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「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会, day3

水曜日, 8月 31st, 2011

「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会、最終日3日目のメモです。

古典論理〜関連論理周りの話については殆どついていけてなかったのですが、可能世界における矛盾やギャップを埋め合わせるために指標やスターを導入している人らがいる一方で、それらを関連性’→’のみで説明できる(=記述できる)ようにしようとしている人らがいるということは分かりました。

言語進化学の方は、関連学会がとても面白そう。最近は実験検証が増えてきているようですが、それ以上に結果をどう解釈するのが妥当かについての討論が大変そうな印象。獲得できた言語にcompositionalな性質があるからといって、それが自然界にあるものを模写したに過ぎないという観点は目から鱗。環境要因重要だ。


目次


「関連論理の可能性を探る」, 吉満昭宏(琉球大学)

関連論理から見た古典論理のアノマリー
 C.I.ルイス
 CL:古典論理→数学等
  リッチ過ぎて都合が悪いケースが。
  CLからリッチな部分を除いて構成したものがRL(関連論理)。
  他にもRL(R), RL(B) 等いろいろある。
  Rは最も強い構成、Bが中間?、Sが最も弱い構成。

アノマリー
 古典論理(?)では上手く説明できないもの。
 関連論理から見ると妙に見える古典論理。
  含意、否定、連言を使った例題5ケース(式)
   *含意と条件の区別が必要で、文字通りの「含意」ではない
  a. ~p⊃(p⊃q): 偽な命題は任意の命題を含意する
  古典論理では形式的真理であるが、
  どの式も「命題p,qの間にある演繹的な関連性を無視している」ように見える。
 様相論理
  〜ねばならない(必然性)
   □(1+1=2)
   必然性オペレータの導入→可能性を考慮せざるを得なくなった
   様相論理のように単純にオペレータを導入するのではなく、
   導入することで何が起きるかを、オペレータが何を意味するのかを考える必要がある。
  〜はできる(可能性)
   ◇(1+1=2)

意味論
 ラウトリー=マイヤー・パラダイム:純粋意味論
 「p→q」への意味を与えた。
  様相論理と比較して、人工的過ぎて本質的な意味が分からないという批判。
  →応用意味論
   自然な解釈まで得られている意味論
   例「全てのwでpが真」。wに解釈を加える。

関連論理へ意味論の付与
 Copeland: 自然な解釈を与えたが、複雑。
 真理値が公理に則して演算できるように演算子を導入しただけ。

実は二種類あったアノマリー
 古典→関連
  含意/演繹的関連: '⊃' → '→' *Aアノマリー(式a,b,c)
  否定: '〜' → '¬'    *Bアノマリー(式d,e)
 関連論理はAアノマリーだけで説明するんじゃないのか?
 Bアノマリーがあっても良いが、Aアノマリーとの関係性はある(説明できる)のか?
 2本立てで説明するならそこにも関係性があるべきでは?

意味論のアプローチまとめ
 A~Cは応用意味論、Dは全く異なる方針。
 A. 簡潔化された意味論: G.プリースト、R.シルヴァン
  殆ど説明できてないし、スターはそもそも無理。
 B. 状況意味論: E.D.メアズ、G.レストール
  状況と状況から新しい状況を生成して説明。
 C. 内容意味論: R.T.ブレイディ
 D. 非形式論理への転換: コープランド, R.L.イプステイン
  '→'関連性のみで説明できるようになるだろう。
  でも、それだと形式論理ではない。


可能世界 vs 状況
 '可能世界'では完全性がある。必ず真偽がある。
  矛盾やギャップを含めて説明しようとすると指標やスターが必要になる。
  でも矛盾が存在する世界を可能世界と呼んで良いのか?
   pure semantics 込みだと矛盾がある世界はどうなの?
 '状況'では良い(え、何で?)
  矛盾した信念を持ってても良い。
  信念分析の場合にwを使うのは宜しくない(?)
   別の指標が望ましい(?)
  →矛盾が存在するからといって何でも真になる世界ではない。
   古典論理だと何でも真になってしまう。

applied semantics
situation / state / event


討論3「複雑系科学と応用哲学のコラボレートの可能性」

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「言語とコミュニケーションの進化~実験アプローチの展開」, 橋本敬(JAIST)

アウトライン
 自己紹介
  JAIST知識科学研究科
   人文社会系の知と理工系の知の融合
   知識の想像・共有・活用を科学する
    言語と社会制度から生まれる知識というフレームワークについて
    複雑系科学でアプローチ
  伝達創成機構
   ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明
   コミュニケーション神経情報学
   コミュニケーションとダイナミクスの次元の関係
    非線形ダイナミクスとしてできるだけ力学系として捉える(イメージ)
    理解(意味の共有):N+N2N
    協調・共感:N+N=N
     N=ダイナミクスの次元
  EVOLANG IX(国際会議)
   言語学/生物学/進化学/工学等々が集合

言語進化の紹介
進化言語学の問題設定
言語の起源と進化
 言語起源
  言語を用いる能力の生物進化過程
 言語進化
  (言語を用いる能力による)言語の複雑化・構造化の文化進化過程

比較認知科学
 鳥との比較が多い
  鳥は低レベルのセマンティック(?)があり、それとの比較。
  言語としての比較ではなく、言語を構成する要素/機能/程度等で比較。

前適応
 別の機能を発揮することでセレクションされた能力が言語能力にも使えた。
 分解された能力の「元」は何なのか。
  例:ミラーニューロン

進化という観点から、人間の本性としての言語、人間そのものを理解する。
 数理モデル、シミュレーション

Chomskyらの仮説
 広義言語能力(FLB)
 狭義言語能力(FLN)
  再帰操作。
   計算システム→再帰→内部表現+有限要素→無限の表現
   音韻システム:知覚・運動システム
   意味システム:概念・志向システム
 あくまでも候補であって、これ以外を持っていても良いという立場。
 生成文法学者が支持。
  認知言語学者は誤りという立場。

言語の定義
 チョムスキー一派は明確に与える
 認知言語学派はあやふや
  進化言語学として科学的に捉えやすくなってきてはいる。

自己組織化
言語進化の実験アプローチ
 合成性:単語や文の意味が、その部分と組み合わせ方の何らかの関数になっている
  赤い丸/walk+ed=walked
 構造により意味が異なる:taro watched a girl with telescope.
 繰り返し学習を実験室で実現
  Cumulative cultural evolution in the laboratory: An experimental approach to the origins of structure in human language, Kirby, S., Comish, H., & Smith, K., 2008
 シミュレーションでも実験でも自己組織化された
  言語は言語能力が獲得しやすいように進化するし、
  言語獲得能力はより複雑な言語を獲得しやすいように進化する共進化。
 inductive bias がある。
 ベイズ繰り返し学習, Kalish, Griffiths & Lewandowsky, 2007
  汎化学習されやすいように言語が構造化(文化進化)
  その結果として、合成的言語ができる
  Kirby, 2002; Brighton, 2002; Smith 2003; Griffiths & Kalish, 2005
  情報伝達システムの法則。言語はその一事例。

合成性/compositionalな構造
 言語がcompositionalな構成を獲得したのではなく、
 最初から自然/世界にはcompositionalな情報があり、
 言語はそれを写し取ったに過ぎない。
  世界を分節して認知する力?
  人間だけが何でこうなった?
  情報伝達システム全般でそうならないのは何故?
   人間固有の能力に関して論じるには不十分な実験
   メタファー

機能語/内容語:認知意味論
 人間特有:機能語がある
 機能語は内容語から意味変化して生成。
  行く→未来
 一方向性がある意味変化。逆方向は殆どない。抽象度の上がる方向へ。
 内容語→機能語の中に抽象度が上がる方向への意味変化。
  何故一方向性が生じるのか?
   人間特有の現象なのでこれを明かすことで特有の言語認知能力についての説明を。
  「抽象」が元々無いからでは?
  一方向性が実現する認知的なバイアス?

言語の働き
 新しい概念を生み出す

構成論的手法の弱み
 シミュレーション結果の解釈

コミュニケーション
 動物のコミュニケーション
  平均すれば送り手が受け手の反応によって利益を得るような、
  ある動物から他の動物への信号の伝達(Slater, 1983)
   あざむき
    動物:刺激反射系でも結構複雑なことを学習できる
    心の理論/刺激反射
 ことばによるコミュニケーション
 記号コミュニケーション

「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会, day2

火曜日, 8月 30th, 2011

「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会、2日目のメモです。

初日もそうでしたが、二日目は初日以上に討論を通しての互いの意識・問題点・アプローチの妥当性といった様々な観点における擦り合わせを中心として進み、結果的には発表者自身も様々な視点を得られているという形になっていました。異分野の専門家同士が本気で討論し合うと、全国大会やシンポジウム、研究会とも違った面白さがありますね。

複雑系科学と哲学の親和性の高さというか、似たような所で困ってるという印象を強く持った一日でした。
また、複雑系工学との違いというか「構成的アプローチ→実環境へのアナロジー」を強烈に問い続けている点は、なるほどという印象。工学的には「実際にそういうモデルで動いているかどうかはおいといて、とにかく効率良く動けば良い」みたいなところもあるし。


目次


「心の哲学とロボット工学の出会い~ロボットの持ち得る意図的主体性は人の心的表象の理解にどのように迫れるか」 , 金野武司(JAIST)

共同注意という現象の理解に構成的アプローチで迫る
共同研究
 認知ロボティクスの哲学
 意図的主体性のロボット的構築に向けて

研究の興味
 人の人らしさはどんなところにあるのか?
  意図を推論し合うスタイル
  シンボル操作による創造性の発揮
 非言語コミュニケーション
  共同注意における心的理解の発達過程(乳幼児)
 言語コミュニケーション
  記号によるコミュニケーションシステムの形成過程

複雑系としての問い
 社会の規範が先か、個人の能力獲得が先か(にわとりたまご問題)

  必ずしも因果に分けて議論できない現象
  因あって果があり、それがまた因へ影響を及ぼす。その繰り返しでルールも変化していく。
  こういうループ構造を持つものとして捉えるのが複雑系の見方。
   進化発達過程
    汎用的な学習モジュールが最初から備わっているのか。
    規範(制度)を生み出すための特化した能力があるのか。
    学習モジュール+規範生成能力の両方が無いといけないのか。
     人間以外には規範を生み出せない?
      八の字ダンス:inertに持ってるif-thenルールに過ぎない?

inert問題/学習vs発達
 言語を獲得する能力はinert。日本語を獲得するのは学習。
 通常の然るべき環境におかれて自然と獲得するものはinert、とするのが良いのでは。
  ある状況化ではこうなる、という能力そのものをinertと呼ぶのは良いが、
  状況まで含めてinertというのは行き過ぎでは。
   体内外では分けられない?→困難
    線引き問題なので今回はここまで。
 基盤としてのコミュニケーション能力=inert。

乳幼児の発達過程
 反射的な行動をする状態から、気がつけば意図を理解した状態に→社会参加
 社会に適応する能力の発達は相互補完でロバスト

コミュニケーションで大事なことは?
 書籍「自閉症の謎を解き明かす」1991, p.209
  食卓で「お箸取れる」「取れるよ(取らない)」
  電話で「誰々いますか?」「います(呼んで来ない)」
 他者の意図を理解する
  その人が何をしたいのか、何をして欲しいのか。
  自閉症者だと、言語的な学習はできるが、意図は学習できない?
   特殊パターン(意図を理解するのではなくif-thenで覚える)を多数学習する。
   どのパターンに当てはまるか曖昧な状況ではパニックに陥ることも。

他者の意図を読む?
 G. Gergely, et.al., Rational imitation in preverbal infants, Nature, 415(6873):755, 2002.
  意図を理解してるか否かで説明しやすい実験。
  14歳児頃からそういうことを理解していると解釈できるような反応。
   模倣してるだけ?
    模倣してるだけだとしたら何を模倣している?
 N. Meltzoffらの実験(1995) ボルトとナットの実験
  どのような状況下で意図を推論しようとする能力を発動させるか。
  ロボットでも視線のやり取りをすると発動することが多くなる。
   ザクのような顔では顔と認識しない?
   数ヶ月ではおぼろげで視線には反応できない(顔の向き等)。
   12ヶ月頃から視線に。
 意図性の判定はもの凄くグレー。
 意図に気づき始めると何にでも意図を考えたくなるのか
 何故何故坊や
  女子:ターンテイク自体を目的としがち
  男子:何故なのかを知ることを目的としがち

視線のやりとりについての発達
 共同注意
  親の視線方向に目を向ける行動(6ヶ月頃〜)
  他者の意図を理解(14ヶ月頃〜)
  他者と意図を共有する(24ヶ月頃〜)
  「自分がそのオブジェクトに注目していることを、
   親が分かっている
   ことを自分は知っている」
   that節としては(遅延して)言語獲得できるが、構造としての入れ子構造にはならない(?)
  Tomasello 195, Dennett 1987, 金沢1999

心的理解の発達をどう解明するか?
 3つの過程
  1. 反射的な行動から意図的な行動への発達
  2. 他者の意図を理解する段階への発達
  3. 他者に意図を伝え、意図を共有する段階への発達
 Tomasello, 心の理論, 発達心理学, 信念
 誤信念課題までは考えていない
 心の理論課題
  欧米では3~4歳からじゃないと無理(と言われているのを良く聞く)
  日本では4~5歳からじゃないと無理(と言われているのを良く聞く)
   論文としてはまとまってない
   言語の問題?文化の問題?実験設計の問題?
    日本語がシステマティックじゃない分、文脈依存度が高く、
    心の理論問題のようなシンプルな課題に落とし込めない?
     だからこそ他者の意図理解が大切では?

Tomasello, 2000(書籍)
 意図的な主体になる
  意図に身を任せた行動/メタ認知/反射的な行為

反射的な行動を生成するシステムの用意
 周辺刺激への敏感性, Atkinson et al., 1992
 反射的な共同注意(共同注視), Hood et al, 1998; 板倉, 2005
 視覚定位の運動モジュール+学習モジュール, Nagai, 2003; Triesch et al, 2006
  モジュールを並列化することでも反射的に行動する点は変わらないという立場
 意図的な共同注意
  学習モジュールで必要なこと
   親が見た対象を思い浮かべ、その想起対象があるだろう方向に視界を向ける
 →8名被験者での予備実験では差が見られず
 見ようとしていると感じさせた行動
  反射的なロボット:ボールとは違うところを見たらそっちを見たとき
   =反射的な行動
  意図的なロボット:「自分が適当なところを見ていたら、ロボットがボールを見ていた」とき
   =意図的な行動
  →意図を感じさせた状況に違いがある


討論2「心へのアプローチ:複雑系科学と応用哲学の方法論的差異」

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「ポテンシャルモデルを用いた均衡表現による囲碁の解法」, 大島真(琉球大学大学院 理工学研究科 総合知能工学専攻)

山田研究室紹介
 複雑系xモジュールロボット
 複雑系xボードゲーム
  局面=配置そのもの。not情勢。
   およそ10^360乗
  固有ルールが存在し、ルールが特有の構造を作る。

囲碁の概要
囲碁の研究
 「競合共進化アルゴリズム」を利用した「詰め碁」の解獲得
  競合共進化:敵対関係にある種間で共に進化
  共生共進化:助け合いながら進化
 「モンテカルロ碁」に対する「ポテンシャルモデル」の適用

共進化
 種として分けられるのか/分けることの意味
  今回は先手後手でコーディングが異なる
   大雑把には同一ルールだが分けないとうまくいかない?
   バリエーションの問題なら島GAとか別解決がありそう。
    先手後手を分けないとコーディング/適応度関数が設計上複雑になり過ぎそう。
    詰め碁なので対戦よりはパズルに近く、役割が固定されているとした方が楽。
     対戦のような局面が偏っていない状況化では先手後手を混ぜた設計が必要では。
 適応度の設計
  呼吸点 liberties を主体とした設計

囲碁の問題点
 適応度関数の設計が分からない
  いつどのタイミングでどこにおくべきか
  勝敗に至るプロセス
 将棋やチェスだと駒毎に点数付けたり、動ける範囲を考慮することで点数化しやすい傾向。
 全体を見る大局観が必須。

ポテンシャルモデル
 黒白を対極ポテンシャルとみなす。
 ポテンシャルエネルギーの均衡状態を指標に探索空間を一部に限定することで計算コスト削減。
 領域を制限したモンテカルロ碁=ゲーム探索木+数値的特徴

ポテンシャルの決め方
 石のある場所を最大値とし、1マス離れる毎に半分。
  正当性は実験で検証。
  一般モンテカルロでの全領域対象した勝率の偏りで評価?
  でもポテンシャル場は勝率を表す訳ではないのでは?
   モンテカルロ碁の計算コスト削減は分かるが、大局観に繋がる?
    単峰性よりも多峰性の方が良いよねというヒューリスティックのように繋がると面白そう。
 枝狩り方法
  陽領域/陰領域/なだらか領域/勾配領域
  勾配領域が最も枝狩りできた(16手目ぐらいまで)
   何故序盤で勾配領域を選ぶと良くなるのか?
  陽領域はすぐ下降。
  領域のコンビネーションは?
   勾配領域をベースに手探りで組み合わせると、多少改善。
 モンテカルロ碁自体が正解を出すものではない
 棋符で確認してみるとか

ポテンシャル場と呼ぶ必要性
 場ではあるがポテンシャルにはなっていないような。
 勾配を利用して進む訳でもない。


「心の観測装置としての身体表現―マインド・リードをめぐる実験哲学の試み―」 , 長滝祥司(中京大学)

心の研究
 脳科学者らの蓄積してきた経験的データ
 脳の状態と心的状態との対応関係を解明するやり方
 哲学者の言う「説明ギャップ」
  マッピングできたからといって実際にそのように生じているとは言えないのでは。
 (1) 心的状態にアクセスする二つの方法。
  一人称の方法と準二人称(準三人称)
   観察者が被験者の行為を見て心の状態を推測できるかどうか。
   一人称(内観)を信頼する程度には準三人称も信頼して使うのでは?
   表情や身体動作を見て記述された内容はどのぐらい信頼性があるのか?
    一人称と準三人称の報告を比較した時に、準三人称でも良いとされた時の嬉しいことは?
     手段が内観だけでなくなるので、ツールが増える。
 (2) 素朴心理学を巡る論争とそれに関連する現象学の議論を検討。
 (3) 心的状態にアクセスする準二人称の方法の検討。
 (4) 身体表現の理解や記述の程度や情報量・信頼性について実験的検証を踏まえた検討。
 (5) 身体表現や表情の記述の適用可能性についての考察。

心の科学の難しさ
 脳内の計測は技術的に精度が向上していく。
 脳内状態と心的状態との対応関係については困難。 
 観測者間の違い/共通了解
  言語表現/類似した記述の仕方
  数量化する装置では「観測者間の違い/曖昧な状態/読めない状態」を扱いづらい。

観察者の訓練
 神経現象学(Valera, F., Thompson, E.)
  被験者を訓練することで主観的報告の信頼性をあげるという方法。
 共感能力
  重要だが、心的状態のあらゆる次元で等しく信頼できる情報を与えてくれる訳ではない。
  この能力の及ばない心的状態もある。
  →第二の方法で得られた情報が、客観的データとしてどの程度信頼性を持ちうるか

素朴心理学を巡る論争
 理論説
  「素朴心理学は一つの理論(心の理論)である」と主張する立場。
  機能主義。因果を説明。
 シミュレーション説
  素朴心理学は他人に対するシミュレーションの実践だと主張する立場。
  「他人と自分は類似した存在者である」という前提からはじめる。
  オフラインで自分の反応を使う。
   シンパシーを使う。エンパシーではない。
   他人の気持ちを慮る訳ではなく、自分がその人になっちゃう。
   感染:もらい泣き。
    シミュレーションか?
 どちらも心的概念は必要。ハイブリッドもある。
 状況により使い分ける人もいれば、両方とも使わない人も。
 ギャラガー「内的装置も推論も使わずに目で知覚するように相手の心的状態が理解できる」

現象学の提案
 メルロ=ボンティの言葉
 →顔に限定せずに身体に拡張しても良い
  心的状態を表現する時にしばしば身体全体を使う。
  心は身体表現において可視化されている。

他人の心を理解する能力
 生得的と呼べる部分/社会関係の中で獲得される部分
 他人理解に失敗する理由
  身体動作や表情に本質的に現れない領域がある程度存在する
  理解する能力が不足している
  →能力養成で客観的な記述を。

作業療法士を対象とした実験
 職人芸的な趣が強い。
  第三者に伝えるのが困難
 理解したと思っても独断的な解釈の可能性として批判されることも。
  患者の意図や欲求をより正確に把握するには言語的なコミュニケーションが最適。
  身体動作や表情からは不正確な情報しか得られないとする傾向。
   暗黙知の言語化。
 一般的には適切な治療方針とのマッチングには半年以上かかる。
  「何でその作業をさせるのか」
  暗黙知と治療方法とは必ずしも直接的には繋がらない。
  心的状態理解に対する暗黙知技能が療法士のスキルに直結する?
   的確な治療を選ぶ根拠として使えるものと、使えないもの
   医者は物理的な身体しか見ない?
 再現可能な記述の構築、ターミノロジーの構築

実験
 怒りの表出傾向:Anger-Out, Anger-In
 コースター制作作業で判断
  正答数には有為さが見られなかったが、年齢や経験年数との相関は見られた。
  身体表現や表情だけでなくインタラクションの仕方に着目。

分類/ターミノロジー/体系化
言語/記号/定量的表現

「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会, day1

月曜日, 8月 29th, 2011

ちょっと変わった組み合わせですが、「複雑系科学と応用哲学」沖縄研究会第1回大会に参加してのメモです。
備忘録としてのメモですが、あくまでも私個人の解釈なので事実誤認も含まれるかもしれません。

なお、発表中にいつでも質疑をする形式だったこともあり、発表タイトルと中身は必ずしも一致してないです。

初日の感想としては、

  1. 倫理が形成される要因を、コミュニティへの参加(コミュニケーション可能)という観点から考えるとリソース制約ぐらいしか必須条件じゃないっぽいように感じた。(発表者の主張としては「他者危害の原則」だったけど)
  2. そもそも倫理って必須条件なのかが疑問。コミュニティへの参加の仕方も多様化してるし。
  3. 自閉症者を異世界に存在する者として捉える見方は新鮮。心の理論を持ってないということでばっさり切り捨てる人もいるんだというのも新鮮。
  4. 「考える対象が分野問わず」という共通点があるというのは面白い。実際いろんな話題について共通理解得られている部分も少なくなかったように感じた。

といったところです。


目次


趣旨説明, 吉満昭宏(琉球大学)・柴田正良(金沢大学)

分野:(応用)哲学+(複雑系)科学
所属:大学院大学(JAIST)+大学+高専

哲学→応用哲学
 哲学自体幅広い学問だが、元々はもの作りを通して追求する側面があった。
 そこに立ち戻ろうと思ったら「応用哲学」という名称で呼ばれるようになった。
 交流を切っ掛けに創発へ。

参加者一同自己紹介


『自閉症の倫理学』を巡る2~3の事柄, 柴田正良(金沢大学)

書籍: The Ethics of Autism
書籍: 治療を越えて バイオテクノロジーと幸福の追求


考えてみたいこと
 物理主義的世界において、いかなる倫理が可能か?
 物理主義的世界:ここでは一切の心的・文化的存在が物理的・化学的・
  生物的存在によって決定される世界のこと。恐らく証明はできない
  が、結果的に相関が得ざるを得ない証拠は多くある。妖精とか天使
  とか奇跡なんてものは無い。決定論的かどうかについては議論の
  余地が多々ある。
 人間は、物理主義的世界において何か作用したがる存在。

倫理がいかなる状況で発生するか?
 仮にあらゆる意味で孤独で問題無く暮らせる人がいたとき、
 その人にとって倫理は生まれるか?
 (という仮状況の設定はどうなんだろう)

共同体テーゼ
 【前提条件】少なくともある期間、各メンバが他メンバと「同等の
 権利と義務」を持つことができる
 →共同体に属する行為者に倫理が発生する。

歴史上の倫理的共同体
 前述のテーゼから線引きをせざるを得ないというのが自然な発想。
  (共同体に入るか否かという線引きのこと?)
 近年の共同体:黒人・女性・障害者等への権利拡大
 人類社会はとりあえず完全義務対象者から成る倫理的共同体。
 不完全義務対象者として動物(ペット)を含みつつある。
 →仮に安全に精神安定/高揚を調整できる薬が開発されたら?
 →記憶消去できるようになったら?
 →サイボーグやロボットはどうなるか?
  →倫理の前提に「同程度の心身能力」がある?

 人格の定義/コミュニティ一員としての定義

 現時点で科学的に判定できないだけで、ペット/ロボット等も持ってる可能性。
 →倫理は人間から見ると人間主体で作らざるを得ない

 倫理が未だに科学的に構築できないのは、
 ある意味で物質主義的世界でないことの証明である可能性。

例えばアシモフ: これは倫理ではない
 自律性が与えられてない状況で倫理は無い

人類の倫理学的共同体の自然的基盤
 (1)人間の傷つきやすさ
 (2)おおよその平等
 (3)かぎられた利他主義:人間は悪魔でも天使でもない
 (4)限られた資源
 (5)限られた理解力と意思の強さ

自閉症の倫理学: The Ethics of Autism
 1. 自閉症者は非自閉症者とまったく異なる世界に住む
 2. 成人の自閉症者は「治療される」必要が無い。望めば別。

キーコンセプトとしての心の理論(Theory of Mind)
 自閉症の原因を説明する3つの理論
  1. 心の理論説: 他人の気持ちがわからんというのを説明
  2. 中心性統合弱化説: 全体を見ずに細部への強い拘りから説明
  3. 実行機能弱化説: 同じ動作を繰り返しやるケースを説明
  →決定的な説明にはなっていない
   自閉症自体が特定理由から生じるものではない可能性
   バーンバウムは理由からではなく行動から説明

 ケース:オキシトシン
  治療に有効であるケースが少なくないが、
  何故有効なのかは分かっていない。

心の理論を欠くとはどういうことか?
自閉症者は道徳的共同体のメンバーか?
 共同体の外側に位置する/態度次第では属さないと論ずる人もいる。

自閉症者には自分が運用できる道徳理論がない
異世界の存在者との共生の倫理
 自閉症者の完全性
 他者危害の原則


討論1「複雑系科学と応用哲学の基礎概念の適合性について」

エンハンスメントの是非
良くあるテーマ例:ドーピングの是非
 遺伝子:工学的/ブリーディング
 自然さ==その時々の直感?

心の理論
 有名な実験:誤信念課題
  子供に人形劇(二つある箱のいずれかにおもちゃを入れて、
  部屋から出かける。おもちゃはどこにあるか)を見せる実験。
  4歳未満の健常児はまず間違う。自閉症児だと12未満でも成功率80%未満。
  (悪魔/天使な私とか内面に複数の自分は居ない?)
 別実験:異欲求課題
  信念よりは理解しやすい欲求を対象とした課題
 ファーストオーダ/セカンドオーダ
  ファーストだと自分だけの問題
  倫理ではセカンドオーダの確認は困難?
  オーダが上がることは気にする必要が無いのか
   e.g., 自分がそれをされたくない→他者に迷惑をかけない
   裁判官のようなケースではオーダの高い能力が必要だと思うが、
   「倫理的に振る舞う」だとセカンドオーダで十分では。
    別例:「罰する」→「何もしないと罰する」で協力が生まれる例
     TFTだけじゃなく別要素を導入した実験。

ドーピングの是非
 ルールを変えても同じ状況は現れる

共生の倫理
 他者危害の原則
  他者の自由を侵さない
  これに抵触しない別原則は多数考えられ、どれを選ぶかの原則は分からない

道徳的行動のレベル/差異
 コンベンショナルな道徳:自閉症者でも割と分かる
 モラル的な道徳

(リソース制約無視の話に聞こえていたのだけど、討論意図はどこにあるのだろう)


ミクロマクロ・ループ・アプローチにおけるルールと戦略のOpen-ended dynamics――学習、進化、そして内部ダイナミクスの役割, 佐藤尚(沖縄高専)

「複雑系」科学の方法論
構成的手法によるアプローチ
 多数の要素が相互作用する環境→創発
  相互作用の結果生み出された機能や構造が作り手にも影響を及ぼすことを含めた包括的な概念
  →影響がダイナミックに作用し合う
   バサッと切り取って見ることができない
   要素に分解すると本質が失われる「複雑系」
 1. 理解したい対象の「元となるシステム」を構成する(作る)
 2. それ(ら)を用いて計算機で実験する(動かす)
 3. これらのことを通して対象の理解を試みる

シミュレーション
 100%再現することは考えない
 重要な要素(現象の核)が何なのかを考え、そのことを検証する
 モデル化
  モデル化の方法は直感/サーベイ/組み合わせ/etc.で仮説構築
 実験で検証
  単なる現象の模倣ではなく、
  現象の裏にある本質的な論理を理解することを目指す。
  本当にそれが重要な要素なのかどうかは実験以外の主張はできない。

シミュレーションの同定手順
 1. 対象の観察→内部構造を推定
  例:制度。not法律。集団内で共通した様式。
   →元システム=その制度を作った人間
    内部構造=人間の内部構造(ルールを作りだす際に必要な機能は?)
  経験や学習を通して価値観等が変化
  内部ダイナミクス
   内部の状態が外部要因からの影響を受けずに内部状態が変化する

  比較対象間で同質のものを探そうとするだけでなく、
  俯瞰的に見て「生成されるものの影響」も加味したり、
  考慮してなかった第三の要素なども考慮するような幅広い視野が重要。

  説明力
   相補的な立場。
   例:言語学→言語の成り立ち
    チョムスキーの生成文法→実験的に例示や反証
   予測としての側面
    古典物理学レベルの予測は無理(具体的なレベルでの予測は困難)
    定性的な予測は可能なものもある(抽象的なレベルでの予測は可能)

 2. 特徴抽出
 3. 構成モデルの作成
 4. シミュレーション
 5. 結果の評価
 6. 対象と構成モデルとの比較・検討

アナロジー

対象を問わない(限定しない)という点で複雑系科学と哲学は似ている

複雑系科学のメタフィジクス
 現象の分類
  代表的なものはある。定性的不変クラスは出尽くしている?
   ベキ/同期/カオス/自己複製/自己組織化/etc.
 現象を捉える時の粒度依存
 好きなモデルがある
  力学モデル/計算モデル/確立モデル

表象の有無
 人間モデル→力学モデル+自己学習=RNN
  Elman Network
   スケールアップ問題
    徐々にニューロン数/層数を増やしながら複雑な学習をさせていく方がベターという報告
   過学習問題
 どこまであれば「表象がある」?
  定義困難、プアか否かぐらい?
  タコイカ細胞ではない
  内部ダイナミクス(アトラクタ)としての表象
   ダイナミクスに応じて行動も変わる
 「表象」の必要性
  猫+イカとかを説明しやすい