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From: Hideaki Iwata 
Newsgroups: fj.soc.copyright
Subject: Re: 30条と49 	条 (罰則関係   	)
Date: 28 Sep 2000 13:33:56 +0900
Organization: Center for Information Science, Wakayama University
Lines: 119
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ひで@和大、です。

kumasan@rinc.or.jp writes:
>  補償金導入について書かれたS56の著作権審議報告書の理論は本来
>  法によって制限されている私的使用範囲(岩田氏が度々引用する文
>  面)を外れてユーザーが使用する事(実際の運用における私的使用
>  範囲)があるのでこれを補償する必要があると説いていたのでは?
>  従って補償金という言葉を用いたとしても‘制限’の解釈に異論を
>  挟む必要は無いと思います。

いえ、違います。
当時の法が考えていた私的使用を目的とした複製であったとしても、
場合によっては著作権者の経済活動に無視できないだけの影響が存在
すると認められる部分もあるので、そういった部分を解消する手段を
何らかの形で導入することを検討しなければならない、ってのが昭和
56年報告書の結論です。

# 結論は、制度の導入は時期尚早だが、国民的合意形成に今後努力
# すべし、です。

で、平成3年報告書では、あの議論から10年以上経過し、国民的合意も
形成されたように見えるから、導入しましょう、です。

で、30条以下の権利の制限全てを網羅する議論ってのはしんどいので、
今は30条のみに限定して議論します。
他の制限はちょっと横に置いておきます。

まず、昭和45年(現行法制定時)の状況を考えます。
田村先生はその著書で、30条の規定をもって二つの側面があると述べ
ています。(「著作権法概説」有斐閣、166頁)

・私的領域内で行なわれる複製までも禁止してしまうと、人間の行動の
  自由は過度に阻害される
・私的複製を著作権の範囲内としたとしても権利処理の費用は高く、
  権利侵害をチェックすることも困難

前者は、例えば日本国憲法における「思想・信条の無制限の自由」とも
相通じるところがあります。たとえば有名人のアイコラを作ったとして
も、それが純粋に私的領域内に留まるのであれば、本人の自由であって
他者の権利(アイコラの元になった人の人権を含めてね)を侵害したと
は言えない、ってのがその根幹です。

# 人気のないハラッパに掘った穴に向かって「王様の耳はロバの耳!」
# って叫んでも罰せられないのと一緒:-)

その面では「私的使用目的の複製」と言う行為は、完全に「著作者が専
有する複製権」の枠外である、と言えます。

しかし、現実問題として、科学技術の発達によって複製行為が比較的簡
単に、かつ、デジタル著作物の場合は情報としてはオリジナルと全く同
一な複製物が作成できる時代になってきた。この様な状況下では、私的
領域と言えども、「著作物が通常利用される市場を侵奪することなく、
著作権者の利益を不当に害している」(前著、167頁)と判断できる。

例えば、レンタルCDを借りてきて、それをDATなどにコピーする行為ね。
私的領域ならば30条があるから、(レンタル代金に含まれる以外の)経
済的利益を著作権者に還元する必要はないはず。しかし、実際問題とし
ては、その結果、CDを買わずにレンタルで済ませてしまうケースもしば
しば見受けられる。しかし、CDに収納されているデジタルデータと、DAT
に含まれるそれは、原則的には全く同一のもの。

この現象の発生が著作権法の理念と照らし合わせて、本当にそれでいい
のか?って疑問から著作権審議会報告は検討がなされている。

結局、30条の理念は、先の二つの大原則以外に、公共の福祉(文化的
所産である著作物の公正な利用)という観点から見れば、経済的側面か
らの検討、という、もう一つのパラメータを導入せざる得ない、との結
論を導出している。

だから、本質的に著作者の権利の枠外に存在する事例に対しても、経済
的側面というパラメータで再度計り直して、場合によっては何らかの社
会的措置を講ずる必要がある、ってこと。

公共の福祉(公益)ってのは、利用する側にのみ認められるものじゃな
い。提供する側にだって配慮する必要がある。

じゃあ、具体的にどういった措置が取れるんだ、ってなると、一つは
例えばデジタル著作物に関しては私的領域であっても著作者の圏外と
する、って方法もある。でもそうすると、先の二つの大原則が立ちはだ
かる。私的領域であっても複製行為を一つ一つ監視し、これはデジタル
じゃないから良い、これは駄目、って第三者が判断することになると、
小説「1984」に描かれる管理社会の再現になっちまう。
だから、補償金制度と言う、一種のどんぶり勘定的な解決策を導入した。

かつ、甚だ不完全ではあるが、補償金は著作者に還元することを原則と
した。例えば、国家(政府)が集めた補償金を吸収し、文化の発展の為
の政策に用いる財源とする案も、ある種の正当性を持つだろうけど、著
作物の製作者たる著作者に、原則還元しましょう、としている。
それは、私的領域と著作者の「距離の近さ」を認めた結果である。

# たとえばサッカークジの場合は、一定の割合を公益団体が吸収し、
# 地域文化発展の為に利用する訳でしょう?

つまり、私的領域における複製は原則、著作権者が有する権利の枠外で
あると公益性から決定したが、それによって著作権者が経済的不利益を
被っている点は、公共の福祉の観点からは適正でない。
よって、私的領域であっても経済的側面から見れば過度な「権利の制限」
な部分を認定し、補償金という形で著作権者に還元しましょう、っての
が30条2項。私的領域における使用に対しては、著作者の拒否権は認めな
かった(平成4年改正時はね)。

結論を言えば、「私的領域だから」「権利の枠外」ってのは間違いで
あって、「私的領域ではあり」かつ「公益性からみて妥当な範囲であろう
と社会が判断したから」「権利の枠外」にしているに過ぎない。

私的領域が「錦の御旗」ではないことは、30条2項が証明している。

かつ、平成11年の改正で、技術的保護手段回避の禁止が決まったから、
私的領域であっても複製を拒否する権利を著作権者に認めてしまってい
る。拒否権を含んだ「公的な権利の制限」ってところに注目すると、
もはや、著作権者の「権利の枠外」って単純な議論は出来なくなる。

むしろ、本来的には複製権は著作者が専有するが、様々な理由から法
がその権利を制限しているケースがある、とする方が自然。

そういった視点に立たないと、現状の「著作権者の権利強化」の方向
は説明できない、と主張しているだけ。

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