第548回「親の子育て、就業と貧困問題ー社会的保護の展望ー」 #参加メモ

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先週土曜日のイベントメモ。デザインスクールのテーマとかなり近いということで、沖縄大学の公開講座「親の子育て、就業と貧困問題ー社会的保護の展望ー」を覗いてきました。

以下、参加メモです。當間視点で書いてるので間違ってる可能性あり。

<目次>


[ 全国貧困率の結果と沖縄の位置づけ by 山形大・戸室先生 ]

 都道府県別貧困率を調査した火付け役。貧困問題が注目され始めた当時は全国平均しか数値がなく、この状態で都道府県なり自治体なりで対策を取ろうにもそもそも把握できていないということで、都道府県別の数値を算出したとのこと。

 国が算出した相対的貧困率は貧困線に基づいたもの。貧困線をざっくり説明すると「世帯所得の中央値の半分の額」。平成25年国民生活基礎調査では122万円が貧困基準。中央値の半分にも満たないという点で相対的に貧困としている。金額からかなり厳しい生活状況だと想像できるが、いくつか問題がある。例えば、貧困世帯の収入が同じままで、裕福層だけが所得が減少し、貧困線が120万に下がったとする。所得が120〜122万円弱の世帯は、所得が変わらないにも関わらず基準が変わったために「貧困ではない」とみなされてしまう。
 相対的貧困よりもベターな指標を使いたい。その一つとして、総務省「就業構造基本調査」と厚労省「被保護者調査」を使って都道府県別に算出した。ざっくり説明すると、憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に基づいた都道府県別基準である生活保護基準を用いて、世帯別に算出したもの。その結果がこの報告

 前者の相対的貧困率では全国16.3%、沖縄29.9%(1位)で約1.8倍。
 後者の生保基準貧困率では全国13.8%、沖縄37.5%(1位)で約2.7倍(2012年)。2位は大阪21.8%で大きな差がある。20年前と比べても上昇幅が全国を上回る。貧困率が高い地域はワーキングプア率(低賃金)が高い。また、貧困世帯のうち生活保護を受講している世帯割合(捕捉率)は15.5%。

 沖縄の最低賃金は714円。仮に月20日*8時間で1年間働いたとしても約137万にしかならない。これは「健康で文化的な最低限度の生活」を営める金額なのか。ある閾値を基準としてゼロイチ判定しているのも問題ではないか。捕捉率はヨーロッパだと7〜8割程度に対し、日本平均が2割と低すぎるのはどこに問題があるのか。


[ ひとり親世帯における養育と雇用・就労問題 by しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄・秋吉さん ]

 ひとり親で苦しんでいる人が大勢いる。中でも母子世帯の貧困状況は酷い。具体的に動ける人数が少ない中、より大きな結果を出すには政治への提言だろう。そんな思いから立ち上げ、窓口として調査・整理・提言や、ひとり親への相談対応等しているらしい。

 沖縄県のひとり親世帯(2011年調査)は約3.5万世帯。このうち母子世帯が3万、残りが父子世帯5千世帯で約85%が母子世帯。この割合は全国(約146万世帯)で見てもほぼ同様の割合。
 沖縄県の母子世帯になった理由は、離婚79.3%(80.8%)、未婚12.2%(7.8%)、死別4.9%(7.5%)。カッコ内は全国の数値。どちらも離婚が多く、死別に関しては沖縄は約半分程度と少ないこと、未婚状態で母子世帯となる割合が倍近い点が特徴か。母子世帯になったときの年齢が20歳未満である割合が2.8%(1.6%)と高い点も沖縄の特徴。
 ひとり親世帯になった直後に困ったことは、母子世帯では生活費が圧倒的で83%、次に仕事39%、子育て・教育33%、借金返済21%。これに対し父子世帯では生活費60%、子育て・教育52%、仕事42%、家事32%。子育て・教育・家事で困るのが男親らしいといえばらしいか。

 収入を比較すると、沖縄の母子世帯155万円(181万円)、父子世帯209万円(360万円)。カッコ内は全国平均。
 養育費等の手当てを含めると、沖縄の母子世帯185万円(223万円)、父子世帯232万円(380万円)。
 母子世帯全体に占める生活保護受給世帯は、H23年全国母子世帯等調査によると受給しているのは14%。他は受給していない。沖縄の場合、子どもを預ける場所・職場・急病等での移動等を考慮すると車が必須であることが多いが、生活保護は車があるだけで受給できない。究極の選択を強いられ、受給しない道を選んでいる世帯が多い。

 母子世帯の就労率は沖縄87.5%(全国80.6%)で、これは世界的に見ても高い数値。ひょっとしたら世界一かもしれない。沖縄県の母子世帯正規職員での平均就労収入は209万(全国270万)。パートアルバイトだと124万(全国125万)。母子世帯の母の最終学歴と相関が高いが、大学・大学院卒でも45%は200万円未満であり、上位の26%が400万以上と押し上げている点に注意。
 母子世帯の母が仕事を探す際の条件は、勤務時間・収入・急用への対応の3点。だが条件に合う職場を見つけるのは困難。結果的に収入が低く、電気・電話料金・ガス・家賃等の対応経験がある家庭も多く、それどころか「過去1年間に食料を買えなかった経験がある」母子家庭が45.6%あり、これは最早相対的貧困どころの話ではないのでは。


[ 子どもの貧困は親と地域の貧困から:中小企業における「人を活かす経営」の取組事例 by 副代表理事・宮城さん ]

 全国の中小企業同友会では「良い会社をつくろう」「良い経営環境を作ろう」ということを目的に掲げていることが多い。これに対し、沖縄の同友会では「良い経営者になろう(学ぼう)」も加えている点が違う。中小企業が個々にやれることは少ないが、集まることでやれることは増える。学びの一環として、良いものを共有・蓄積して広める活動をしているとのこと。
 今回は具体例として大宮工機における長年の取り組みが上手くいった例の紹介をされていました。結果としてエコアクション21認証を受け、IT経営実践認定を受け、障害者雇用もうまく動いているようです。

 他にも就業規則の改善例の紹介がありました。
 例えば就業時間。古くは明確な規則がなく、日曜日だけが休み。平日は8時頃まで残業なことが多かった。そんな中、育休で事務職員が一人暫く欠けることに。パートは見つかったがベテラン1人と比べると新パート1人だけで業務が回るとは思えないため、過去に働いていた経験のある元職員に声掛けし、快く引き受けてもらえたため業務を回せるだけでなく、IT導入により簡素化もし始めたため若干時間があまる状態に。また、育児などのため早めに帰りたいという要望もあったため、業務時間と業務日を減らす一環としてまずは事務職のみ週休1日から「3週5休」してみることに。そのため「業務は18:30まで」と社外に声掛けした所、実際に早く業務が終わった。18:00, 17:30,,,と5,6年かけて段階的に減らしてみた結果、今では17時過ぎには会社に誰もいない状態に持ってこれた。ブラック企業等の話題が上っている今の時代だからやれたことかもしれないが、結果的には業務時間&日数を減らすことができている。
 人を大事にする改善を続けた結果、採用にも変化が現れてきた。中小企業のため合同説明会が中心だったが、ここ最近は中途退職者による声かけ等、「**さんから話を聞いた」というケースが増えてきた。
 今後も人材は減っていくことを踏まえ、人を大事にする業務改善に取り組みたい、とのこと。


今回の貧困問題に関する土曜教養講座は今後も継続して続ける模様。