日本認知言語学会 第13回全国大会 2日目 #JCLA
今朝は駅で知り合ったお嬢さんをエスコートしながら会場に向かいました。話聞いて見ると昨日も参加してたけど、大東文化大学の場所が分からないそうな。自分より方向音痴な人は初めて見た。道中あれこれ話してて驚いたのが、中国の広東(かな)あたりでは沖縄の「涙そうそう」がもの凄く有名で、日本語勉強してる人は大抵知ってるらしい。勿論日本語バージョンだと思うけどw その曲繋がりで、三線とかあれこれ比較的沖縄については興味持ってる人が多いとか。妙な所で接点が合ったものだ。
ということで日本認知言語学会 第13回全国大会の最終日が終わりました。今日は「一般セッション+ポスターセッション+シンポジウム」というプログラム。ポスターセッションは昼食と並行して行われることもあってパスしちゃいました。
認知言語処理学会の大会に参加するのは今回が初めてですが、論文の書き方にも特徴が合って面白い。例えば例文を
{お酒/涙}{をガマンスル/*にタエル}
のように書いて、{}中の「/」は選択、冒頭に「*」がある場合は選択できないことを示すらしい。冒頭に「?」がある場合は、選択可能だがやや意味に変化が加わるケースっぽい。{}が具体的な例文を示すのに対し、抽象化したスキーマは<>で書くらしい。
参考文献の参照(cite)は人によって差が大きい。少なくとも括弧書き補足として使ってる場合には括弧書き以外を使って欲しい気がする。また、連名に指導教員が併記されてない人が殆どっぽい。文系(?)だとこういうスタイルが多いのかしら。
座長さん次第なのか1件あたりの時間が長いからなのか分からないけど、発表者間の交代の時間が比較的長く、民族代移動も多々。
発表の仕方にも、プロジェクタ等使わずに論文をベースに読みながら解説を加えるというスタイルの人もいました。殆ど問題無いけど、図ぐらいは投影しながら指し示して説明して欲しいかな。
一般セッションの公共広告について調査分析してた話によると日本人は主観的事態把握をしてしまうらしい。つまり、自分自身の視点で物事を捉え自身の体験と結びつけて読み込み解釈をしがちで、モノローグ的な広告をすると「直接的には書かれていないこと」に対して反応してしまうことがあるとか。モノローグ的な広告か否かではなく、主観的事態把握をしてしまうか否かの方が有意ってことなのかは謎。
シンポジウムでは、認知科学/言語心理学/神経心理学の辻先生が司会役を担当し、認知・発達心理学の今井先生、脳神経・神経内科学の大槻先生、認知言語学の堀江先生らの発表を聞きながら、会場との質疑応答という内容。パネル討論チックなのを創造してたのでやや期待はずれでしたが、先生方の発表自体はとても面白かった!
今井先生曰く、
そもそも「ことば」で何かを表現するという行為は、「ことば」で世界をカテゴリーに分割・分節するということ。
連続的に推移する世界を離散的かつ多層的に捉える行為であり、概念の括り方は言語により異なる。
というのはその通りだよなぁ。このあたりが脳神経的にどう絡んでいるのかとか知らない事だらけなんだけど、今日のシンポジウムのお陰でいろんなリファレンスも頂けたので大満足です!
<目次>
- 一般セッション
- 「ガマンスルとタエルの類義語分析-力動性の観点から-」滝理江(名古屋大学[院])
- 「「おかしい」と「変」の類義語分析-「評価性」と「判断基準の活性化の度合い」に注目して」閔ソラ(名古屋大学[院])
- 「日本語話者が好む公共広告の表現-日英の観点から-」田中優美子(昭和女子大学[院])
- 「距離から共同注意へ-「聞き手の注意」を用いた「中距離指示」のソ系の再分析-」平田未季(北海道大学[院])
- 「手触りの質を表すオノマトペの有効性-感性語との比較を通して」坂本真樹(電気通信大学)・渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所・東京工業大学大学院)
- シンポジウム
- シンポジウム:意味の獲得・変容・喪失:認知言語学と関連分野との対話
- 辻幸夫(慶應義塾大学):もう一つの意味論、意味を多角的に捉える
- 今井むつみ(慶應義塾大学):カテゴリーの発見、創造、修正:ことばの意味の習得過程
- 大槻美佳(北海道大学):脳損傷からみる言語のしくみ
- 堀江薫(名古屋大学):認知類型論の応用的展開:第二言語習得研究との関連を中心に
「ガマンスルとタエルの類義語分析-力動性の観点から-」滝理江(名古屋大学[院])
(1) {痛み/寒さ}{をガマンスル/にタエル}
(2) {お酒/涙}{をガマンスル/*にタエル}
(1)のようにガマンスルとタエルは類義関係にあると考えられるが、
(2)のように置き換えられない場合の理由は明らかでない。
両語において心理動詞と考えられる別義について力動性のモデルを用いて表し、
意味の相違点を明らかにすることを目指す。
naltoma: 類例をスキーマ抽出&分類して傾向分析するのは分かるし、
そこに力動性モデルから考察を加えている点も理解できるけど、
その先に目指しているものは何だろう?
naltoma: KOTONOHAのようにコーパスとして例文はDB化されてるのがあるようだけど、
そこからスキーマ抽出なりスキーマ検索するには人手でやらざるを得ない?
naltoma: 抽出したスキーマや力動性モデルが現象をうまく説明できたとしても、
人間がそのように認知・理解しているとは限らないし、
スキーマは静的なものではなく時代と共に動的に変動することも考えられるが、
このギャップはどうしたら埋めることができるだろうか?
Q: 例文2で「他人の涙に耐える」なら置き換えられそうだが。
A: 例文2では「自分の涙」が対象なので置き換えられないという解釈。
Q: 類義語分析という点では「置き換えにくい」のような曖昧な表現ではなく、
そこを分析して明確にしていくことが大切だと思う。
A: 置き換えにくい、許容度が下がるといった曖昧な表現になっているのは、
個人差もあって明確な境界が引けないため。
Q: 格助詞のニ格とヲ格は関係していないのか?
A: 今回は意図的に揃えた例文を用意した。
「「おかしい」と「変」の類義語分析-「評価性」と「判断基準の活性化の度合い」に注目して」閔ソラ(名古屋大学[院])
「おかしい」と「変」の多義語分析から得られたそれぞれの別着を比較して
類義語分析を行い、両語の意味の相違点を明確にすることを目的とする。
naltoma: 一つ前の分析と一緒だが、実際にはどのぐらいの分量を分析したのだろう。
全部でなくても良いけど、偏った例を持ってきてたりしてない?
Q: 「おかしい」と「変」はモデルが違う気もする。
「おかしい」は何かやらなければならないケースでは。
A: 同じことを感じている。
Q: 別義4の「性的な面において社会的に健全」というのは決め打ち過ぎに思う。
性的以外なものが殆どないのなら良いが。
A: 確認してみたいと思う。
Q: 例文10では「おかしな男」にすると通じる。
A: 同じ意見を聞いていて、分析中。
Q: 「おかしなX」は多くあるが、「おかしいX」という構文は統計的にどのぐらい多いのか。
A: 統計はまだ確認していない。体感上だが「おかしいX」よりは「〜おかしい」の方が多い。
「日本語話者が好む公共広告の表現-日英の観点から-」田中優美子(昭和女子大学[院])
JTの喫煙マナー啓発広告を中心に、日本語と英語が併記されている公共広告を取り上げ、
日本語話者に効果的に訴えると思われる表現の特徴を英語表現と対比、検討した。
事態把握:人が発話する際に、それに先立つ認知の営みを捉えるもの [池上2000,2003,2004,2006]
日本語話者:<主観的事態把握> 独和型:モノローグ的
英語話者:<客観的事態把握> 対話型:ダイアログ的
naltoma: 広告は作成者と依頼者の意図が絡み合って制作されると思うが、
広告毎の意図の違いは問題にならないのか?
naltoma: 「モテ色」の例で、日本人は「自身との関わりを軸に感情をこめて捉える傾向、
つまりこの色を塗った自分が持てると解釈する傾向が高い」、米国人は「その色自体が
好まれていると解釈する傾向が高い」とあったが、これは言葉単体で本当にそう解釈する?
広告、環境等その他の文脈でそう解釈させてない?
naltoma: 対話型で直接的な要求になると、自身のマナー改善に繋がらないと解釈したのは何故?
naltoma: 独白型だと自身の経験に照らし合わせて解釈することで共感を集めることが
できるのは分かるが、それが効果的になると考えた理由は?
Q: 英語は客観的に第三者ということ? 三者というよりも聞き手の方だと思うがどうか。
話者と聞き手とその他の第三者と分かれると思うが、英語は第三者を中心にするという理解?
A: 英語では自分自身も「他人を見ているかのように表現」している。
Q: イギリス英語やアイルランド英語は日本広告に近い雰囲気があるように思う。
A: 日本で作られたものしか取り上げていないが、今後は英語が母語になっている所の事例も
調べてみたい。
Q: JTで使われてる英語表現はネイティブチェックを受けているとは思うが、個人的には
完璧な純粋英語としては読みにくく感じる。かなり直訳に近く、日本人が理解しやすい
英語になっている。必ずしも客観的把握をしているとは感じられない。
A: JTの例ではネイティブチェックはしているとのことだった。ただし、日本の人が作成した
英文をチェックしてもらうという形なので、日本人が読みやすい英文になっていると思われる。
Q: アフォーダンス理論で魚の水の関係と紹介されたが、広告とどう繋がるのか。
A: 読み手は広告だと分かった瞬間、自分に対して影響を与えるものだと認識して好感を
持って読み込む。と解釈している。
Q: 少し解離があるように感じた。
C: 若者の流行語表現を使うのも独和型だと感じた。
「距離から共同注意へ-「聞き手の注意」を用いた「中距離指示」のソ系の再分析-」平田未季(北海道大学[院])
言語を用いたコミュニケーションにおける共同注意の中でも、指示詞は密接に
関わる形式であり、一義的な機能は「対話相手の共同注意的な焦点を調節する」
伝達機能であると論じられている。
日本語指示詞の「中距離指示」のソ系も「中距離」という距離概念ではなく、
聞き手の注意という共同注意形成に関わる概念を用いて分析しうることを示す。
聞き手の注意:聞き手の視線、アクセス可能性、言語的要素に向けられる注意
naltoma: 「聞き手の注意」を調節するという観点で変化するという点は面白いが、
目に見えないものについても同じように説明できるのだろうか?
Q: 聞き手の注意に関して、聞き手が対象に対してアクセスが可能であることと、
注意が実際に向いていることの両方を「聞き手の注意」に含めているように感じた。
「その机をごらん」の例は、見える範囲にあることで聞き手の注意が向いていると
解釈しているが、実際にはまだ注意が向いていないものを指している。
この違いを区別する必要は無いか。
A: 最初の例は先行研究を紹介したものなので本来の解釈がどうなのかは分からない。
自分で出した例でのピンポイントで注意を向けさせる例。
Q: 距離感が重要で無くなるのか? 例えば「あの時計」が話してるうちに
「これさ」のように変化してくる場合とか。
A: 距離は距離として残り続けるが、加えて注意が関与してくるという解釈。
「手触りの質を表すオノマトペの有効性-感性語との比較を通して」坂本真樹(電気通信大学)・渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所・東京工業大学大学院)
被験者による触感評価を行う際、感性語を評価尺度としたSD法や多次元尺度構成法を
用いてあらかじめ定量化された尺度で感性評価を求めるという手法がとられてきた。
このような方法では、素材の物理特性との対応を取れる一方、触対象を触った時に
生じる好き・嫌いや快・不快といった個人差がある感性的な側面は測定できなかった。
また、被験者の触覚認識がその尺度の種類と幅によって制約を受ける。
そこで本研究では「さらさら」といったオノマトペに着目する。
naltoma: オノマトペと感性語の事なり語平均個数ではオノマトペの方が多かったということで、
多様に表現しやすいとのことだが、被験者個別に見ると逆の人もいたようだ。
これは何を意味するのだろう? ただの例外にするには勿体無い気もするが。
Q: 快・不快といったことについて、脳的な根拠までいわないと分かりにくということは無いか。
A: 脳のことに興味を持ちながらやってはいるが、脳科学の人らはまさにその部分を計測
しながらやっている。こちらではディスカッション・レベル。
Q: 感性語だと側頭ようまでいくが、オノマトペだとそこまでいかないのでは。この点が
A: オノマトペだと日本人しか分からないが、言語不変なより本能的な表現を用いた場合との
脳の作用がどう関与しているのかについて調べて行くべきかなと感じている。
Q: 動作によって脳の中での活動の仕方が異なるはずなので、そこを考慮した考察はできないか。
A: 参考にさせて頂きます。
Q: 形容詞とオノマトペ全体の語彙数を調べて、全体の語彙数とは関係がないとの話だったが、
語彙数全体を見るというのは大雑把に感じる。形容に関するオノマトペはどのぐらい
あったのか。例えば痛みについては殆どオノマトペでしか表現できない。
元々触覚ではオノマトペが多いとかそういうことはないのか。
A: まさにそこが気になっていて、まとめている最中。
なぞるや押すに関するオノマトペは圧倒的に多い。
その他の場合には感性語が多いように感じている。
触覚にも使えるというマルチモーダルな分類。
シンポジウム:意味の獲得・変容・喪失:認知言語学と関連分野との対話
辻幸夫(慶應義塾大学):もう一つの意味論、意味を多角的に捉える
今回の主題:もう一つの意味論、意味を多角的に捉える。
意味の三角形:観念表象、記号、指示対象
「箱」に「ネコ」と書いた絵を見せただけでも、
そこから受け取るものは文化等の影響を受けて大きく異なる。
何か喋ろうと思うと自然と言葉が出てくる。
話を聞こうと思うと耳を通して聞こえてくる。
何か理解しながら喋ってるか、聞いてるか分からないけれども、
音や文字を通して、身振り手振りも交えて話をして認知しているらしい。
言葉で考え会話をしているが、何をどのように考えているのだろう?
認知言語学にとらわれず、音声、身体性、脳神経、心理学、様々な観点から
一般的な意味での「意味」について考えてみよう。
今井むつみ(慶應義塾大学):カテゴリーの発見、創造、修正:ことばの意味の習得過程
認知科学(認知・発達心理学、言語心理学、教育心理学)、言語認知発達、語彙・概念獲得、問題解決過程、第二言語習得
大人が外国語を学ぶ場合
外国語のシンボルを母語のシンボルに置き換えるプロセス
子どもの母語の語彙習得は?
シンボルを説明するシンボルを持たないところからはじめなければならない
世界を記号に設置させる
環境音と違うことに気づく
聞こえてくる音列が単位(音列の塊)に分節されることに気づく
*「意味」の存在を知らない状態で分節するようになる
分節された音の塊が外界の何かに対応することに気づく
世界の何かに対応するだけではなく、「意味」を持つことに気づく
母語の記号体系を自分の中にとりこむ
(そもそも言葉で表現するということは)言葉は世界をカテゴリーに分割する
世界はことばによって離散的に分節される
連続的に推移する世界を離散的に捉える
多層的に捉える
概念の括り方は言語により異なる
ことはば違う種類の概念に対応する
違う種類のことばは世界を異なる基準で切り取る
モノ(名詞)、動作(動詞)、関係(動詞)、モノの性質(形容詞)
naltoma: ことばによって離散的に分節するとのことだが、「ことば」自身は離散的なラベル?量子的なラベル?
ことばの学習の問題(赤ちゃんの視点)
ことばのカテゴリーを自分で発見しなければならない
ことばを使うことができる→カテゴリーの境界がわかるということ
事例からの一般化でカテゴリーの基準(内包)とそれによって決まる境界を決めなければならない
たまたまうまく推測できたとしても、一般化の問題がある
カテゴリーの内包はカテゴリーの成員の共通性を分析することによって理解できる
*事例が集まるまで待てない
カテゴリーの境界は概念領域を当該言語がどう決めるかによって決まるので、
全体がどう分けられているか知らなければ個々の単語の意味が分からない
*全体のシステムは当初から知りようがない
本当は全体を知らないと分かりようが無いが、
少数のピースから推測して解決して行く必要がある。
一般化の問題
初語から数ヶ月:10〜14ヶ月
「パパ」→写真。「アヒル」→風呂桶に落ちた時だけ。「ワンワン」→四足動物+毛布。
何を基準にして一般化して良いか分からない。
他の特徴は捨てなくてはいけない。
語彙爆発以降
「カテゴリー」のために何を基準にし、何を捨てれば良いかが分かる。
naltoma: 1年程度同様のことを「身体性を有するロボット」にさせるためには何が必要?
すでに名前を知っている動物についた新しい名前
一般名詞/固有名詞の違いを理解(2歳程度)
ただし、上位カテゴリーの学習は難しい(5歳でも困難)
動詞の学習も難しい(3歳で半々)
モノの名前ではないということは理解。
変数を変数としておいといて動作だけに注目するということができない。
アクションイベントの動詞への対応漬け
動詞が名詞と「ちがう」種類のことばであることへの気付き
形態的な違いから? 中国語の問題
モノと動作を切り離し、動作だけに注目して一般化することの難しさ
動詞の多様性:様態、結果、様態+結果
動作のどこに注目すれば良いのか
一つの動詞の範囲が言語によって違う
7歳児でも大人と比較して60%未満
長い期間をかけて徐々に学んで行く
一般化によるカテゴリーの形成と類義語との差異化
事例からのマッピング
マッピングの規則を探す
一般化を制約するバイアスの発見→語彙爆発
アナロジーによる創造的一般化
いちごのしょうゆ(コンデンスミルク)
せなかでだっこ(おぶって)、葉でくちびるを踏む(噛む)
新しい語を学習することで、既存の語の意味を修正、さらに類義語どうしの境界を修正
学習しっぱなしではなく、語や境界も修正して体系化していく
同じ概念領域の単語が語彙にある程度たまればシステムを構築
新しい単語、既知の単語の新しい用法を学習する度にシステムの修正
非常に早い時期からこのプロセスの繰り返し
→レキシコンを創り上げていく
大槻美佳(北海道大学):脳損傷からみる言語のしくみ
医学(神経学・神経内科学、脳血管障害、高次機能障害、神経心理学)、神経科学一般、認知神経科学
高次機能障害:失語、失行、失認
記憶障害
神経生理学のひとつの方法:動物実験
動物:能のある部位を破壊→どんな症状が出現するか
ヒト:能のある部位が損傷→どんな症状が出現するか
→神経心理学
臨床研究からみた口頭言語における要素的症状と病巣の関係
「要素的機能と局在」とも言い換えることができる
音韻の選択・配列、単語の意味処理、、、等を機能分担していることは分かっている
脳の機能の原則:機能要素毎に分担されている≒言語も機能要素毎に障害される
音韻、意味、把持、想起
単語を理解:音韻+意味で重層的に理解
文を理解:音韻+意味+把持で重層的に理解
脳機能の大枠
脳の内側vs外側
脳の前方vs後方
言い誤り(錯誤):意味性錯誤(後方)、無関連錯誤(前方)
仮説1:
前方: 標的カテゴリーに至る前段階?カテゴリーを決める?→NG
後方: 標的カテゴリーの中から、ターゲットの単語を選ぶ?
仮説2:
前方: ターゲットの語が引き出された後、発語実現までの調整?
言語:音+意味+経時的処理(ワーキングメモリ)
ワーキングメモリ=作動記憶:視空間性スケッチパッド音韻性ループ
中央遂行系
文レベルの処理(どこまで喋ったか、どのように話すか、、etc.)
症状の詳細(壊れ方)から、見えること
意味に関与していると言われている部位:前頭葉、側頭葉
意味野へのアクセス障害:単語理解障害/呼称障害(時々で言えたり言えなかったり)
意味野の機能障害:あたかも「りんご」が存在しないかのような状態
語彙における「意味」の喪失(語義失語)
語彙そのものが喪失: in/out共に障害
「語彙」と語彙に関係ない「音の操作」は保存
非言語性の意味は保存
単語さえ分かれば文理解の問題は無い
特定の感覚様式に選択的な意味記憶の障害
単語がわからないだけ?
対象物の視覚情報が障害?
言語を介さない課題
他のモダリティーと比較する:聴覚的認知、擬音からはOK。視覚からはNG。
OK: 非視覚情報→呼称、単語→非視覚情報
NG: 視覚情報→呼称、単語→視覚情報
意味記憶の中でも「視覚情報」のみに障害
カテゴリー特異性のある障害
生物VS人工物(個人差大きい)
様々な入力モダリティ(様態)を前提としたモダリティフリーな意味野を構築していると
考えられてきたが、共通の意味システムがあるという話では説明できない。
複数の特化した意味野があると考えるしかない?
「意味野」は単一ではない
「意味野」は特定の感覚様式毎に解離する構造を持っている
入力モダリティー毎に意味システムがあるのか?
堀江薫(名古屋大学):認知類型論の応用的展開:第二言語習得研究との関連を中心に
認知言語学、言語類型論、機能(主義的)言語学、対照言語学、応用認知言語学、認知類型論、日韓対照言語学、文法化、言語接触、第二言語習得
言語類型論とは?
言語の全体像やその構成部分の分類を、それらが共有する形式的特徴に基づいて行う学問分野
語順による言語類型
SOV, SVO(主語先頭)
VSO, VOS(動詞先頭)
OSV, OVS(目的語先頭)
OV言語 vs VO言語
世界の言語の語順類型論:SOV, SVOが圧倒的多数、約80%。VSOが約10%。
SがOに先行する強い選好的傾向
S(主語)は既に前の文脈から分かっている情報(古い情報)を表す傾向が高く、
O(目的語)は「新しい情報」を表す傾向が高い。
情報の流れは「旧情報」→「新情報」
言語類型論と第二言語習得
通言語的な関係節の作りやすさ
習得順序が階層性を反映:主語>直接目的語>関節目的語>斜格目的語
ただし、日本語に関しては必ずしも該当せず [大関2008]
認知類型論(Cognitive Typology)とは?
類型論的に異なる文法的特徴を有する言語間の構造的相違点・類似点
「する言語」vs.「なる言語」 [池上1981,2000]
Person-focus vs. Situation-focus [Hinds 1986]
Reader/Speaker-responsibility [Hinds 1987]
社会言語学的類型論(Sociolinguistic Typology) [Trudgill 2011]
社会的要因が、当該言語において見られる言語特性の分布や言語構造(例:
形態的カテゴリー)の複雑さの程度と相関しているという仮説
社会要因→構造的複雑性
「枠付(framing)」による言語類型 [Talmy 2000]
移動表現に合成されている二つのイベント
動詞枠付 vs. 衛生枠付
第3の枠付パターン: E-languages (例:中国語)
経路も様態も動詞に
枠付が異なる言語の学習は困難。中級〜上級にかけて大きな差が。
枠付による言語類型の3分類(衛生枠付、動詞枠付、equipollently-framed)を支持
E-languiage≠衛生枠付言語
e-framed言語母語話者は動詞枠付言語母語話者よりも衛生枠付言語の習得が早い
移動様態動詞+前置詞が習得し難い
学習者は母語の経路動詞を「go+前置詞」に入れ替える傾向がある
母語からの負の移転
英語教育への提案
習得しやすくて化石化しやすい表現を避ける
ラテン語起源の移動同士enterなど
前置詞の「移動を表す」などの様々なはたらきに気づくように明示的に指導する必要
形態動詞を加えるとどのような意味になるか
<質疑応答>
他者とのやり取りの間で何をどうしているのか。
認知的発達の中で相互作用しながら言語が発達していく。
naltoma: E-languagesである中国語を母語にする人は英語に対する学習が比較的良好
とのことだが、逆にネックになってある一定以上向上しにくくなるという影響は無いのか?
Q: 動詞の習得が遅かったのは静止画だったからでは?
A: 今井:動画で行った。ただし音声は無し。
Q: ペンギンの時には固有名を選択したが、ボールには固有名を取らなかった。
ぬいぐるみということが影響している?
A: 今井:有性無性ではなく日常的に培われた「何に名前を付けるか」が関わっているかと思う。
Q: 子どもは修正し続けるということだが、大人とで対応が異なる?
A: 今井:子どもは明示的に直さなくても徐々に直っていく。
(外国語を学ぶ)大人の場合には明示的に直さないといけない。そもそも注意がされにくい。
Q: ある単語を聞いたとき、何をどのように想起していくのか。
意味野がモダリティーフリーとあったが、一度視覚に入ったものは必ず意味野を通るのか。
A: 大槻:いろんな所から入力として入ってきた「パターン」を概念とかコアなものと
呼んでいると思われる。意味野が入力システム毎に異なるという意味は、
発火パターンが異なるという意味だと解釈している。
Q: おかしな言語習得をするという話があったが。
A: 大槻:脳障害の人で再構築する過程でどうなるかは分からない。
上位概念的に共通事項を抽出する能力が落ちると、崩れていくということはあり得る。
Q: 失語症の症状は改善するか?
A: 大槻:改善はする。ただし、再獲得されやすいものとしにくいものがある。
Q: 類型論における主語の定義は?
A: 堀江:フィリピンのように主語を定義するのが難しい言語もあるが、
認知言語学のプロトタイプ的な考え方を採用している。
動詞との一致を引き起こすとか、語用論的な観点とかから選択的に決まる。
Q: 動詞枠付は程度の問題だと考えると、新たなタイプとしてE言語を考える必要はないのでは?
A: 堀江:チャレンジングな話。説明をするために便利だということで使っている側面もある。
前置詞のようなはたらきをしている動詞は衛生に近いと考えると、
E言語を解消するということも考えられるが、まだ決着はついていない。
Q: 語順とか特定のものについては類似論で説明がつくと思うが、
文法とか全体としては何を提供できるのか?
A: 堀江:全体類型論についてはいろいろ批判があることは事実。
パーツの類型論に走って、全体として特徴付ける類型論は避けられてきた。
アドバンテージがあるとしたら、「する言語」ならこういう構文が好まれるとか、
ある種の特徴付けを提示することはできるかもしれない。
少なくとも教育的なアドバンテージはある。