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From: Hideaki Iwata 
Newsgroups: fj.soc.copyright,fj.soc.law
Subject: 30条と49条 (罰則関係)
Followup-To: fj.soc.copyright
Date: 18 Sep 2000 20:08:31 +0900
Organization: Center for Information Science, Wakayama University
Lines: 155
Message-ID: < m3pum22c0g.fsf@dolphin.eco.wakayama-u.ac.jp> 
NNTP-Posting-Host: dolphin.eco.wakayama-u.ac.jp
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ひで@和大、です。
30条と49条の関係について、特に罰則関係に注目して状況を整理してお
きたいと思います。ただし、話を簡単にする為に対象を映画の著作物に
のみ限定したいと思います。著作物一般に対する考察ならば、38条の存
在を考慮する必要がありますが、映画の著作物に限定すれば、38条は無
視できる、のがその理由です。

# つまり、この議論を著作物一般に広げる場合は、38条を加味すれば
# 良い訳です。

法律論的におかしな部分が存在するか否かの判断を、識者の皆さんにも
求めたいと思いますので、fj.soc.lawにもクロスポストします。
ただし、Followup-To: は fj.soc.copyright です。ご注意して下さい。

登場法規(著作権法)

第二十一条 (複製権)
  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

第二十六条 (上映権及び頒布権)
  著作者は、その映画の著作物を公に上映し、又はその複製物により頒布
  する権利を専有する。
  2 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を公に
  上映し、又は当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。

第三十条 (私的使用のための複製)
  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」
  という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内
  において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とする場合
  には、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機
  器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動
  化されている機器をいう。)を用いて複製するときを除き、その使用す
  る者が複製することができる。
  (以下略)

第四十九条(複製物の目的外使用等)
  次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。
  一 第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第三十七条第二項、
     第四十一条、第四十二条又は第四十四条第一項若しくは第二項に定め
     る目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された
     著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆
     に提示した者 
  (以下略)

第百十九条
  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の
  罰金に処する。
 一 著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条
     第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的
     使用の目的をもつて自ら著作物又は実演等の複製を行つた者を除く。)
  (以下略)

A.30条は、次の三条件(以降、30条の三条件)を全て満たした場合に限り、著
  作者に無断で著作物を複製しても、21条により定められた著作者が専有する
  複製権を侵害したことには当たらない、と定めている。

・個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲(以降、家庭内準拠)に
  おいて使用すること(以降、私的使用)を目的とする
・公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を使用し
  ない
・その使用する者が複製する

  これら三条件の最低一つに反した条件下で複製が行なわれた場合、法律上は
  21条の複製権侵害となる。
  従って、これら三条件を満たさない複製行為は、30条違反と称するべきでな
  く、21条違反行為と称するべきである。30条はその文末を「複製することが
  できる」としていることから判る通り、権利の制限を明示しているだけであ
  り、著作者が本来的に持つ権利とは21条を指すのが、その理由である。

B.30条の三条件を満たさず複製行為に及んだ場合は、21条違反により、119条
  の罰則規定(著作権侵害)が適用される。ただし、119条に明記されている
  通り、三条件を全て満たした複製行為は、著作者の権利が制限されているの
  で、119条は適用されない。
  
C.30条の三条件合致して作成された複製物(以降、私的使用目的の複製物)
  を著作者に無断で頒布(公衆に提示)した者は、49条によって複製権を侵害
  したとされる。この際注目すべきは、複製行為を行なった本人ではなく、
  私的使用目的の複製物を複製の事後に頒布した者が、複製権侵害とみなされ
  る点である。つまり、私的使用目的の複製行為自体が違法と定めるのではな
  く、頒布行為が違法と定められている。(みなし条項である点に注意)

D.49条の適用によって複製権侵害と認められると、B.と同様に119条が適用さ
  れる。

E.しかし、49条は頒布(公衆への提示)行為に及んだ場合に限って「みなし」
  を規定している。家庭内準拠でも公衆でもない集合(以降、中間層)が存在
  すると仮定した場合、中間層への貸与行為や譲渡行為については言及してい
  ない。よって、これら行為に対し49条を適用することはできない。
  また、26条でも映画の著作物(複製物を含む)を頒布(公衆への提示)する
  権利を頒布権と定め、著作者の専有権と規定している。よって、中間層への
  貸与や譲渡に言及していない以上、その権利は著作者が専有するとは考えら
  れない。

(以降、家庭内準拠でも公衆でもない集合(中間層)が存在するとの仮説に基
づいて論述する。明記なき場合は同仮説を前提としている点に注意。)

F.昭和56年に答申された文化庁著作権審議会第5小委員会報告書によれば、家
  庭内準拠の範囲内であれば、私的使用目的の複製物を融通し合う行為(有償
  ・無償を問わず貸したり譲ったりする行為を以降は「融通」と称す)が著作
  者に無断で行なわれたとしても、30条により著作者の権利を侵害したことに
  はならない、との判断を示している。

G.また「私的使用目的の複製物」の事後利用については、上記報告書の中で、
  次の様な判断が示されている。

  「法第30条の許容範囲内での録音・録画によって作成された物を事後に私的
  使用の目的以外の目的に使用する場合(3の場合:筆者注/他の著作権の制限
  事項に合致した場合:を除く。)(例えば、個人使用のために録音したテープ
  を事後に事業のために使用したり、第三者へ貸与したりするなど)」は、
  「著作権者等の権利が及ぶこととなり、著作権者等の許諾を得ずに行われる
  ときには著作権等の侵害(違法)とな」る。
  (「」内はいずれも同報告書より引用: 
  URL http://www.cric.or.jp/houkoku/s56_6.html)

  つまり、著作権審議会の判断に従えば、たとえ中間層への譲渡や頒布であった
  としても、それが家庭内準拠を越えた融通であれば、著作権等の侵害(違法)
  となる。
  その際、21条に基づく複製権の侵害に当たるのかどうかの判断は明確に示さ
  れていないが、裁判例では、特定の権利(複製権や頒布権等)を明示せず、
  財産権としての著作権侵害という広い概念を提示して不法行為を認めるケース
  もあり、侵害した権利の特定を重視しない傾向にある。

H.E.及びG.の判断に従えば、私的使用目的の複製物を事後に第三者に譲渡あるい
  は貸与した場合、49条を適用することはできないが30条の三条件に違反してい
  るが故に違法行為となるケースが存在する。その場合、中間層への譲渡あるい
  は貸与行為は、119条の適用を受けない。なぜなら、119条自身が30条1項の場
  合を除外しているからである。
  この状況は、敢えて述べるならばA.でその存在を否定した「30条違反」と言え
  る。つまり、中間層の存在仮説を受け入れるならば、著作権法が定める罰則は
  適用できないが、違法行為には当たる、と判断できる状況を見い出すことがで
  きる。

I.しかし、G.からも明らかな通り、中間層への譲渡や貸与行為は不法行為(違法
  行為)である以上、民法に基づく損害賠償請求権(民法709条)や不当利益返
  還請求権(民法703,704条)が適用可能であり、また、著作権法の112条から
  118条に定められた民事上の救済手段も状況に従って適用される。

J.結論:
  以上により、中間層が存在するとの仮説に従えば、30条に違反した者には
  刑事上の罰則を適用することはできないが、不法行為に当たる以上、民事上
  の責任を追求される可能性が常に存在する。

以上、判断に、法律論(法律解釈論)としておかしな部分はあるでしょうか?
識者の皆様の御意見をお待ちしております。

# あー、ややこしい(^_^;;)

蛇足:
ちなみに、岩田説では上記中間層の存在を否定しています。従って、岩田説に
従えば、30条違反という概念自体が存在せず、私的使用目的の複製物を事後に
家庭内準拠外へ融通(貸与や譲渡)した場合は、等しく49条が適用される、と
なります。だから、同時に119条も適用される、と。
こっちの方がすっきりすると思うんだけどなあ....:-)

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