「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会, day1

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ちょっと変わった組み合わせですが、「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会に参加してのメモです。
備忘録としてのメモですが、あくまでも私個人の解釈なので事実誤認も含まれるかもしれません。

なお、発表中にいつでも質疑をする形式だったこともあり、発表タイトルと中身は必ずしも一致してないです。

初日の感想としては、

  1. 倫理が形成される要因を、コミュニティへの参加(コミュニケーション可能)という観点から考えるとリソース制約ぐらいしか必須条件じゃないっぽいように感じた。(発表者の主張としては「他者危害の原則」だったけど)
  2. そもそも倫理って必須条件なのかが疑問。コミュニティへの参加の仕方も多様化してるし。
  3. 自閉症者を異世界に存在する者として捉える見方は新鮮。心の理論を持ってないということでばっさり切り捨てる人もいるんだというのも新鮮。
  4. 「考える対象が分野問わず」という共通点があるというのは面白い。実際いろんな話題について共通理解得られている部分も少なくなかったように感じた。

といったところです。


目次


趣旨説明, 吉満昭宏(琉球大学)・柴田正良(金沢大学)

分野:(応用)哲学+(複雑系)科学
所属:大学院大学(JAIST)+大学+高専

哲学→応用哲学  哲学自体幅広い学問だが、元々はもの作りを通して追求する側面があった。  そこに立ち戻ろうと思ったら「応用哲学」という名称で呼ばれるようになった。  交流を切っ掛けに創発へ。

参加者一同自己紹介


『自閉症の倫理学』を巡る2~3の事柄, 柴田正良(金沢大学)

書籍: The Ethics of Autism
書籍: 治療を越えて バイオテクノロジーと幸福の追求

考えてみたいこと  物理主義的世界において、いかなる倫理が可能か?  物理主義的世界:ここでは一切の心的・文化的存在が物理的・化学的・   生物的存在によって決定される世界のこと。恐らく証明はできない   が、結果的に相関が得ざるを得ない証拠は多くある。妖精とか天使   とか奇跡なんてものは無い。決定論的かどうかについては議論の   余地が多々ある。  人間は、物理主義的世界において何か作用したがる存在。
 倫理がいかなる状況で発生するか?  仮にあらゆる意味で孤独で問題無く暮らせる人がいたとき、  その人にとって倫理は生まれるか?  (という仮状況の設定はどうなんだろう)

共同体テーゼ
 【前提条件】少なくともある期間、各メンバが他メンバと「同等の  権利と義務」を持つことができる  →共同体に属する行為者に倫理が発生する。

歴史上の倫理的共同体  前述のテーゼから線引きをせざるを得ないというのが自然な発想。   (共同体に入るか否かという線引きのこと?)  近年の共同体:黒人・女性・障害者等への権利拡大  人類社会はとりあえず完全義務対象者から成る倫理的共同体。  不完全義務対象者として動物(ペット)を含みつつある。  →仮に安全に精神安定/高揚を調整できる薬が開発されたら?  →記憶消去できるようになったら?  →サイボーグやロボットはどうなるか?   →倫理の前提に「同程度の心身能力」がある?

 人格の定義/コミュニティ一員としての定義

 現時点で科学的に判定できないだけで、ペット/ロボット等も持ってる可能性。  →倫理は人間から見ると人間主体で作らざるを得ない

 倫理が未だに科学的に構築できないのは、  ある意味で物質主義的世界でないことの証明である可能性。

例えばアシモフ: これは倫理ではない  自律性が与えられてない状況で倫理は無い

人類の倫理学的共同体の自然的基盤  (1)人間の傷つきやすさ  (2)おおよその平等  (3)かぎられた利他主義:人間は悪魔でも天使でもない  (4)限られた資源  (5)限られた理解力と意思の強さ

自閉症の倫理学: The Ethics of Autism  1. 自閉症者は非自閉症者とまったく異なる世界に住む  2. 成人の自閉症者は「治療される」必要が無い。望めば別。

キーコンセプトとしての心の理論(Theory of Mind)  自閉症の原因を説明する3つの理論   1. 心の理論説: 他人の気持ちがわからんというのを説明   2. 中心性統合弱化説: 全体を見ずに細部への強い拘りから説明   3. 実行機能弱化説: 同じ動作を繰り返しやるケースを説明   →決定的な説明にはなっていない    自閉症自体が特定理由から生じるものではない可能性    バーンバウムは理由からではなく行動から説明

 ケース:オキシトシン   治療に有効であるケースが少なくないが、   何故有効なのかは分かっていない。

心の理論を欠くとはどういうことか? 自閉症者は道徳的共同体のメンバーか?  共同体の外側に位置する/態度次第では属さないと論ずる人もいる。

自閉症者には自分が運用できる道徳理論がない 異世界の存在者との共生の倫理  自閉症者の完全性  他者危害の原則


討論1「複雑系科学と応用哲学の基礎概念の適合性について」

エンハンスメントの是非
良くあるテーマ例:ドーピングの是非
 遺伝子:工学的/ブリーディング
 自然さ==その時々の直感?

心の理論  有名な実験:誤信念課題   子供に人形劇(二つある箱のいずれかにおもちゃを入れて、   部屋から出かける。おもちゃはどこにあるか)を見せる実験。   4歳未満の健常児はまず間違う。自閉症児だと12未満でも成功率80%未満。   (悪魔/天使な私とか内面に複数の自分は居ない?)  別実験:異欲求課題   信念よりは理解しやすい欲求を対象とした課題  ファーストオーダ/セカンドオーダ   ファーストだと自分だけの問題   倫理ではセカンドオーダの確認は困難?   オーダが上がることは気にする必要が無いのか    e.g., 自分がそれをされたくない→他者に迷惑をかけない    裁判官のようなケースではオーダの高い能力が必要だと思うが、    「倫理的に振る舞う」だとセカンドオーダで十分では。     別例:「罰する」→「何もしないと罰する」で協力が生まれる例      TFTだけじゃなく別要素を導入した実験。

ドーピングの是非  ルールを変えても同じ状況は現れる

共生の倫理  他者危害の原則   他者の自由を侵さない   これに抵触しない別原則は多数考えられ、どれを選ぶかの原則は分からない

道徳的行動のレベル/差異  コンベンショナルな道徳:自閉症者でも割と分かる  モラル的な道徳

(リソース制約無視の話に聞こえていたのだけど、討論意図はどこにあるのだろう)


ミクロマクロ・ループ・アプローチにおけるルールと戦略のOpen-ended dynamics――学習、進化、そして内部ダイナミクスの役割, 佐藤尚(沖縄高専)

「複雑系」科学の方法論
構成的手法によるアプローチ
 多数の要素が相互作用する環境→創発
  相互作用の結果生み出された機能や構造が作り手にも影響を及ぼすことを含めた包括的な概念
  →影響がダイナミックに作用し合う
   バサッと切り取って見ることができない
   要素に分解すると本質が失われる「複雑系」
 1. 理解したい対象の「元となるシステム」を構成する(作る)
 2. それ(ら)を用いて計算機で実験する(動かす)
 3. これらのことを通して対象の理解を試みる

シミュレーション  100%再現することは考えない  重要な要素(現象の核)が何なのかを考え、そのことを検証する  モデル化   モデル化の方法は直感/サーベイ/組み合わせ/etc.で仮説構築  実験で検証   単なる現象の模倣ではなく、   現象の裏にある本質的な論理を理解することを目指す。   本当にそれが重要な要素なのかどうかは実験以外の主張はできない。

シミュレーションの同定手順  1. 対象の観察→内部構造を推定   例:制度。not法律。集団内で共通した様式。    →元システム=その制度を作った人間     内部構造=人間の内部構造(ルールを作りだす際に必要な機能は?)   経験や学習を通して価値観等が変化   内部ダイナミクス    内部の状態が外部要因からの影響を受けずに内部状態が変化する

  比較対象間で同質のものを探そうとするだけでなく、   俯瞰的に見て「生成されるものの影響」も加味したり、   考慮してなかった第三の要素なども考慮するような幅広い視野が重要。

  説明力    相補的な立場。    例:言語学→言語の成り立ち     チョムスキーの生成文法→実験的に例示や反証    予測としての側面     古典物理学レベルの予測は無理(具体的なレベルでの予測は困難)     定性的な予測は可能なものもある(抽象的なレベルでの予測は可能)

 2. 特徴抽出  3. 構成モデルの作成  4. シミュレーション  5. 結果の評価  6. 対象と構成モデルとの比較・検討

アナロジー

対象を問わない(限定しない)という点で複雑系科学と哲学は似ている

複雑系科学のメタフィジクス  現象の分類   代表的なものはある。定性的不変クラスは出尽くしている?    ベキ/同期/カオス/自己複製/自己組織化/etc.  現象を捉える時の粒度依存  好きなモデルがある   力学モデル/計算モデル/確立モデル

表象の有無  人間モデル→力学モデル+自己学習=RNN   Elman Network    スケールアップ問題     徐々にニューロン数/層数を増やしながら複雑な学習をさせていく方がベターという報告    過学習問題  どこまであれば「表象がある」?   定義困難、プアか否かぐらい?   タコイカ細胞ではない   内部ダイナミクス(アトラクタ)としての表象    ダイナミクスに応じて行動も変わる  「表象」の必要性   猫+イカとかを説明しやすい

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