No. 883/1090 Index Prev Next
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From: Richter ABC
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Subject: Re: 30条と49条 (罰則関係)
Date: Sat, 23 Sep 2000 18:15:13 +0900
Organization: Nifty News Service
Lines: 225
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こんにちは。
Hideaki Iwata さん wrote:
> うーん、こういう書き方をされるとちょっと違和感を感じるなあ...
> 「複製権」「貸与権」「譲渡権」「上映権」「翻案権」「翻訳権」etc
> これらは全て別個の権利ではないんですか?
もちろん、そうです。私は、そう言っているのです。
> 「複製」の説明の中で「貸与」や「譲渡」が出てこないのは当然。
そのとおりです。
それを根拠として、貸与等が複製に当たらない以上、貸与等が複製権の侵害に
当たるなどと屋上屋を重ねた説明をする必要がないから、基本書では、何も書
いていないのです。
そして、例外として、貸与等が複製とみなされる49条、113条の説明だけ
しているのです。
> で、何が言いたいのか、といえば、上演や上映という著作隣接権と、複製行為や
> それに続く貸与や譲渡行為ってのがうまく切り分けられていない気がするんです
> よ。ABC氏の説明の中では。
私は、岩田さんとの法律論においては、複製行為の適法性を論じているのであ
って、隣接権のことを述べていません。
もし、私の見解で隣接権の規定と矛盾する点があれば、具体的に御指摘下さい。
検討します。
> その上で、貸与権は著作物の複製物を用いた場合にのみ成立する。
> (コンメの348頁等を参考に)
> 一方の譲渡権は、著作物の複製物と原著作物両方に成立する。
> この違いはあるけど、こと、複製権の行使により作成された複製物に限って言えば、
> 譲渡も複製も扱いは原則同じ。
> 複製が行われなければ、複製物による公衆への譲渡や貸与なんて発生しない。
> 唯一存在するのは、原著作物の譲渡のみ。
それは、そうでしょう。条文の文言どおりのことですから。。。
> > そのように、元々、貸与、譲渡等は、複製権の独占対象ではないので、複製物
> > を貸与又は譲渡してもその行為は複製行為ではなく、複製権の侵害にはなりま
> > せん。
> > そこで、例外的に、そのような貸与、譲渡、提示などを一定の要件の下、複製
> > とみなすことにより複製権の対象に含めることにしているのが49条です(1
> > 13条も同じです。)。
>
> ちがうと思うんだけどなあ....(ニュアンスが)
> 49条のみなし条項ってのは、30条以下の「権利の制限」によって複製された複製
> 著作物が、本来社会が容認していた使われ方と違った使われ方をした場合、複製
> 者本人を権利侵害者とするのではなく、本来容認されていた使われ方と違った使
> い方をした本人をもって権利侵害者と認めましょう、って条項のはずなんですが。
> でもって、30条で制限されている著作者の権利は複製権だから、本来とは違った
> 使い方をした人は複製権侵害ですよ、ってみなしているだけ。
>
> コンメの501頁、49条の趣旨より引用
>
> ---------------------------------------
> 本条は、本5款中の著作権制限規定に基づいて適法に作成された著作物の複製物
> をその作成の目的や制限を超えて利用することが著作権の侵害となることを明ら
> かにするものである。
> ---------------------------------------
この解説にあるとおり、49条は、行為の主体が誰であるかを問題としている
のではなく、頒布、提示という本来複製に当たらない行為を複製とみなすため
の規定です。この解説は私の意見と異なることを述べてはいません。
> > したがって、49条により複製とみなされる行為以外の貸与、譲渡には、複製
> > 権が及ばないので、一般国民において貸与等をしても複製権の侵害にはなりま
> > せん。
>
> うーん、その「一般国民」って用語の定義をまずはきちんとしておかないと駄目
> じゃないですか?
> 著作権法上、譲渡権や貸与権や頒布権には「公衆要件」ってのが存在します。
> その「公衆」と「一般国民」の関係は如何に?
確かに、「一般国民」というのは適切ではないですね。その表現が難しいので
すが、当該著作権者以外の者というべできしょうか。
「公衆」概念とは全く別個の概念です。
> # 2条に従えば、「公衆」には特定かつ多数の者を含むから、日本国内に居住する
> # という特定の上に一億二千万人という多数、となると、「公衆」に合致する、
> # って論も展開可能なはずだけど:-)
もちろん、そうです。
> > そのように、複製権が複製行為にした及ばないので、法は、頒布権(26条)、
> > 譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)などを設けることにより、著作
> > 者の利益保護を図っているのです。
> > 元々複製権が、貸与や譲渡に及ぶのであれば、そのように別な権利を作る必要
> > はありません。
>
> 誰も「及ぶ」とは言ってないはずですが....
そうですか。しかし、貸与、譲渡等が複製権の侵害に当たるという見解をとる
のであれば、複製権がその貸与等に及ぶと言わなければ説明できないはずです
が。。。
> しかし既に明らかにした通り、貸与権に関しては、原著作物は対象外です。複製行為
> によって製作された複製物のみが対象です。譲渡権は、原著作物及び複製物が対象
> となってます。
それは条文どおりのことですね。
ただし、厳密に言えば、原著作物ではなく、原作品です。
著作物は、無体物(観念的なもの)であって、それ自体を実効支配することが
できないので、有体物(民法85条)である「原作品」「複製物」の譲渡とい
うことで規律をしているのです。
「原作品」と「複製物」は、「物」(民法85条)ですが、著作物は「物」で
はないということを念頭においておく必要があります。
> > 以上のように、複製権は、複製行為にしか及ばないという前提がまず必要です。
>
> って、誰もその前提には反対していないはず。(繰り返し書いているけど)
そうでしたか。それでは、これからは、その前提で述べます。
> > そのような前提の下、30条1項は、同項の規定する3要件を充たす場合には、
> > 「複製することができる。」として、3要件を充たす「複製」には、21条の
> > 複製権が及ばない、すなわち、著作者の独占している複製の中に入っていない
> > ということを規定しているのです。
>
> と取るか、「著作者の専有権ではない」と取るか、の違いはありませんか?
> 前から言ってますが、解説書のほとんどは、30条以下を「権利の制限」と称していま
> す(条文上もね:-)。
> 本来著作者が有する権利ではあるが、一定の要件を満たした場合は制限される、と定
> めたものなのだ、と説明しています。
いいえ、私は、法律専門家の書いた本で「30条の3要件を充たす複製行為」
が、本来、著作者の複製権に含まれるが、それを含まれないようにしたもので
あるという趣旨の記述をしたものを見たことがありません。
21条は、「複製をする権利を専有する。」と規定してますが、30条以下の
条項があるために、その複製権は、著作者が取得したときから、30条以下の
複製には及ばないのです。著作者が30条以下の複製権についても元々権利と
して有しているという法律家の見解を見たことはありません。
> コンメ366頁(多分二度目の引用)
> ---------------------------------------
> 著作権者は、その著作物を著作権法所定の方法で利用する排他的権利を有している。
> したがって、第三者がこれを利用するためには、著作権者から使用許諾を受けるのが
> 原則である。30条から49条はその例外、すなわち著作権が制限される場合について定
> めたものである。この著作権の制限は、文化的所産である著作物の公正な利用という
> 観点から規定されたものであり、具体的には以下の4つに分類される(加戸・逐条179
> 頁、田村・概説164頁〜165頁もほぼ同様の分類をしている)。
> ---------------------------------------
上の記述は、私が述べていることと同じことを述べているのです。
「制限」という語を利用していますが、立法技術的な用語なのです。
別投稿で引用したように、半田先生は、そのことを著作権の内在的制約という
言葉で表し、著作権制度確立期以後におけるすべての国の立法上の原則となっ
ているとされています。
また、元、「文化庁著作権課課長補佐・大臣官房総務課法令審議室長」を歴任
されて横浜国立大学国際社会科学研究所助教授をされている作花文雄氏は、そ
の著書である詳解・著作権法の270頁から271頁にかけて次のように述べ
ています。長文ですが、引用します。
「権利者の持つ権利、例えば複製権は、「本来」あらゆる複製に対して及ぶべ
きものであり、いろいろな都合で一部「制限」されているに過ぎないのである
とする考え方がある。
<中略>
<このような>考え方は、権利者側が政府や一般社会に対する効果的な主張方
法として意図的に言及する場合はともかくとして、そうでない場合には、理解
し得ないものである。本来的に著作物の全ての利用に対して権利が及んでしか
るべきとする考え方は、法上「制限」という言葉を用いていることからくる誤
解かもしれない。あるいは著作権思想は自然法概念や天賦人権論の発達を背景
として進歩したところからして、著作権は著作物全ての利用をカバーすること
が本来的に必然のものであるかのような誤解が生じていることからくるものか
もしれない。しかし、法上「制限」としているのは、例えば、複製権で考えれ
ば、何も全ての複製行為に権利を及ぼすことが必然的なものではなく、権利の
対象範囲を明記する場合の立法技術として、権利が働く複製の態様を全て積み
上げていく方式によるか、それとも全体の中から権利が及ばない範囲の態様の
複製行為を差し引く方式を採るかという問題である。複製行為の具体的態様に
は種々のものがある以上、後者の方式により立法せざるを得ない。観念的な話
ではあるが、あるべきものが制限されているのではなく、本来権利の内容では
ないのである。」
作花氏は、その経歴からして、文化庁の著作権法の法令解釈及び立法担当部門
の専門家ですね。
この考え方は、我々法律専門家の間では共通したものであり、そのような認識
の下に立法というのはされているのです。
他の法令でも同様な立法の仕方をします。
そして、私は、岩田さんの投稿に最初にフォローをした時、内在的制約である
として、そのことを述べています。
> まずは、この点を「一般論」として受け入れてもらわないことには、ABC氏との議論は
> 前には進まないと考えます。
>
> # 学者の使命って、全体を見て各論をまずは調査する。その上で、一般論として認め
> # られているのはどれであり、なぜそれが一般論とされているのかを分析することだ、
> # って考えてますから、まずはこの出発点に立ってもらわないと話できない。
>
> この前提に立って議論を進める気はありませんか?
>
> # ないなら、「通説にあらず」ってことで私は降ります。
私が匿名で投稿しているので、ある面では自由、公平な議論ができるのですが、
他方で、不公平な結果をもたらしてしまう可能性があるようですね。
そこで、遅くなりましたが、一言、述べさせて頂きます。
今までの議論を通じて、私が法律の専門家であることは御理解頂いていると思
うのですが、私は、法律の解釈適用だけではなく、立法技術についてもかなり
習熟しています(著作権法の専門家ではありません。)。
失礼ですが、今までの法律の議論は、相撲で言えば、アマチュア相撲の力士と
大相撲の力士が相撲をとっているような側面があります(こちらは、実社会で
は、大関、横綱クラスとみなされていると自負しています。)。
私は、プログラミングを趣味でしますが、ここでの法律に関する議論は、プロ
グラミングの高度な議論を私とその道の専門家である岩田さんがしているよう
な側面があるのを御理解下さい。
それでは。
法律論 大歓迎!
Richter ABC
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