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From: Hideaki Iwata
Newsgroups: fj.soc.copyright
Subject: Re: 質問です……
Date: 12 Sep 2000 18:00:49 +0900
Organization: Center for Information Science, Wakayama University
Lines: 113
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ひで@和大、です。別に専門ではなくて、単なるサイドワークあるいは
ライフワークですけど:-)
北島 哲郎 writes:
> こんにちわ。北島@東大ピアノの会 と申します。
> 1.9月11日に東京高裁で出た判決では、民間が小学校教科書の補完のため
> に作成している理解度テスト(のようなもの)は著作権法にいう「試験問題」
> ではないとの見解が示されたようですが、どのような根拠なのでしょうか?
> #小学校のテストが「試験問題」ではないとすると、何が「試験問題」なので
> しょうか?
第一に、私はまだその判決文を読んでいません。
あと二、三日すれば、最高裁判所のWebに掲載されるでしょうから、
それを待って正式な判断を御自身で下されればよろしいと思います。
ただ、新聞報道ならびにこれまでの経緯から簡単に解説します。
第一に、著作権法(以下、法)で「試験」となれば、36条となります。
第三十六条(試験問題としての複製)
公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は
検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問
題として複製することができる。
2 営利を目的として前項の複製を行なう者は、通常の使用料の額に相
当する額の補償金を著作権者に支払わなければなら
2項の存在が明らかの通り、ここでいう「試験」とは、例えば入学試験
等の、公共性が非常に高く、かつ、事前の秘匿性を要する事例に限られ
ています。今回、争点となっている「試験」は、「民間が」有料で行
なっている「理解度テスト」であり、公共性や秘匿性をそれほど必要と
しないものだと考えられた言えるでしょう。
また、教科書(教科用図書)に関してもほぼ同様の流れとなっています。
第三十三条(教科用図書等への掲載)
公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認められる限度におい
て、教科用図書(小学校、中学校又は高等学校又は中等教育学校その
他これらに準ずる学校における教育の用に供される児童用又は生徒用
の図書であつて、文部大臣の検定を経たもの又は文部省が著作の名義
を有するものをいう。)に掲載することができる。
2 前項の規定により著作物を教科用図書に掲載する者は、その旨を著
作者に通知するとともに、同項の規定の趣旨、著作物の種類及び用途、
通常の使用料の額その他の事情を考慮して文化庁長官が毎年定める額
の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 文化庁長官は、前項の定めをしたときは、これを官報で告示する。
4 前三項の規定は、高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)の
通信教育用学習図書及び第一項の教科用図書に係る教師用指導書(当
該教科用図書を発行する者の発行に係るものに限る。)への著作物の掲
載について準用する。
(平一〇法一〇一・1項4項一部改正)
法33条もまた、近年、著作者の経済的損失の補償と言う側面に注目し、
法を改正することで著作者の権利を守りつつ公正な利用に心掛ける
方向にあります。つまり、文部省が指定する教科書に対しては33条の
適用を維持するが、各学校(教室/教員)が導入の是非を含め判断を
下す補助教材(教科書以外)に対しては、その採用を著作者が拒否す
ることはできないが、一方で相応の補償金を支払う義務が出版者には
ある、としています。
# つまり、教科書準拠の補助教材の場合、教科書に掲載されている
# 文章を何らかの形で掲載する必要がある訳で、その部分に著作者
# が「あの出版者は嫌いだから俺の文章を載せるのは許さん」と
# 主張することは出版者の死活問題となり、著作物の公正な利用に
# 基づく文化の発展には寄与しない、との判断です。
補助教材に関する社団法人を作り、権利の集中を行なうことによって
出版者と著作者の間を取り持ち、補償金制度の充実を図っています。
この様な流れから見れば、先の東京高裁の判断は、時流に載った
判断と言えるでしょう。
# ま、その妥当性はまた別の議論、ということで。
# ただ、補助教材に関しても著作者の権利保護を唱った裁判例が
# 最近あったはず。ちょっと忘れたけど。
> また、個人的な見解ですが、国語のテスト問題への文章の引用は著作権より
> も著作者人格権にかかわる問題のほうが大きいと思います。これについて、皆
> 様のお考えはいかがでしょうか?
著作権という用語には、二種類の使い方があります。
財産権としての著作権を狭義の著作権とも呼び、著作者人格権と区別
する場合もありますが、他方、狭義の著作権と著作者人格権を合わせ
て広義の著作権と呼ぶ場合もあります。
実際問題として、著作権法では著作者人格権にも言及していますから、
著作権法が規定する著作権の中に、著作者人格権も含まれる訳です。
だから、著作権という用語が出てくれば、その文脈に基づいて、それが
狭義なのか広義なのかを判断する必要が、読者にはある訳です。
# って、ここら辺を議論し出すと大陸法(ドイツ法)とアメリカ法の
# ミックスとしてのわが国の著作権法って話になって、非常にややこ
# しいので興味があれば自分で勉強して下さい:-)
> 2.クラシック音楽の世界では伝統的に他人の書いた音楽をもとに「変奏曲」
> を書くという習慣がありますが、現在の著作権法体系のもとではこの行為はど
> のような扱いになるのでしょうか?また、作品中への引用についてどのような
> 扱いになるのかご教授願います。
> #以前受けた著作権法の講義では、音楽作品の引用という概念は存在しないと
> していましたが、被引用作品が著名であれば「被引用作品と引用した作品の明
> 快な分離」も可能であると私は考えています。
これに関しては、
第二十七条(翻訳権、翻案権等)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色
し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
でしょう。その解説は、普通の著作権法の解説書には必ずといって良い
ほど裁判例を含め紹介されていますので、一度図書館等で自らがお調べ
になることを提案します。
ではでは。
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