への提示)行為に及んだ場合に限って「みなし」
> を規定している。家庭内準拠でも公衆でもない集合(以降、中間層)が存在
> すると仮定した場合、中間層への貸与行為や譲渡行為については言及してい
> ない。よって、これら行為に対し49条を適用することはできない。
> また、26条でも映画の著作物(複製物を含む)を頒布(公衆への提示)する
> 権利を頒布権と定め、著作者の専有権と規定している。よって、中間層への
> 貸与や譲渡に言及していない以上、その権利は著作者が専有するとは考えら
> れない。
以上の点は、大筋では異論ありません。
> (以降、家庭内準拠でも公衆でもない集合(中間層)が存在するとの仮説に基
> づいて論述する。明記なき場合は同仮説を前提としている点に注意。)
>
> F.昭和56年に答申された文化庁著作権審議会第5小委員会報告書によれば、家
> 庭内準拠の範囲内であれば、私的使用目的の複製物を融通し合う行為(有償
> ・無償を問わず貸したり譲ったりする行為を以降は「融通」と称す)が著作
> 者に無断で行なわれたとしても、30条により著作者の権利を侵害したことに
> はならない、との判断を示している。
>
> G.また「私的使用目的の複製物」の事後利用については、上記報告書の中で、
> 次の様な判断が示されている。
>
> 「法第30条の許容範囲内での録音・録画によって作成された物を事後に私的
> 使用の目的以外の目的に使用する場合(3の場合:筆者注/他の著作権の制限
> 事項に合致した場合:を除く。)(例えば、個人使用のために録音したテープ
> を事後に事業のために使用したり、第三者へ貸与したりするなど)」は、
> 「著作権者等の権利が及ぶこととなり、著作権者等の許諾を得ずに行われる
> ときには著作権等の侵害(違法)とな」る。
> (「」内はいずれも同報告書より引用:
> URL http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6.html)
>
> つまり、著作権審議会の判断に従えば、たとえ中間層への譲渡や頒布であった
> としても、それが家庭内準拠を越えた融通であれば、著作権等の侵害(違法)
> となる。
この点は、上記の記載から報告書がそのような法律解釈に立っているとまでは
言えないと思います。
また、仮に、そのような立場に立っているとしても、法律論の場面では、一つ
の見解に過ぎず、しかも、報告書には理由が付されていないので、評価のしよ
うがありません。
なお、判決において上記報告書の該当部分が30条の解釈の根拠とされること
は100パーセントないと思います。
> その際、21条に基づく複製権の侵害に当たるのかどうかの判断は明確に示さ
> れていないが、裁判例では、特定の権利(複製権や頒布権等)を明示せず、
> 財産権としての著作権侵害という広い概念を提示して不法行為を認めるケース
> もあり、侵害した権利の特定を重視しない傾向にある。
この点は、そのような傾向にあるとは言えないと思います。
著作権という言葉しか使用していない場合でもそこでは具体的な権利、例えば
複製権などが想定されている場合でしょう。侵害した権利を特定しないという
ことは侵害訴訟においては考えられません。
もちろん、著作権全体の侵害ということは有り得ますし、著作権の確認訴訟と
いうのもあります(ある著作物について誰が著作者かが争いとなり、著作権自
体の帰属が問題となっている場合などがそうです。)。
> H.E.及びG.の判断に従えば、私的使用目的の複製物を事後に第三者に譲渡あるい
> は貸与した場合、49条を適用することはできないが30条の三条件に違反してい
> るが故に違法行為となるケースが存在する。その場合、中間層への譲渡あるい
> は貸与行為は、119条の適用を受けない。なぜなら、119条自身が30条1項の場
> 合を除外しているからである。
> この状況は、敢えて述べるならばA.でその存在を否定した「30条違反」と言え
> る。つまり、中間層の存在仮説を受け入れるならば、著作権法が定める罰則は
> 適用できないが、違法行為には当たる、と判断できる状況を見い出すことがで
> きる。
>
> I.しかし、G.からも明らかな通り、中間層への譲渡や貸与行為は不法行為(違法
> 行為)である以上、民法に基づく損害賠償請求権(民法709条)や不当利益返
> 還請求権(民法703,704条)が適用可能であり、また、著作権法の112条から
> 118条に定められた民事上の救済手段も状況に従って適用される。
上記の点については、前提が異なっているのでなんとも言えません。
しかし、既に別の投稿で述べましたように、30条により適法に行われた複製
行為が後に遡って違法とされることは、特別の規定又は複製の許諾行為が詐欺
を理由として後に取り消された場合(民法96条)といった他の要件がない限
り有り得ません。
上の考えに異論を述べる法律専門家はいないと思います。
ところで、複製権の根拠規定は、21条です。そして、「複製」の意義は、2
条1項15号により定義されており、「有形的な再製」です(一部例外があり
ます。)。
したがって、21条にいう「複製する権利を専有する」とは、著作物(無体物
です。)を有形的に再製する権利を専有するということです。
テレビ番組をビデオ録画することや、それからダビングすることは「有形的再
製」ですから、複製です。
そこで、私的使用目的をもって行う複製行為の適法要件を規定しているのが3
0条です。
そもそも、適法に複製されたものか、違法に複製されたものかを問わず、複製
物を譲渡したり、貸与したり、提示したりすることは、著作物の有形的再製で
はないので、複製ではありません。
したがって、それが複製権の侵害とならないのが原則です。
しかし、例外的に、譲渡、貸与、提示を複製とみなすことにより、複製権の効
力を及ぼすことにしているのが、49条です(ただし、公衆要件があります。)。
頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)及び貸与権(26条の3)は、上記
のこと(複製権が複製行為にしか及ばないこと)を前提とした上で、著作者が、
複製権とは別に、頒布権(映画の著作物)、譲渡権及び貸与権を専有すること
を定めた規定です。そして、いずれも公衆要件が設けられています。
以上のような著作権法の条文の基本構造を無視して、複製ではない(あるいは
特別規定により複製とみなされない)貸与、譲渡又は提示が複製権の侵害に当
たるとする法律論は成り立ちません。
したがって、テレビ放送を録画する行為は、30条1項に規定する3要件を具
備している場合には適法ですし、複製権の侵害ではありません(これには異論
がないと思います。)。
そして、そのようにして適法に複製したビデオそのものを、後に(例えば1年
後)、会社の同僚や隣人に譲渡しても、その行為は、49条により複製とみな
されることはないので、複製権の侵害となることは有りません。
また、そのようなビデオを他人に貸与する行為も公衆要件を充たさなければ、
49条により複製とみなされることはなく、複製権の侵害とはなりません。
さらに、公衆要件を充たさなければ、頒布権(26条)、貸与権(26条の3)
の侵害ともなりません。
最後に、以上のような適法な複製、譲渡、貸与、提示等を装った違法行為、例
えば、公衆要件を充たすビデオの貸与行為あるいは複製物の譲渡行為が著作権
法上許されないことはいうまでもありません。
それでは。
なお、比較的最近出版された本の中で、てごろな値段の本として
作花文雄著・「詳解著作権法」ぎょうせい
があります。
作花氏は、現在、横浜国立大学大学院助教授のようですが、氏は、その経歴か
ら見て文化庁の立法技術の専門家だった方だと思います。
とても良い本だと思います。
それでは。
法律論 大歓迎!
Richter ABC
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