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日本認知科学会第29回大会 2日目

金曜日, 12月 14th, 2012

twilog
認知科学会第29回大会の2日目が終了しました。

文楽人形遣いにおける「言葉や視線を伴わない協調動作」を実現させている「認知」についての話は、操作している「人形」を通してのインタラクションがありそうなんだけど質問する時間がなかったな。

昼ご飯はコンビニパンで済ませて近場散策。公園かと思って歩いてたら仙台城跡付近だったらしい。いや、近くにあるのは地図見て知ってたけどこんなに近い(会場から徒歩数分)とは思ってませんでした。正確には博物館がその距離にあって、博物館を挟んで反対側にあるからすぐにはつかないんですが、それでも近い。ということで一応伊達さんに挨拶してきました。

特別講演は東北大学・邑本俊亮先生の「実践的防災学」。もともとは文章や言語理解における認知心理学が専門だったのが、(3.11前から)いろいろあって災害科学国再研究所として認知科学に求められていることとして基礎研究だけじゃなく応用研究もやることになったとのこと。文章理解と認知についての出発点を探すことが今回の目標の一つだったので、戻ったら関連事例を読み漁ってみよう。

シンポジウムでの「OS型言語」が謎だったんですが、SVOとかのOとSでした。世の中のほとんど(96%強)はSの後にOが出現するけど、そうじゃなくてOが先に出る言語を「OS型言語」と呼ぶらしい。研究的にもSO型言語ばかりが対象になってて、それだと見えて来ない言語認知があるんじゃないかという話。

晩ご飯は炭焼き牛たん おやまにて牛タンシチューとテールスープ。炭焼き意味無いじゃんとか思ったら負けです。牛タンはやっぱりシチューの方が好みかなー。初日に食べた焼かれたやつも美味しいけど、折角だからあれこれ食べてみないとね。

2日目のプログラムは以下の通りです。

 口頭セッション3: 芸術
 ポスターセッション3
 特別講演: 実践的防災学が認知科学に期待するもの
 口頭セッション4: 視覚・認知
 シンポジウム1: 「主語・目的語語順選好」は普遍的か:主語末尾型言語からの検証

以下、Q&Aを中心にした備忘録です。例によって當間解釈によるメモです。


<目次>
[ 口頭セッション3: 芸術 ]

[ ポスターセッション3 ]

[ 特別講演 ] : L2: 特別講演: 実践的防災学が認知科学に期待するもの, 邑本俊亮(東北大学)

[ 口頭セッション4: 視覚・認知 ]

[ シンポジウム1 ] : S1: シンポジウム1: 「主語・目的語語順選好」は普遍的か:主語末尾型言語からの検証


口頭セッション3


O3-1: 文楽人形遣いの阿吽の呼吸, 植田一博(東京大学大学院情報学環/日本科学技術振興機構CREST)ら


文楽人形遣いにおける協調動作はどのように実現しているか?
 主遣いは「ず(と呼ばれる命令)」を発していると言われている。
 左遣いの視線計測->ほぼ人形動作を見ている
 人形動作計測(磁気式モーションキャプチャ)
 -> 主遣いによる先行->左遣いが合わせる->同期(ウェーブレット変換で位相差解析)

脚本や「床(三味線や義太夫節)」の有無で同期に差があるか
 差がないなら「ず」が主要因
 ヘッドフォンで主遣いのみに動作を指示した場合でも、
  主遣いと右手遣いはほぼ同じ(高い正の相関)。
  左手遣いはやや遅れるが、それなりに相関。(遅れても見た目はほぼ再現)
   床が無くても動作再現できるが、動作の大きさに違いが生じる


naltoma: 人形操作においては視線や発話による合図を行えないとのことだが、
 演台や主遣いの直前までの演出からどのような流れが続きそうかを推測することで
 協調的動作を実現している?(これが「ず」?)
naltoma: 頭巾を被っている方の視線を見ることはできないが、
 被っている方からはどの程度の情報を目視できるのか?(ゼロと看做して良い?)
naltoma: 入念なリハーサルを行わない即興芸術というのは、
 見方によっては「ある一定範囲内に収まっていれば良い」という範囲内に
 収める協調動作になっていれば良い?
naltoma: 人形操作において、3人の役割として分割されているが、
 これはどのぐらい独立しているのか。操作や人形自体を通して
 「相手に伝わる/伝えられる」情報は考慮しなくていいのか?



Q: 主遣いと左遣いの間について検証されているが、
 足遣いは視覚的なアクセスが困難。足遣いについて何か知見があるか?
 「ず」に含まれる情報としては、
 返しのタイミング、動きの大きさ、スピードぐらいの要素が入っていそう
 だが、タイミングはズレるが動きの大きさは合っているなど、「人形の
 動き」についてある程度型が分かっていれば追従で実現できそう?
A: 足遣いについては、基本的に主遣いの腰に手を当てており、
 肉体的にダイレクトに伝えられると言われている。今後の課題。
 「ず」にどういう情報が含まれるかについては、
 今回は同期でのみ分析しているのでタイミングに情報がありそうだという
 ことぐらいしか言えない。違う動作でも波形としては区別できない。
 人形遣いは区別できるので、それを探している最中。

Q: 今回の例では明らかに右手が先に出ているが、そういう動作が多い?
 最初から同時動作というような時にはどうなる?
A: 型動作については右手先行になるはず。
 演目で脚本が分かってる場合には同時もあり得る。
 「ず」に見えるけど「ず」として悟らせない所に面白みがありそう。



O3-2: 文楽人形遣いにおける演技動作と呼吸の対応関係, 渋谷友紀(東京大学大学院学際情報学府)

芸の「呼吸」:重要視されるが極めて多義的
 狂言・歌舞伎: 熟練するにつれて動作と呼吸相が非同期的になる
 文楽人形遣いでは
  動作と呼吸の同期性についてどうなる?(関係性検討)
  呼吸曲線の周期性は?(呼吸に乱れが無いか、一定になされているか?)

熟練者は、そうでない人より動作と呼吸が互いに独立。


naltoma: 呼吸動作が何かしらの「同期」情報になっている?
naltoma: 熟練になると動作と呼吸相が非同期的になるというのは、
 呼吸に引きずられること無く動作を行える「一種の達人」みたいなもの?
 そういう熟練者が主遣いで残りがそうでない場合、
 全体として動作が成立しにくいということは起こらない?
 (非熟練者側が合わそうとするので問題にはならない?)
naltoma: 逆説的に、呼吸を安定させるにはどうしたら良いのだろう?



Q: 舞台歴と役割が相関していそう。
 浄瑠璃が入ってきたときの差についても同じことが考えられないか。
A: 主遣いで比較している。13年の方も主遣いでの比較。
 舞台歴と主遣い/左遣いとの差はある。
 31年の方は基本的には主遣いをしているが、
 より芸歴が長い人の左遣いをやることもある。

Q: 13年の人は呼吸が乱れているのは、外の情報を取り込んでいるようにも思う。
 乱れていないのは慣れてしまって外からの情報に気を配っていないという印象を受ける。
 呼吸が乱れないながらも外に適用していっている?
A: 外の情報を主遣いがどのように取り入れるかということについては、
 芸団で言われていることとしては「浄瑠璃の情報をどう受け取るか
 がとても大切」で、演奏者毎の違いもあり聞きながらやる必要がある。
 良く分からないが、浄瑠璃とべったりになってはいけないと言われることもあるらしい。
 呼吸の安定は体の方であたふたしないということを表していると思う。

Q: 実際に見て「呼吸が乱れている」というのは見えるのか。
 動作に合わせて呼吸しているのは、ある意味迫力にも繋がりそうだが。
A: 役柄やその性質にも関係していると思う。
 今回の女形だと「よいしょ」という感じはあまりない。
 時代物や、型が連続して行く場面では人形遣い自身の動きが大きくなることもある。
 その時はまた異なる呼吸との関係が見れると思っている。



O3-3: 演劇初心者の演技計画における熟達支援の効果, 安藤花恵(九州国際大学法学部)

熟達化研究:ある領域での「初心者」と「熟達者」を比較
 明らかになること:差
 明らかにならないこと:成長プロセス、その差を埋めるための支援法
 -> この差を埋めるための研究

演劇俳優の熟達
 初心者は脚本解釈は考えるが、演技計画(どう演技するか)をほぼ立てない
 準熟練者(5年〜)は観客視点/共演者/脚本全体を考慮して演技計画を立てる
 -> 初心者にさまざまな種類の演技計画を立てるよう指示したらどうなる?
  観客への見え方を意識して計画立てるよう指示したらどうなる?

実験群
 自由に演技計画を立てる
 脚本Aについて熟達支援して演技計画を再度立てる
 脚本Bについて自由に演技計画を立てる
統制群
 熟達支援無し
熟達支援:紙面と口頭

分析方法:発言数をカウント
 演技計画/観客への見せ方を意識している発言
 文脈や流れを考慮している発言/バリエーションの数

結論
 「態度」を身につけることについては、簡単な指示を出すだけで効果がある。
今後の課題
 さらに準熟練者(質や量)に近づけるには?
 より長いスパンでの効果?


naltoma: 成長プロセス等の「明らかにならないこと」は、
 何を比較するかの違いでは?
naltoma: 熟達支援の仕方そのものはどう統一した?->紙面+口頭読み上げ1度
naltoma: 今回の実験設計では近視的に最適化した行動を取っているだけということは?



Q: 実験にどれぐらい時間をかけた?
 実際に演技ができないので最初に戻るといったことはないか?
A: 人によってばらばら。話す時間が長い人も入れば、すぐ終わる人もいて、
 だいたい30分〜1時間。
 演技時に計画通りにできずにつまづくことや、
 計画自体が正しくないこともありうる。

Q: 演出と演技指導、気づきとの違いは?
 系統立てられた教育がないとのことだが、海外でやられてるような事例を持ってくることは?
A: 名演出家とか演劇学科とかあるが、
 話を聞く限りでは日本では「その人それぞれ」でやられているように感じた。
Q: 指導する側の熟達は? それを教育に取り入れることはできないか?
A: 恐らくその人それぞれのメソッドを持っている。
 そこを取り入れることは考えてなかったので、今後考えていきたい。

Q: 茶道では段階的に指示がある。
 気にし過ぎてしまってできなくなることはないか?
A: あり得ると思う。今回は演技計画に特化してやってみた。
 初心者の人はあれこれ計画があり過ぎて演技できないということはあると思う。



O3-4: 音楽の終止構造認識時の脳活動, 星‐柴玲子(東京大学大学院総合文化研究科)ら

音楽を構造化し認識することで意味や情動を含めた理解のレベルが高まる [Koeisch, 2011]
音の流れを、音楽のまとまり構造として認識し分節化することで、内容識別/特徴抽出している?

音楽の最も大きなまとまり(楽章)でfMRI調査した事例
Tonic tone(主音)呈示による安定感 [Krumhansl, 1990]
 調整認識のモデル(空間的相関図)
  安定感に階層構造がある

終止構造
 ドミナントトニック
実験
 終止構造1: 和音、旋律ともに終止
 終止構造2: 和音は終止するが、旋律は終止しない


naltoma: 音そのものの組み合わせで「情動」などを感じるのか?
 文化的な活動が重層的に積み重ねられることで「そう感じる」?
naltoma: 実際の音も聞いたけど「終止感」自体が良く分からない。。



Q: 1回目の終止感と2回目の終止感は、物理的に何が違うのか?
A: 構造の1と2の違いについて、
 構造1は和音も旋律も終止し、構造2は和音のみ終止。
 旋律単独の終止感を見ている訳ではなく、
 和音により構造を作り上げているのかということで検証中。



ポスターセッション3


P3-2: 他者作品との関わりを通した表現の自覚性獲得過程についての検討, 石黒千晶(東京大学大学院情報学環学際情報学府)ら

創作活動(ここでは写真撮影対象で、初学者レベル)において、
自省だけの人と、意図的に「他者作品の模倣課題」させた人を比べると、
その後の聞き取り調査をする限りでは大きな差が見られたという話。
実際の作品での差を見るのではなく、「何を考えて作成すべきか」といった
ことについての意識差を聞き取り調査して比較。

創作活動なだけに「うまく表現できないケース」というのがありそうなんだけど、
そこら辺は現時点では考慮していない。また、逆に「こうしたら」とかいう
指導が邪魔してしまうこともありそうなんですが、今の所は観察できていないっぽい。



P3-4: 人生を表象する映像作品の修辞と概念再考的認知:ストーリーは邪魔者か?, 小川有希子(法政大学社会学部)ら

「ストーリーが邪魔」ってどういうことなのかと思ったら、
映像作品鑑賞時の姿勢が「ストーリー重視かそうでもないのか」というのが問いで、
それを確認するためにこういうタイトルになっているらしい。
ストーリーの功罪と修辞の役割を考察しているようだけど、
何故この二つなのかが良く分からず。


P3-9: 描画コミュニケーション実習に関する予備調査:実験のデザインに向けて, 田中彰吾(東海大学総合教育センター)

一つの絵を二人で描かせるタスクにおいて、言葉を禁止、
身振り手振りだけで合作を作るという過程を観察したらしい。
想像通りの傾向が見れてる気がするのだけど、どこら辺に面白みがあるのだろう。


P3-12: 状況とルールのパターンマッチングを学習するシステムの構築と評価森田純哉(北陸先端科学技術大学院大学)ら

(後で質問しようと思ったけど時間取れなかった)
ちら見した印象では、P1-20と同じく、モデルを簡単に記述できるシステムを用意して課題やらせてみるという話っぽいのだけど、Robocodeと比べて何か違う点があるのだろうか。


P3-23: アイディア生成プロセスにおけるドローイングの認知作用に関する予備的研究, 江口倫郎(東京大学大学院学際情報学府)ら

「図」の役割を、文系な学生は「先生が遣うもの」と認識しがちで、
理系な学生は「自分が理解するための道具」と認識する傾向にある
というのをあれこれ実際に認知的側面について確認したという話。
そうなの?


P3-24: 三次元面知覚の定量評価, 松原和也(東北大学電気通信研究所)ら

2次元空間に描かれた3D描写の「自然らしさ」みたいなのを数学的に評価しようという話っぽい。


P3-25: 日本地図描画課題を用いた不完全な知識に基づく意思決定メカニズムの分析, 山本紘之(北陸先端科学技術大学院大学)

チラ見ですが、合議みたいな話にも繋がるのかな?


P3-27: 比喩にかかわる意味特徴が理解容易性、面白み、斬新さに与える影響‐直喩形式と隠喩形式の比較‐, 中本敬子(文教大学)ら

直接的な比喩と隠喩における差は、
「目新しさ」については見られない(どちらも正の相関)が、
「斬新さと理解容易性」については隠喩形式でのみ負の相関が見られたらしい。


P3-30: 『いわての民話KOSERUBE』―プロップによるストーリー生成システムをベースに文・音楽・視覚表現の生成を統合したシステム―, 今渕祥平(岩手県立大学大学院 ソフトウェア情報学研究科)ら

初日含めて物語生成してる研究室結構ありますね。
こっちはどちらかというとパラパラ漫画に近い印象ですが、
Proppの「昔話の形態学」で分類されているストーリーグラマー
を実装し、実際に昔話風の物語を自動生成してみたという話。
ストーリーグラマー自体を何かしら自動作成するというのとは違うらしい。


P3-31: 言語隠蔽効果における言語化内容の質について−距離推定課題による検討−, 武長龍樹(東京大学先端科学技術研究センター)

チラ見ですが、
言語化することでいくつかの認知課題のパフォーマンスが低下するという
「言語隠蔽効果」なるものがあるらしい。

特別講演


L2: 特別講演: 実践的防災学が認知科学に期待するもの, 邑本俊亮(東北大学)

専攻:言語理解に関する認知心理学的研究
 昨年まで:大学院情報科学研究科

1. 東邦大学に研究所ができた
 3.11を振り返る
 災害研の概要
 実践的防災学
  一連の災害サイクルとして捉える
   事前対策/災害発生/被害波及/緊急対策/復旧復興/将来への備え
   全てのサイクルで「どんな実践研究が行えるか」
2. なぜ私が防災研に?
 メインは言語研究
 防災とのかかわり
  切っ掛け:2004年演題:認知心理学と防災
   防災への取り組み/防災情報の認知/防災教育
 災害情報認知研究分野
  災害サイクル全般の人間の認知を対象
3. 実践的防災学からの期待
 災害認知科学研究の可能性:災害サイクルから見た認知科学研究
  事前対策:情報伝達、理解
  緊急対策:知覚、判断、意思決定
  復旧復興:協調、問題解決
  将来への備え:記憶、学習、教育
 何が期待されているのか
  「では、どうすればいいのですか?」:防災意識を高めるには?迅速に避難させるには?etc…
  「あなたの研究でどんな貢献ができるのですか?」(基礎研究だけでは)
  ->認知過程の解明だけでは終わらない
 動き始めたプロジェクト
  杉浦「生きる力プロジェクト」:震災時行動の認知科学的分析
  細川「震災体験談プロジェクト」:
 いろんな貢献があっていい
  e.g., 教育的貢献:日常生活に活かせる学び(後に繋がる)


naltoma: 「生きる力プロジェクト」でアンケート調査で知力を洗い出し、
 それを測定するための課題設計&脳波測定による突き合わせをするのは良いが、
 「テスト(課題)」に落とされた時点で「テストのためのテスト対策」になってしまわないか。
 教育としてはどう扱っていくことができるのか。

口頭セッション4


O4-1: 潜在的な快感情の喚起による視覚情報処理範囲の拡大, 藤桂(筑波大学人間系)ら

ポジティブな事項(感情に結びつけられた事象?)が思い出されやすくなる
 問題解決、創造的思考の促進
 視覚情報処理範囲の拡大
  不快感情や中立感情状態よりもより広い範囲に拡大(良いことだけではない)
   *広い範囲を処理してしまうため局所的な集中で処理できるタスクには遅延が発生
 ペンテクニック [Strack et al., 1988]

潜在的水準での快感情誘導でも視覚情報処理範囲拡大が生じるか?
 ごくわずかな表情筋のみの操作
  自覚無く認知処理のあり方が変容している可能性


naltoma: 
naltoma: 
naltoma: 



Q: ペンテクニックで発生しているものが潜在的な快感情だという保証は?
A: 加えている状態ではよりポジティブに捉えるという結果が一つ。
 デブリーフィングでは快感情については気づいていなかったのと、
 くわえているのは辛いという回答。

Q: 似て非なる例だが、潜在的ではなく顕在的にその表情を作る例でも結果は同じではないか。
A: 顕在的な感情でも視野が広がったりという同じ傾向はいろいろ示されている。



O4-2: Gaze-contingency パラダイムを用いた乳児における行為の意図性の評価, 宮崎美智子(玉川大学脳科学研究所)ら

乳児はいつから自分が意図的な存在であることに気づくのか?
 ブレイクダウン:意図を伴う行為主体感の評価に着目
 行為主体感
  行為と結果の随伴性の理解
   自分の行為がどのように環境の変化を引き起こすのかを予測する
  目標に応じた行動調整
   目標を叶えるための行為の操作

アイ・トラッカーで視線検出利用:アイ・スクラッチ課題(視線で絵を削りだす)
 本当に視線と画面の連動に気づいているか?
  視線手掛かりで「行為主体感」を評価
  気づいた人と気づいていない人の視線パターンを指針に利用
 目標の価値に応じた行動調整(背景の絵の魅力度)
 -> 動機低減


naltoma: 「削る」前後のアトラクティブを逆転させるとどうなる?
 削る前がアトラクティブな写真で、削って行くと白くor黒くなる場合。
 単に「より新しい」ところに注目するなら逆でも「連動」に気づけそう。



Q: 成人で気づかなかった人はどのぐらい存在する?
A: 自分が見ている点を明示的に表示するとほぼ全員が気づく。
 ただ削れるだけで注視点を表示しないと半分ぐらいが気づかない。
 乳児では、難しい条件では11人中1人のみ、簡単な条件では12人中8人気づいた。
Q: 大人で「気づいてない」というのが本当に気づいていないのかというと違う可能性。
 検出できなかっただけという可能性は?
A: 単純なself of agencyだと新生児でも持っている。
 今回は視線から確認できるかが主題。



O4-3: 注視から認知過程へ:ベイズ統計による次元選択・潜在集団の推定, 日高昇平(北陸先端科学技術大学院大学)ら

注視もそうだが、複雑なデータをどう分析するか
 仮説:特定認知過程の働き
 実験:画像等の刺激提示、注視対象・時間計測等
 問題点
  多数の潜在要因:眼球運動の複雑性(生理的な影響など)
  線形 vs 非線形
  発達的個人差 vs 多様性
  -> 個別ではなく、これら全てを一つのフレームワークで対応したい

注視パラダイムの新たな分析法
 ケーススタディ: 視聴覚刺激の連想学習実験 [Wu & Kirkham, 2010]
  4つの箱への注視点/時間/割合
  箱注視バイアス
  手掛かり有無
  累積注視時間
  視覚刺激の有無
  ->等のリッチなデータを組み込んだモデル化し、再分析
   over fittingならないように適切な複雑さで適応する仕組みも組み込み済み
 多数の潜在要因-> 手掛かりと連想効果を分離
 線形 vs 非線形-> 1次
 発達的個人差 vs 多様性-> 指定された群ごとの効果に条件間差

Matlabコード公開: Quantitative Linking Hypotheses for Infant Eye Movements


naltoma: over fitting対策は具体的にどうやる?
naltoma: 



Q: 次元選択は具体的にどうやる?
A: 階層モデルになってて、パラメータに対する事前分布がある。
 効果0になるパラメータを除いたりしている。

Q: 顔による刺激は注意を喚起しやすいということはないか?
A: そこが本来の目的で、その通りの結果。


シンポジウム1


S1: シンポジウム1: 「主語・目的語語順選好」は普遍的か:主語末尾型言語からの検証

「主語・目的語語順選好」は普遍的か:主語末尾型言語からの検証
企画: 小泉政利(東北大学)
話題提供者: 玉岡賀津雄(名古屋大学),酒井弘(広島大学),杉崎鉱司(三重大学)
指定討論者: 小泉政利(東北大学)

趣旨:小泉政利(東北大学)
 例文
  常長が 帆船を 建造した。(SOV語順) SO語順選考 96.6%
  帆船を 常長が 建造した。(OSV語順) OS語順 3.3% [Dryer 2011]
 文理解ではSOVが理解しやすく、産出しやすい。他言語でも多く見られる。
 SO語順選考を生み出す要因?
  仮説1: 普遍的認知説(人類共通の認知特性?)
  仮説2: 個別文法説(処理負荷の問題?)
 OS型言語の文処理メカニズムに関するプロジェクト

玉岡賀津雄(名古屋大学): 言語理解の観点から
 VOS言語の一つ: マヤ・カクチケル語
  動詞だけに標識付き。目的語も主語も無標。
 普遍性とは
  単に主語が目的語よりも前に来るだけではなく、
  基底に基づいた普遍性
 空所補充解析(Gap-filling parsing) を視線検出を利用する課題で間接的に確認
 ->カクチケル語の特性

酒井弘(広島大学): 言語産出の観点から
 文産出モデル [Ferreia & Sievc, 2007]
  メッセージの構築
  文法役割
  語順
  -> 漸進的処理+各種アクセス容易性
 既存モデルの限界:OS言語ではどういうメカニズムで産出される?
 発話とジェスチャー産出には相関が見られない(SO言語と一緒)
 ジェスチャー産出ではSO言語と同じ傾向
  語順だけの相違ではない
  メッセージの段階で違う考え方をしている訳でもなさそう
  文法役割付与の段階で異なる方法を採用している可能性が高そう
   効率性の観点からは悪そう(効率性だけでは説明できない)

杉崎鉱司(三重大学): 言語獲得の観点から
 幼児を対象とした語順とその制約の獲得(予備的研究)
 前提@日本語での事例
  基本語順はかなり早い段階から獲得している。
  談話上の制約(導入)を守られているとほぼ理解。SOV/OSV
 制約(indefinite->definite)を受ける文を対象にVOS  VSOで検証

OS型言語の研究(フィールド認知科学)の重要性
 カクチケル語の理解:VOS語順が最も処理負荷が低い
 カクチケル語の産出:SVO語順が最も頻度が高い
 カクチケル語の理解:3歳児でもVOSが基本語順であることを知っている
 理解と産出で選考語順が異なるのは何故か?(他言語では見られない)
  語要論的な理由(曖昧性解消)が影響?
  人の会話は話題になっているものが先に出やすいことが影響?
  SO言語に基づいた研究手法自体の妥当性?
  被験者のバラツキ?
  他OS言語での検証?
  -> 語順という見方をやめる?(主語の卓立性 [Imamura and Koizumi, 2011])
   違いを問題として捉えるのではなく、
   違っているのが正しいものとして説明できないか?
 基本語順と再頻出語順が異なるにも関わらず、早い段階から基本語順を獲得できるのは何故?
  Vを構成する形態素順と後続部との関係性を獲得?
  mirror principle?
  生得的な知識との結びつき?

質疑応答



naltoma: 負荷という観点では、知識を重層的に抽象化して獲得する経験を
 通しているうちに、SO語順がアクセスしやすい形で保存されている?
naltoma: 
naltoma: 



Q: SO語順とOS語順の一般について。
 SO語順が圧倒的に高いことを考えると、OS語順を持つ言語には
 それが許されるルールや手段があるということは考えられないか?
 例えば head-marking があることによってOS語順が許されていないか?
A: ある手段があってそれが実現されているというのは分かる。
 何故特定の言語にしかその手段が出現していないか、という問い。

Q: 2135言語調べたらVOSは40言語、OSVは13語という調査結果が出されていた。
 ある地方に偏って出現してたり、文化的な要因は考えられないか。
A: 文化的要因を導入することが可能だとして、どう組み込むかが問題。
 可能性はあると思うが、アプローチが思いつかない。
 文処理上厳しい(負担が大きい)ということも考えられる。
A: 個数に違いはあるがどちらも2%という割合は同じ。
 比較的後になって出現している点と地域性はヒントになりそう。
A: チョムスキーの生成文法も見方(180度回転等)によっては同じ構造に見えなくもない?

Q: 言語発生的観点で、例えば命令的(統制的)な発話から始まった?
 ラテン語はその中間的な位置付け?
A: 言語発生的な話は明日ある。
 命令的な文という話についてはそういう研究例がある。
 命令文が基にあるとしても、それがVが先に来るかどうかは別の議論。

Q: 生成文法的にはどういうことが言えるのか。
 VPの中で既に何かが起きているという主張?
 VSO言語はどういうツリーになっている?
A: VSOではSVOからOだけ前に出して動詞をさらに前に出すというような分析が多い。
Q: smallVを先に出してるとかいう話ではないのか?
A: conceptualの段階では同じじゃないかという提案。
 ラージVの構造では同じであって欲しい。
 スモールvの構造で違うので、そこで語順がひっくり返っているということを
 考えられると良いが、これから検討。

Q: indefiniteの次にdefiniteという順序は、
 新情報の後に旧情報となるが、これはどういうことなのか。
A: 構造的な高さと、それがどういう順番で現れるかには高い相関があると言われている。
 SO言語では。構造的な高さの上で高い方が旧情報、低い方が新情報だとすると、
 そこから出てくる順番がそう見えてるだけかもしれない。
A: 1文では現れるが、恐らくdiscourseの段階ではそうなっていない。
 その方が都合がいい。ただし全てが効率性の点では構築されていない。


日本認知科学会第29回大会 1日目

木曜日, 12月 13th, 2012

twilog
滞在中に少しずつ気温があがっていく予報だったので、少しでも雪を見れて良かった!

晩ご飯はプログラム終了時点で19時過ぎてたので、ホテル近場で見かけた「牡蠣の旨煮ラーメン」目当てに仙台廬山で食べました。昼食は軽くパンで済ませてたので餃子を追加。ラーメンそのものは普通だったんですが、宮城県産の生食用を使っているということもあってか牡蠣自体はものすんごく旨かったです。たまたまホテル近くにあったから寄っただけなんですが、こんな感じで惚れ込んでる客がいるお味だったらしい。確かに旨かった。

認知科学会の大会@仙台国際センター、1日目が終わりました。例年だと9月にあるようですが、国際大会が10月にあったらしく、今年は12月に移動したらしい。防災マニュアルが配布されてるのは初めてですが、こっち方面だとそういうのが当然という感覚になってるっぽい。「地震による避難するまではないと思うが、会期中に一度は起きるはず」とのこと。今の所まだ起きてません。

JAXAな野口さんの発表があったのに驚いた。やってることもアプローチも話し方もうまいなー。

会長講演の「統合的認知」は、キーワードとしてはいろんな所で耳にしてましたが具体的な事例やアプローチとしてみるのは初めてでした。イレギュラーに見える認知的現象も「認知的な個人差」として説明できるんじゃないかという話は目から鱗。視覚科学は取りあえず注文しとこう。

フェロー授与式で1時間取られてるのが謎だったのですが、受賞者らによる座談会になってました。「認知科学」という言葉自体が無かった頃の世情や、認知科学へのイントロダクション「LISPで学ぶ認知心理学」の著者安西先生自体も受賞者の一人ですが、安西先生へ書くように仕向けたのはもう一人の佐伯先生だとか。全員学会委員長担ってた時期があって各々どういうスタンスでやってたかとか、どんなテーマであれ「何それ面白い!」とか「積み重ねること」等々いろんな立場からの「私はこう考えている」という話を聞けて面白かったです。

プログラムは並列セッションなしで、以下のように進みました。

 口頭セッション1: 身体・インタラクション
 ポスターセッション1
 口頭セッション2: 社会・協調
 会長講演: 統合的認知
 フェロー授与式
 ポスターセッション2

以下、プログラム単位での備忘録メモです。ポスターセッションは話を聞けた分のみ。
初めての分野でもあり、當間解釈なので間違いも多分に含まれていると思います。ご注意ください。


<目次>
[ 口頭セッション1: 身体・インタラクション ]

[ ポスターセッション1]

[ 口頭セッション2: 社会・協調 ]

[ 会長講演 ]: 統合的認知, 横澤一彦(東京大学)
[ フェロー授与式 ]

[ ポスターセッション2 ]


口頭セッション1


O1-1: 推論課題における身体的負荷の影響, 阿部慶賀(岐阜聖徳学園大学)

狙い
 知的な振る舞いは身体にも支えられている
 身体が推論・問題解決に及ぼす影響を解明したい
 先行研究:触覚ブライミングの例。様々な身体的負荷条件下で坂道の傾斜を推定する例。
  問題提起:メカニズムについては言及されていない
   e.g., 実際に体にかかる負荷の程度が影響しているのか、「思い」が影響しているのか。

「重さ・大きさ」錯覚 [Charpentier, 1891]
 同じ重さなら大きい方が軽く感じられる現象
 ->実際には同じ重さだが、錯覚で主観的負荷を変えた実験設定に利用
  実験1: 手ぶら時と重みでは差が見られるが、主観的負荷では差が見られない。
   ->主観的負荷よりは実負荷の方が優先。

実験2: 主観的等加点測定法の導入
 重さを伝えず基準となる物体を用意。
 同じ重さになるようにユーザに調整してもらう。
 ->主観的にはどちらも同じ負荷だが、物理的負荷の方が影響が大きい。

結論: 推論者が自覚していない身体的負荷や刺激が判断に影響
今後の課題
 負荷への抵抗の能動性・受動性
  身にまとう場合/持つ場合との差?
  背負う場合/足かせ付ける場合との差?
  錯覚をあえてばらして意識化させたらどうなる?


naltoma: 階段段数を推定するという「認知」を対象としているが、
 「推定時の認知」と「実働時の認知」とではどのような差があるのか?
 (この発表そのものは「推論課題」が対象なので関係ないんだけど)



Q: 「荷物を持ってください」とされてるが、被験者は何のために持たされている?
A: 指示はせずに、研究目的も推測されない形でインストラクションをした。
Q: 持たせ方は?
A: 両手で持つ。
Q: 持たせ方と視覚への入り込み方が影響していそうに思うが。
A: まだ詰められていない部分。検討する。

Q: 先行研究では坂の角度をやっていた。今回は階段の段数や距離で異なる推定。
 違う設定になっているため、認知自体は比較出来るものなのか?
A: 被験者が未知の環境に連れて行く必要がある。
 写真を変わりに使いたかったが、撮り方次第でも影響がある。
 学生にとっては角度を推定するということ体験自体が少なく、
 身近な体験である段数を設定した。
 ただ、段数自体への設定の意味が悪いかもという話があり、実験2では距離に変更した。

Q: 実験2では距離を使っているが、距離の方が差が大きかったように思う。
 推論課題として段数と距離とではどういう差があるのか。
A: 段数はきれいに区切ることができるが、距離は「被験者がどう思うか」が
 強く現れる推定だと思う。その点でも段数は設定がマズかったように思う。



O1-2: こっくりさん遂行中の二者間の脳活動の同調:無意識的な同調を探る, 久保賢太(独)科学技術振興機構ERATO 岡ノ谷情動情報プロジェクト)ら

背景
 何かの行動をする時、目的・意図に沿って行動することができるが、
 無意識的な行動を取ることもある。無意識的な行動の源泉となる表象は「観念」と呼ばれる。
 観念運動:観念を持つことで観念通りの行動を行う
  誰かと観念が合うとき、2者間で何が起こっているのか?
   脳活動に同期現象・機能的結合が生じる [Dumas et al, 2010] [De Vico Failanl et al, 2010]
   -> 脳活動の同期・同調は何を意味しているのか?
     動きや目的の一致による同期の背景には、何が行われている?

観念運動の代表例:こっくりさん
 はい/いいえで回答可能な問題を設定
 観念を共有している例(今日の天気)
 観念が非共有の例(事前に調べた片方が知らない問題や、1年前の天気など)
 位相同期性解析:2者間の脳波コヒーレンス
 同期が生じたトリガーの前5秒+トリガー後2秒を分析 x 10試行(知り合い5ペア)

脳活動の同期・同調は
 他社の視点を取得する機能を同時に起動している?
 一人でも観念運動は生じる
 他チャンネル・大域との比較が必要


naltoma: 共有/非共有の質問が単に「共有しているか否か」という違いだけ
 ではないのが強く影響していそう。1年前の天気を知らないとして、
 それをどう意識するかは人によって差があるだろうし。



Q: 全ての被験者は同質だった? こっくりさんの経験度合いや、初めて経験する人がいたかとか。
A: 「こっくりさん」を知らないとできない作業。
 参加者は全て知っている人にお願いした。
 経験の度合いは今回は考慮に入れていない。
 存在を知っているだけでやったことがない人もいた。

Q: 結論で「相手の視点を取得する行為」が重要とのことだが、
 「こっくりさん」という課題自体が「何故動くのか」を推測していると思う。
 相手はどんな風に動かすのかを推測していること自体が影響を及ぼしていないか。
A: 具体的にどのようなことを考えながら作業していたのかを詳細に把握しきれていないことは問題。
 今回は、明確に分かるような課題を設定したことで見やすいように設定してみた。



O1-3: コミュニケーションスキルと足踏みの自発的同期, 永井聖剛(産業技術総合研究所)ら

目的
 対面して足踏みさせたとき、どのぐらい足踏みが合うか。
 そこからコミュニケーションスキルが見れるか。
 自発的な行動マッチング
  動作ミミクリ(顔さわり,足ゆすり,身振り): ラポール、アフィリエーション、仲間はずれ、etc.
  表情ミミクリ: 自閉性傾向
   ->コミュニケーション機能のない「足踏み」動作の自発的同期から観察出来るか?
  動作同期: 協力

実験1: 足踏み同期が生じるか?
 初対面。「その場で足踏み指示」のみ。同期については何も言わない。
 ヘッドフォンからノイズ音程時(音による同期をしないように)
 カーテンを用意し、目視可否を調整。
 -> face条件: カーテンが閉じてる間は一致していないのが、開閉後は一致しているように見える。
  back条件: 対面させず、片方のみ見えるようにすると、片方のみ近づく(一致はしない)。
実験2: 自閉性スペクトラム指数質問紙AQ日本語版を実施
 スコアに基づいてスクリーニング:Low/Middle/High
 Low AQ群≒Middle AQ群
 High AQ群: back条件では同じ現象が起きる。face条件では自発的同期が起きない。
  同期の強さはAQ得点と相関

結論
 コミュニケーション機能のない「足踏み」の「自発的同期」には、自閉性傾向に影響される。
 Social Relevance 高い(対面) v.s. 低 (非対面)
  SR高 = ノンバーバル・コミュニケーションの前提
  SR低では自閉性傾向の影響は全く生じない


naltoma: 対象とする「認知現象」に「限定」するための実験設計。
naltoma: 自閉性傾向の
naltoma: 



Q: 自閉性傾向高い人が対面状況でうまくいかないというのは、
 対面故に緊張しているのか、顔情報に注意がいって同期が取れないのか。
A: 自閉性傾向低い人は対面状況で目を見ているかどうかは全く関係ない。
 1.5m程度の距離だと直接目を見るのは自閉性に関わらず恥ずかしい状況下。
 緊張する、ぎこちなくなる、うまく対応出来なくなることの根拠になりそうだが、
 詳細は今後検討していきたい。

Q: 自閉性傾向の影響だろうということは分かるが、別の要因は?
A: back条件で対応していることが一つ、
 本当の自閉性の人でも「相手に合わせる」ことは「指示するとできる」ことを確認済み。
 自発的にできるか否かがポイント。

Q: Highの人は引き込みみたいなことができる?
 傾向が高い人は「同調的な行動ができない」というところが出発点になっているように見えるが、
 どういう条件下で、何故できなかったのか?
A: 今回の実験だけではまだ分からない。
 研究の流れとしては自閉性についても自発的か否かで可否が分かれることが分かった。
 また、back条件時でできることと、
 face条件時にできることにどう違いが出るかをこれから検証していきたい。

Q: 対面時に、映像だとどうなる?
A: 映像でも見ている人は歩みよれるが、映像は変化しないので少し歩み寄る程度。
 双方での歩み寄りが必要。



O1-4: 社会的相互行為からみたラグビーの技と戦術, 東山英治(千葉大学大学院融合科学研究科/日本学術振興会特別研究員)ら

なぜラグビーなのか
 知の身体性: 身体を通した環境とのインタラクションにより、知が形成
 ラグビー:環境(敵や味方)も主体
  先行研究:サッカーを社会的相互行為として記述 [高梨,関根,2010,2011]

セットプレー:密集->ドロップゴール
 何故この戦術がうまく機能したのかについて、事例分析。
 要因探索
  注目事例を決定
  注目事例の一つ前の状態を想定
  注目事例の負例を探索
  注目事例と負例の比較から要因推測
  一段遡って同手続きの繰り返し

結論:いずれの攻防も履歴が重要


naltoma: 戦術の失敗/成功分析から「どのような認知について何を」明らかにしたい?



(時間オーバーで無し)



O1-5: 行為の生成とその言語化は機能的にどこまで等価なのか?行為の先行遂行と後続観察課題を用いたNIRS研究, 齋藤洋典(名古屋大学)ら

行為に関連する4種類の活動(行為生成、心的シミュレーション、言語化、観察)の機能的等価性
 活動に関与する脳活動上はどの程度まで何が同じで、何が異なるか?

対象:手で行う道具に対する行為(e.g., バスケットボールを投げる行為)
 手の動作の遂行->言語化
 先行研究:行為の言語化による脳活動
  実際に遂行しなくても言語化すると(一部で)合致する脳活動が観測される
 現在を中心に過去/未来を捉えるのではなく、言葉はいくらでも時間を越えることができる。
 被験者に何かをさせるということに集中してるが、被験者になるべく課さない。

Action & Motion Hand-Gesture
 ボールを投げる動作を見せる。何をするかは指示しない。
  練習->身振り課題->観察課題:過去の手掛かり観察:遂行先行群(どのようにジェスチャーするか?)
  練習->観察課題->身振り課題:未来の手掛かり観察:観察先行群(同上)

結論
 自己が先に選択的に遂行した手の運動イメージは、後続観察課題でも自発的に想起される。
 


naltoma: 比較的自由な状況下における被験者の脳活動を通して差異を観察しようとしている
 と解釈すると、その割には具体的なタスクを挟んでいるため目的とは異なるものを観察していないか?
 目的を提示してない状況下での観察ということではあるけど、何かが違う気がする。



Q: 観察してる間は何を観察している?
A: 例えば「ボール」の写真を見ているだけ。
Q: 言語化はその前後に行われる?
A: 身振り課題時にジェスチャーしてもらっている。
Q: 先行して行った行動の影響を調べた事例は多くあるが、何が違うのか?
A: 何もかも終わってるという時間設定をしている点。
Q: 先行して言語化、もしくは言語化していない部分での観察データは分析している?
A: データ収集はしているが、今回は分析対象外。

Q: 「過去から来て未来にいく」という話からするとかなり直近のケースだと感じた。
 どのぐらい時間を延ばせた話として一般化できるのか。例えばPTSDのようなケースもある。
A: 「投げる」という動作は数億年ぐらいの歴史を引きずった動作だと思うが、
 例えば「ふすまを開ける」みたいなものはここ最近の歴史。そのような視点で
 時間を捉えている。

Q: 右手と左手で動作をしていたが、解析時には分けてやった?
A: 現時点では両方とも混ぜ込んだ状態での解析。
 分けることもできるが、現時点では分けていない。


ポスターセッション1


P1-7: 物語理解シミュレーションの試み:物語テキストからアニメーション自動生成を通して, 星名研吾(芝浦工業大学大学院理工学研究科)ら

Event Segmentation Theory [Zacks, et al., 2008] をベースに、
テキストからアニメーション生成に必要(で比較的抽出しやすい事象?)を抽出し、
テキスト上には現れない情報(例えば構図)を組み合わせることでアニメーション生成しているとか。
抽出した事象単語を微分した意味解析的な処理もしているらしい。


Q: 人物/時間/空間等の抽出候補はどうやって決めた?
A: ESTをベースに、抽出しやすさを考慮して設計。

Q: 具体的にはどう抽出している?
A: 形態素解析し、係り受け解析やESTに基づく微分的積分的処理で
 構図決定に必要な情報を抽出している。



P1-10: 遊びロボットによる子供の性格推定に関する基礎的研究, 岩崎安希子(玉川大学大学院)ら

ロボットとの関わり方を観察するのかと思ったら、
子供の動作全体を観察してて中でも「子供が意図的に親への振り返っているか」
で大きな差が現れ、「家庭生活に関するスコア」として有為な差が見られたとのこと。


P1-17: 実践知の記述手法-宮城県気仙沼市を対象とした大学生による復興支援活動をケーススタディとして-, 忽滑谷春佳(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)ら

記述する目的が良く分からなかったのですが、
マニュアル作成というよりは「暗黙知」のようなものをなるべく可視化したいっぽい。
手順としては「体験者自身の体験談として感じた【こと】」として事実というよりは
自分がどう思ったかということを中心に語られがちな点を【(物理的な)もの】中心に
書き直していくらしい。書き換え自体は一度変換したら終わりというものではなく
何度も繰り返され、その過程を通して「暗黙知」を見えるようにしたい、という感じらしい。

【もの】中心に書き換えられた文が単独で列挙されるだけだと分かりにくいので、
それらの関係性も大切だと思うがそこはどうするのかと聞いたら上記のような話になったのだけど、
「一緒にその過程で学ぶ」ということなのかな。


P1-20: 認知科学の入門的授業におけるモデル作成による認知処理の内省を促す授業実践, 神崎奈奈(名古屋大学大学院情報科学研究科)ら

チラ見しかしてないですが、うちの学科だとロボコードでやってることに近そうな印象。
モデルを簡単に記述出来るシステムを用意して、
どういうモデルを構築するか、
そのモデルをどう記述するか、
その結果どうだったか、
結果を踏まえてどうモデルを編集していくか、
という話なのかな、と。(的外れかもしれないが)


P1-22: 緩い対称性推論を用いた強化学習アルゴリズム, 甲野佑(東京電機大学大学院先端科学技術研究科)ら

緩い対象モデル(Loosely Symmetric Mdel, LS)を導入することで、
マルチバンディット問題のようなケースで
「あるマシンが他(複数台をまとめて「他」とする)と比べてどうか」
を相対評価で算出できるようにすると、効率良く学習が進むという話らしい。
話を聞いた感じではアニーリングっぽいのだけど、選択するシステム側には
乱数的な要素を除外している(のでパラメータチューニング不要)とか。
それでマルチバンディット問題をうまく学習できるって謎いのだけど、
「他と比べてどうか」をリファレンス参照して求めているから上手くいっている
ように見える、という解釈らしい。



P1-24: 問題解決における状態空間の抽象化に関する実験的検討, 寺井仁(名古屋大学)ら

複雑に絡み合った状態数も豊富な題材として「ルービックキューブ」を用意し、
どんな状態からでもゴールできるようになるまでの行動を観察することで
「共通してみられるアプローチ」を抽出してみた的な話。
ゴールの仕方そのものは人によって異なるが、ゴールへの辿り着き方には共通性が見られたとのこと。
だけど、抽象化されすぎて「このレベルでの共通性」が見られたとして何が嬉しいのかはちょっと分からず。

例えば、最初は山登り法的にあれこれ試して一定の所までは辿り着くけど、
サブゴールの設定がうまくいかずに頓挫する、みたいな話は「うん、そうかも」
で終わってしまいそうだし。
何を目標としてこういう検討をしているのかを聞いてみたかったかな。


P1-29: 『物語の森』―物語生成システムの統合的応用の一試行―, 秋元泰介(岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科)ら

まだ十分ではないものの物語の自動生成システム自体は動いていて、
それを使ってどんな応用があるかの検討という位置づけでの事例紹介らしい。
ストーリーの発展具合や構造の複雑さを「木の枝分かれ」として表現し、
「見た目」だけに着目してストーリーを発展させていくというもの。
子供には大受けだったとか。


P1-30: 視覚的表現を物語生成とつなげる方法の検討―ふたつの応用システムを素材として―, 小野淳平(岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科)ら

P1-29と同じ研究室で、API構築しつつ「どう物語を生成するか」
についてあれこれ試行錯誤してるらしい。

口頭セッション2


O2-1: 目標伝染における知識の働き, 太田真梨子(青山学院大学社会情報学研究科)ら

高次認知過程の解明が目的
思考過程の意識成分
 ゴール/サブゴールの設定
 プランニング
 モニタリング
 ->これらを意識的に行うというのが前提?
  無意識的認知過程
   たいがいの認知的処理は意識的コントロールの範囲内にはない。
   思考だけが無意識の影響から自由であるはずはない。
 実験社会心理学の知見
  自動行動=模倣ルート+特性ルート+目標ルート [Dijksterhuis, 2007]

目標伝染:他者の行動観察+意図の自動的推論+意図の採用と行動 [Aarts et al., 2004]
 目標設定にも無意識的プロセスが介入
 行為の模倣ではない
  モジュラな過程なら他は影響しない
  何がどのぐらい影響するか?
   感情/動機は影響するらしい
   認知/知識的なものは影響するか?

実験1
 実験群: 昼食を刺身から焼き魚定食に変更(衛生的な要因)
 統制群: 焼き魚から刺身定食に変更(?)
 ダミー課題
 目的行動課題(従属変数)
  お礼のクッキーを食べる前の消毒液使用量?

今後の課題
 どんな他者の目標でも伝染するのか?
  ダイエットでは見られない(進化的に意味のある動機のみ伝染?)
 伝染しているのは目標なのか動機なのか?
 目標の推論は意識的である必要があるのか?


naltoma: 「目標が伝染する」ということに着目した事例があること自体に驚いた。



Q: 実験では一つの目標を想定されているようだが、現実には複数の目標がある。
 そこから何を採用しているのか、どう選択しているのか。
A: そういうことが何でもかんでも伝染するという危険性を減らしているのだと思う。
 動機/感情系寄りのものは伝染しやすいという仮説は立てられそう。

Q: ダイエットでは現れないとのことだが、
 短期的なスパンではそうだが、ダイエットはかなり長期的。
A: ダイエットは確かに何ヶ月という単位のもの。
 実験では「ジュース用意して好きなだけいれて」といったことでやってるので、
 短期的な効果しか見れていない。



O2-2: 協調的な概念変化を目指す小学校理科の授業における個人の学習プロセス, 齊藤萌木(東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構)

科学的概念教育の成果について体系的な分析の理論的枠組みが不十分
 概念変化と恊働学習
 仮説1: 収斂説 [Roschelle, 1992]
  多様な先行概念が正しい概念へと収斂していく過程
 仮説2: 建設的相互作用説 [Miyake, 1986]
  課題遂行とモニタリングの役割に交互に従事することで建設的に進む過程
  -> 自身のメンタルモデルを言語化して説明できるレベルまで抽象化できたかを確認できる?

4ステップに基づく学習を通した観察

今後の過程
 他の学習者の概念変化プロセス


naltoma: 学習環境のデザインに繋げることが目的のようなのだけど、
 今回の目標である「建設的相互作用説」導入下の課題遂行プロセスを
 分析して、その先にどういうストーリーを描いているのかが良く分からない。



Q: メンタルモデルとして作り上げていくのは非常に時間のかかる学習過程だと思うが、
 例えばトップダウン的に答えを教えて少しずつ正しいメンタルモデルを作り上げていくのも一つの手だと思う。
 どういうことに役立てて行けるのか。
A: トップダウンの例だと、例えば先に実験してしまえば答えを認識させることができる。
 その後でそれをモデルを説明させるという話?
Q: 建設的相互作用で少しずつ作り上げていくことの良い点、アピール点を教えて欲しい。
A: 授業後の分析だけになっているので、証明はできないが、論じていけるようにしていきたい。



O2-3: “忘れて知識を正す”:社会的インタラクションから見る忘却の適応的性質, 本田秀仁(国立情報学研究所)ら

忘却は、基本的には負の機能として捉えられることが多い(心理学でも)。
負の機能しかないのか?
 適応的にも機能する [Luria, 1968]
 -> 社会的インタラクションの場面においてどう機能するかを明らかにしたい

対象: 1対1コミュニケーションに基づいて、知識を獲得して行く場面
 マルチエージェントモデル
 正しい知識、あるいは誤った知識をエージェントが獲得する際に「忘却」が与える影響の調査
 small worldでは忘却により正確性が改善?


naltoma: シミュレーション上の各「知識」は独立したもの?
 これは何をどうシミュレートしていることになるのだろう?



Q: small worldで記憶容量が大きい時は正確性が低いというのは、
 「記憶容量が大きくなっても正確な場合が尾を引いて残っていく」
 というような、例えば相手を説得しやすいエージェントがいるという解釈は無いか?
A: 現状では解釈困難だが、検討していきたい。

Q: 忘却項目の選び方について。頻繁に更新されるのが「?」になる?
A: ランダムに選んでいる。固定されているものが変わりにくいというような設定は一切無い。
Q: 正しい知識が誤った知識より多い条件で始めているが、
 逆の状態ではやってみた?
A: 誤った知識が増えていくと思われるが、多様性が重要。
 多様性があると、誤った知識が増えても正しい知識が残るという状況。
Q: small worldではハブの影響が強いと思うが、ハブの知識と全体との相関は?
A: 今回はハブが生まれにくいネットワーク。
 ハブの影響は今後見ていきたい。



O2-4: 宇宙への適応と自己の変化(1)-宇宙から発信したデジタルソーシャルメディアへの発言に関する言語解析-, 野口聡一(JAXA)ら

宇宙進出の意義を認知科学的観点から明らかにする
 宇宙空間における自己の適応の過程や定位感の変化を
 飛行士本人の発言記録から明らかにする
  自己表現・発言形式に変化は生じる?
 ツイートデータ+作業内容+作業負荷量記録

分かち書き分析
 品詞出現頻度だけでも「形容動詞」から「形容詞」のように
 硬い言葉から柔らかい言葉が増えている傾向が現れていたことが分かった。
通貨情報ツイート数の推移:地球主体->国->都市
語尾の処理における変化:感嘆詞「!」作業量と負の相関っぽい傾向
地上との「時差」の配慮:挨拶表現の推移->母国意識した時差から自分時刻に

今後の課題
 認知的参照枠の変容と、身体的な定位との関係?
 フォロワーとの相互関係
  自己表現や地上フォロワーの宇宙観の形成に及ぼす影響?


naltoma: (ありがち)言語に現れない点での変化はあった?
 例えば、現れそうだと予想していたが、実際にはまだ観察できていない傾向とか。



Q: だんだんと親しくなるに連れて表現がカジュアルになったり、
 特定のことを具象的に表現したり、自己中心的になったりする。
 そういう観点からは、宇宙で起こることも結婚相手に起こることも似ているように思えた。
 宇宙がユニークだという体験としては何か感じられたか。
A: 1つは宇宙体験が全てユニークだとは思っていない。
 例えば南極越冬隊との類似点。海外旅行での時差。全てが特殊ではない。
 似たような傾向を持つ例はあると思う。
 何が宇宙で特殊なのかというと、地球から国、都市への認識の変化は宇宙特有だと思う。
 忙しさと語尾の変化はサラリーマンとかでも見られそう。

Q: 身体的な変容について、地上では交感神経が働き対処しようとする。
 髪の毛が逆立ち血流促進するとかいろいろ。こういう身体的な反応は地球同様なのか?
A: 社会心理学会で話した内容がそこに近い。
 座禅で本人が静止/安定していると思ってても徐々に動いていく。
 その動き自体も面白い。また座禅時にどこをつつかれたか分かるが、
 座ってる時に急に頭に触れると驚きが強い。



会長講演:統合的認知, 横澤一彦(東京大学)

書籍: 視覚科学, 2010
注意
 情報の取捨選択[James, 1890]、特徴統合理論 [Treisman & Gelade, 1980]
 注意モデル化[認知科学, 横澤]
オブジェクト認知:計算論的アプローチ、ジオン理論
危機感
 共存してきた歴史:特徴統合理論、計算論的アプローチ、PDP(NN)
 脳機能計測装置の普及
  良くも悪くも取り込まれた?
  先導出来ないジレンマ?
 統合的認知:そもそも認知とは統合的?
 分解的認知:受容屋の分析、脳活動部位の同定など
  特定部位が活動しているということが、行動にどう結びついているか?
  例えば、線分抽出する神経細胞はどう使われているのか?

統合的認知(AORTAS):注意+オブジェクト・情景認知+身体と空間の表象+感覚融合認知+美感+共感覚
 典型的な従来アプローチ:処理A->処理Bにおいて、独立性や海藻性を確認し、脳科学と共存。
 統合的アプローチ:階層性や接続関係を前提(潜在的かも)とし、全体的な個人差等を分析。
  トレードオフ関係
   e.g., 視点依存性(オブジェクトに対する脳内表象が、視点によらず不変かどうか)
   -> 方向知覚が不正確な見えは、良い見えになる。
  インプリシット結合
   e.g., ラバーハンド錯覚(温度感覚は、視覚の影響を受ける気がする)
   -> 同期した触覚刺激があると影響を受ける(錯覚する)。
  個人間変動
   e.g., 共感覚(誘導感覚により励起される感覚)
   -> 未解明の部分が大きく統計的ゆらぎ大。時間的安定性(生涯安定)。個人特異的。
    日本人の色字共感覚 [Asano & Yokosawa, 2011]
     特異にも見えるが、個人差としても解釈出来ないか?

オマケ
 脳の代わりに、人間組織を捉えてみる
 例えば、極端な縦割りや細分化された組織化は問題あり
 -> 世代間統合(フェロー、サマースクール)
 -> 分野間統合(研究分科会再編、学会運営への参画促進)
 -> 地域間の統合(CogSciとの国際連携、東北初の大会開催)


naltoma: 特異(イレギュラー)な事例に見えるものを「構造上は同一であり、
 その構造上での信号伝達バランスが崩れているだけで個人差として説明できるのでは」
 という着眼点が面白い。



Q: 共感覚について。非共感覚だが強いというのはどのように判断できるのか。
 色に意味が付いてるのはどう考えられるか。アルファベットは形の近さを聞いたことがある。
 連続性についてアルファベットでどのぐらい研究されているのか。
A: アルファベットについては欧米で同じ色が付きやすいという話はある。
 ただし、形状で決まってる割合は低そう。
 共感覚的な傾向については、「平仮名の【あ】を基本色のどれと結びつくか?」を複数回繰り返させる。
 連続性については、今回のデータを今年11月に発表したが、多分今回のデータが一番新しい。

Q: 人間をトータルで捉えるためには知情意を分割すると同時に統合的に捉える必要がある。
 そういう方向性についてはどう考えるか。
A: 方向性という意味では一緒だと思う。
 重箱の隅をつつくような研究になりがちなのもあるという話かと思うが、
 それはそれで重要だが、基本的な行動ですら局所的な脳内処理だけで認知過程が分かるとは思えない。

Q: 共感覚について空間配置の問題として有名な報告がある。
 数の意味をとらえるというのがメインになっていると思うが、
 空間的配置では数字の意味がデリケートになると思うがどうか。
A: その通りだと思う。数字の順番について空間的な配置を述べる人が居る。
 まだ共感覚全体のことを把握しきれていない。
 今回のは一つのデータとして色と日本語特殊性からやった事例。

Q: 文を作りだすことはできないが理解できるように見える症例で、
 実際には同じもので統合された能力に問題が起きてる症例がある。
 普遍的なもので、漏れ出た形で共感覚が出ているというのと同じように、
 対象性があるという感触を感じる。
A: 分からないことが多いが、少なくとも
 「共感覚者は文字と色の直接的な接続がある。
  非共感覚は直接的な接続が無い」とは考えない。
 殆ど変わらない構造を持っていて、バランスの欠如の問題。
 途中のどこでバランスが崩れるかが最終的な個人差となって現れると捉えている。
 全体のプロセスを見る必要がある。


フェロー授与式

授与者: 安西祐一郎氏, 佐伯胖氏, 長尾真氏, 三宅なほみ氏

座談会:過去/現在/未来
「認知科学」との出会い:いつ、どこで、その衝撃?
 野田セミナー
学問としての「認知科学」:位置付け、特徴、成熟度?
 認知科学選書?:このシリーズのことかな?
「認知科学」の近未来
 残されているテーマで取り組みたい課題?
  情報が溢れている中で、何か問題解決しようとしたら、何故それに必要な情報を抽出できるのか?
  目標はどこから出てくるのか?
  アート/美感覚的思考? 分析自体にもシンセティックな思考が入り込んでいる。
   分析はどうしても後ろ向き、位置づけようとしてしまう。
   アートは前の方に、何が可能かという前進思考。
   non-cognitive cognitive science
  授業への取り組み?
   説明するのではなく、クラス分担して合わせると答えが出るというような授業作り?
   学ぶ人自身が構成して作っていく。
   少しずつ前進して、まともなものになっていく。
   そのことの本質を科学的に捉えていけるか?
 日本認知科学会の将来像?


naltoma: 無意識的な所に面白さが眠ってるのはそうだと思うけど、どういう実験設計例があるのかな。



ポスターセッション2


P2-1: 脳の情報処理の動態モデルを構成する, 福永征夫(アブダクション研究会)

単純な4つの数式モデルで「動態モデル」なるものを設計したという話なんだけど、
「非平衡開放系が全てに埋め込まれている」という前提か過程が盲目的すぎるのが気になる。
これじゃシミュレーションできないんじゃないのかなぁ。


P2-9: イベント映像自動生成:映画のショット解析から導出される構図ルールとその適用, 野田佑帆(芝浦工業大学 大学院 理工学研究科)ら

映画をショット集合とし、ショット単位で分析することで構図ルールを構築するという流れは分かりやすい。


P2-10: スキル習得型の学習における反転授業の活用法の検討, 中村太戯留(慶應義塾大学/東京工科大学)ら

講義では教師がいるからこそやれることに注力したいが、
一般的な講義スタイル(課題は宿題であって、講義中にはやらない)ではドロップアウトしがち。
それに対して「反転授業(flipped classroom)」なる方式が提案されているらしい。
授業の後半で課題のイントロ部分を実際にやり、残りを宿題とし、次回授業の冒頭で開設や質問受付する。
これに加えて、グループ化(友人らで互いに教え合える)などあれこれ組み込んでるようですが、
初回から反転授業やっても駄目で、基礎的な部分は手取り足取り事細かにやることなど結局は
「手間暇かけましょう」という話にも見えます。
その時点におけるドロップ率が減るのは良いとして、その後がどうなっているのかが知りたかった。

質疑応答で出てた「細かい課題ログを残せることでゲーミング要素的な取り組みやすさもあるのかも」
という観点はなるほど。


P2-11: 理系の学生に見られる共感覚者の割合とその内容, 松田英子(東京大学総合文化研究科)ら

面白そうだったんですがタイミング合わず聞けず。


P2-13: 旅行案内電話対話のモデル化における基盤化ネットワークの拡張と適用, 水上悦雄(情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所)ら

実際には「対話戦略」的な所をモデル化したいとのことだけど、
一般的なグラフ構造的表現に留まっているらしい。

オペレータの作業風景をモニタリングして初めて分かった事象やルールも
出てきているようだけど、事例やルール列挙で「出し尽くす」のでは行き詰まる
ことが想像できるのだけど、うまい整理方法/体系化方法が見つからないとか。
タスク遂行型部分に限って言えば、比較的簡単なルールだけでかけるというのは意外でした。


P2-15: 食卓における協同調理行為がもたらすコミュニケーションの分析, 坂井田瑠衣(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)ら

目的が良く分からないのだけど、「豊かなコミュニケーションを成立させる要素」
としていくつかの「食卓」を用意し、観察した結果を分析したという話。
結論としては、たこ焼きパーティだと比較的初対面レベルなグループが親睦を深めるのに良さそうとか、
鍋はゆっくり話を深めるのに良さそうとか、一般的な話にしかなっていないような点が勿体無いというか、
その先を知りたくて質問してみたけど良く分からず。


P2-19: 未知語処理における人間の読み行動, 坂本聡(中京大学大学院情報科学研究科認知科学専攻)ら

テキスト文章を読んでいる最中の認知行動を対象とした、
「未知語に遭遇した時の行動」を観察分析したという話らしい。
想定してたタスクと大分違うな。


P2-24: 問題解決過程の振り返り方の違いとヒントへの気付き方の関係:主観報告とビデオの比較, 千邑翔太(中京大学情報理工学部)ら

2人1グループでワークショップ(体験学習)する場において、
一人サクラを潜り込ませてこっそりヒント教示するとか、
自動ログ化(ビデオ)導入するとか、
作業終了後の振り返り質問時に「再現させる」とかを
通すことで「報告の仕方」にどのような差異が見られたかという話。
「サクラと分かりましたか?」という質問すると、
後の質問に全てその影響が出てきそうなんだけど、そんなことはなかったらしい。
私が人疑いすぎなだけ?w

日本認知科学会第29回大会 0日目(移動日)

水曜日, 12月 12th, 2012

明日から始まる日本認知科学会第29回大会に参加するため仙台に来ています。参考になりそうな情報を仕入れられると嬉しいが、認知科学会への参加は初めてでどんな雰囲気なのかも良く分からない状態です。勉強させてもらおう。

仙台空港直便が無かったこともありますが、那覇空港->羽田空港->浜松町->東京駅->仙台という経路で約5時間(待ち時間含まず)。早朝出発した割には仙台到着したのが14時前で、既に陽が傾きかけてたのはちょっと悲しかったです。細かい移動ログはtwilog参照してもらうとして、お食事メモを。

東京駅構内で駅弁屋 祭なるお店があったので、吟味した結果「新潟のえび千両ちらし」に決定。ぱっと見は卵焼きしかないですが、その下にうなぎ/こはだ/いか/蒸しエビが。酢飯含めて匂いが強いものが揃ってますが、卵焼き蓋のお陰か具が出てくるまではそんなに匂いしないです。勿論味もなかなか旨し。(値段相応の旨さだとは思う。千円強の弁当だし)

仙台到着した時点で小腹が空いてたので、彦いちにてずんだ餅を堪能。店毎に味の差が大きそうですが、ここのは餅自体がホンノリ甘く、ずんだと一緒に食べると丁度良い塩梅でした。個人的には温かいものを想像してたんですが「冷たくはない」ぐらいで基本は常温なのかな? 他に気になったのが「クルミ餅」。ずんだのように「クルミをすり潰したペーストを餅にかけてる」っぽいんですが、美味しそう。ただ、その度に餅3個食べるのはちょっと。

ホテルで少し仕事して、会場確認兼ねて散策してから牛タン食べに牛たん炭焼 利休の本店に突撃。普通の「牛タン定食」にノーマル版と【極】版があったので尋ねてみたら、肉の質と厚さ(やジューシー具合)が違うらしい。頼めない値段では無かったので折角来たことだしということで迷わず【極】を頼みましたが、うん、それなりに旨いかな。ノーマル版と食べ比べた方が楽しめたかもしれない。まだ客足少なかったからか焼いてるのを見れる席を用意してもらえて、待ってる間も目で楽しめました。

これで仙台名物的なものは一応抑えたことになるのかな?

デュアルソリューションさんとの打ち合わせは年内無理になってしまったので、年明けで再調整が必要らしい。

日本認知言語学会 第13回全国大会 を振り返る #JCLA

木曜日, 9月 13th, 2012

日本認知言語学会 第13回全国大会が終了して数日過ぎました。

記録のため、見つかる範囲で関連ブログ記事を整理すると以下のようになります。

@naltoma: レポート: [ セミナー | 1日目(ワークショップを含む) | 2日目(シンポジウム含む) ]

以上。
Web上で何らかの全校大会に絡んだ交流跡がないかなと「JCLA、認知言語」で検索してみたのですが、書籍展示してた人のツイートや、Artaという言語を調査しているらしいドクターさん英語構文研究している院生ぐらいで、他は見つからず。他は自分のツイート(その1その2その3)が少しfavoriate, RTされたり、たまにJCLAでツイートが拾えるぐらいかな。ということで私の観測範囲とは接点が少ない学会だったらしい。それを踏まえると、取りあえず突撃してくるというアプローチは正しかったな。

當間レポートでは、ワークショップとシンポジウムについては割と細かいメモを取ってますが、一般セッションについては基本的に質疑応答を中心とした備忘録がメインでした。この記事では、「聴講した発表」を話の種に個人的に感じた感想や考え等についてつらつらと書いてみます。

ちなみに、今年に入ってからの学会参加振り返り記事はこれが3回目。1回目が情報処理学会第74回全国大会(IPSJ74)で、2回目が自然言語処理学会第18回年次大会(NLP2012)です。ここ数年の主な疑問、例えば「言葉自体の意味に個体差を気にせず利用できるのは何故か。どうして言葉等を通してコミュニケーションできるのか。身体以外に何があれば言語を獲得できるのか」等についていろんな立場からの事例や主張を聞けてとても楽しいです。


<目次>
コーパスから事例抽出して認知的側面から{仮説を導く|仮説の妥当さを補強する}
 いわゆる一般的な科学的アプローチ(事例を積み上げて仮説を補強しながら検証する)を忠実に守って取り組んでるような発表が多かったように思います。ただし、予稿や発表では意図的に省略しているのかまだ途中段階だからなのかは分からないのですが、「多くても事例数が数十」止まりで、少ないケースでは10に満たないものばかり。
 せめて「このケースに合致するのはコーパス上x%程度」とか割合も示して欲しい気がするんですが、(一般発表で)私が見た範囲ではそこまでやってる人はいませんでした。一人は質疑応答時に答えてる人がいたので、査読付き論文用に意図的に小出しにして様子見しているのかなと想像しますが。
 あと、仮説に関与している事例をコーパスから探す方法については誰も話していなかったのですが、簡易的なテキストマッチングぐらいで基本的には手動だったりするんだろうか。

仮説に合致しない事例は反例か例外扱いで済ます? もしくは仮説自体に制約を設ける?
 事例を積み重ねて仮説を補強するという話ではどうしても「合致しない事例が出てきたとき」の対応が気になります。聞いた発表の中では「探してきた事例に対しては十分説明できるように仮説を修正する」人もいましたし、「全事例の中では存在割合が少ないレアケースなので例外扱い」で済ましてる人もいました。いろいろ対応は考えられると思いますが、基本はその先に見据えているゴールとの整合性から妥当な方を選択するしかないのかな。

カテゴリー化とプロトタイプ理論の違い
 現地で聞いてる時点では、カテゴリーとプロトタイプというのが対比される形で使われているというよりは、カテゴリーの一種でデフォルトが決まっているのがプロトタイプという感じで聞き取っていました。
 カテゴリー化プロトタイプ理論を参照する限りでは後者は「典型事例とそれとの類似性によって特徴づけられるという考え方」らしいので、それほど間違った解釈ではないようなのですが、どちらかというとその後に補足されてる「境界は明確でなく、それぞれ典型的なメンバーと、非典型的・周辺的なメンバーをもつと考える」という点が重要っぽい。言い換えると、「未知の状況に遭遇した場合、典型的なメンバーとして考える傾向が強い」ということ。

[認知科学からの視点] 連続的に推移する世界はことばによって離散的に分節され、カテゴリーを発見・想像・修正を繰り返すことで多層的かつ重層的に捉える
 シンポジウムで認知科学専門の今井先生が話されてた内容を一文にまとめると、上記のようになると感じました。認知科学寄りの知識が不足し過ぎているので、暫く今井先生関連本とか漁ってみよう。
 上記のまとめで気になるのは、結局の所「ことば」を使って考えを表現したり、コミュニケーションしたりしている訳ですが、恐らく「ことば」を単体で考えてもうまくいかなさそうだという点。ヒトの「ことば」が「ヒトによる分節」という意思・意図を含んだものである以上、独立したものではありえない。そこにどう取り組むかという一つのソリューションが「場の言語学」ではあるんでしょうけど。

[認知神経学からの視点] 視覚情報では認知できなくとも非視覚情報では認知できたりすることから、入力モダリティ毎に意味システムを構築していると考えざるを得ない
 シンポジウムで医学・認知神経学専門の大槻先生が話されてた内容をまとめると上記のようになるのかな、と。例えば意味野の機能障害といってもいろんなレベルの障害があって、意味野にアクセスができない状態だと「たまにアクセスできることがある」状態では普段通りに振る舞えるが、「機能的な障害」だと例えば「りんご」があたかも存在しないように「意味」が喪失するらしい。
 変わった所だと「自宅にあるテーブルはテーブル」と認識できるけど、新しく見るテーブルはそう認識できないとか。これはプロトタイプ理論的には「デフォルトに相当する抽象化された概念はあるけど、そこからの派生を探そうとする」ところに障害がある状態なのかな。複数の入力情報から意味野への接続自体が多層的かつ重層的になっているので、どのリンクにどういう障害が起きるかによって症状が分かれるということではあるけど、一方でフェイル・セーフフォールト・トレランス等の柔軟な構成になっている側面もあって観察するだけでも大変。生きてるシステム(動的なシステム)だから尚更観察困難だとは思うけど、一方で、認知を身体活動を伴った環境との相互作用の枠組みで捉えないと解釈困難という点では認知言語学でも対象は同じ生きてるシステムな訳で、どちらも複雑系科学的な意味での「システムを構成する各要素が系全体としての挙動にどう関係しているか」を観察していく必要がある訳だ。

[場の言語学からの視点] 身体を通した自己の二重性と即興劇モデルに基づく共存在の深化(身体と身体、身体と環境との相互作用)が主体的な意識を形成し、コミュニケーションが産まれて言語へと発達した
 ワークショップで場の理論と認知言語学を統合しようとしてる先生らの内容をまとめると、上記のようになると感じました。自己組織化とか複雑系科学寄りの話は選書でも紹介した井庭先生の「複雑系入門―知のフロンティアへの冒険」を、言語未発達時に他者の行為を見ただけで理解するための説明としてでてきたミラーニューロンについては同じく選書した「ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学」を勧めるとして、場の理論/自己の卵モデル/即興劇モデルについては清水先生の「場の思想」を参照すると良いらしい。やや古めの書籍が多いけど清水先生関連本も漁ってみよう。
 キーワードがあれこれ出ていますが、工学的には「ミラーニューロンを有する身体」を用意して、「人間に限りなく近いインタフェース」を持たせて人間を含む実環境で相互作用できるようにしてやれば、「主体的な意識」を形成して、「言語」を体系化していくのだろうか。ちなみに個人的には「身体」は仮想的なものでも大丈夫だというスタンスなんですが、少なくとも「自己の二重性(卵モデル)」を有する必要はありそう。
 この「場の言語学」の話を、個人的にはここ数年興味を持ってるキーワードが組み合わさっていくストーリーとして聞くことができてとても楽しかったのですが、一部はまだ納得いってません。これは私の勉強不足が大きな理由かもしれないけども。

[対話言語学] 音声言語に限らず手話にもプロソディがあり、プロソディの有無で内容理解度は大きく異なる
 NLP2012の市川先生による招待講演「対話言語」では言語を発話する際に生じる情報「プロソディ」を中心に、発話されたことばを理解するための負担に影響していることをいろんな事例で検証しているらしい。プロソディ自体は言語毎にどう発現するかは異なる(多分、同じ言語でも方言みたいなレベルでの差もあるんでしょう)ようだけど、例えばリズムや音程差として現れ、プロソディの有無と内容理解度について検証した一例では「標準音声で理解度80-90%と同じ文章を、プロソディ無しで音声合成した音声では理解度40-50%にまで落ちる」ということがあるらしい。つまり、対話言語には「テキスト」という側面だけでは把握できないコミュニケーションがあるわけだ。前述の「場の言語学」でいうところの「身体を通した人や環境との相互作用」や「対話の共同活動」という観点が不可欠、と。

[その他の分野] パターン・ランゲージという視点
 認知科学/認知言語学/認知神経学/対話言語学では、「普段何気なく行われているコミュニケーションって実はいろんな側面が絡んでて何をどうやって理解しているのか把握しきれていない」というような所に焦点を当てて分析しているというような印象が強い(個人的な主観です)のですが、これに対して「パターン・ランゲージ」では「創造・実践の経験則 を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化」することに焦点を当てているようです。例えばプレゼンテーション・パターンでは一つのパターンを「状況、問題、フォース、解決、アクション、結果」という項目で記述しており、これにより例えば「同じことばで話してても話が食い違ってしまう。その違いはどこにあるのか」を区別しやすくするための言語として「パターン・ランゲージ」を提唱しているようです。講義資料もこことかいろいろ公開されていますので、興味がある人は覗いてみよう。
 経験則的な知識をパターン・ランゲージという形で整理するというのは、「再利用しやすい形に残す」ための方法論とも言えます。これを言い換えると、記録として残す事が困難な知識の多くは「徒弟制度/OJT」のような形で「体験することで多層・重層的に学習者が体系化していく」ことで受け継がれているかと思いますが、この多層・重層的に解釈していく部分を「言語化」することで見通し良く理解しやすくなるだろう。そのための方法論が「パターン・ランゲージ」だと解釈しています。普段の「対話」とは異なる状況ですが、相手に理解しやすくするための言語としてどう組み上げていくと紐解きやすくなるかという観点を、認知科学/認知言語学/認知神経学/対話言語学で分析する際の観点として役立てられないかなー。そういう観点がゼロだという意味ではなく、研究者間で観点の盛り込み方の差が大きい(ので全体像が見えにくい)という意味で。

という感じであれこれリンクさせながら長々と書き連ねましたが、レッツ・マッピングとか書いたので自分でもやってみている次第です。

日本認知言語学会 第13回全国大会 2日目 #JCLA

日曜日, 9月 9th, 2012

今朝は駅で知り合ったお嬢さんをエスコートしながら会場に向かいました。話聞いて見ると昨日も参加してたけど、大東文化大学の場所が分からないそうな。自分より方向音痴な人は初めて見た。道中あれこれ話してて驚いたのが、中国の広東(かな)あたりでは沖縄の「涙そうそう」がもの凄く有名で、日本語勉強してる人は大抵知ってるらしい。勿論日本語バージョンだと思うけどw その曲繋がりで、三線とかあれこれ比較的沖縄については興味持ってる人が多いとか。妙な所で接点が合ったものだ。

ということで日本認知言語学会 第13回全国大会の最終日が終わりました。今日は「一般セッション+ポスターセッション+シンポジウム」というプログラム。ポスターセッションは昼食と並行して行われることもあってパスしちゃいました。

認知言語処理学会の大会に参加するのは今回が初めてですが、論文の書き方にも特徴が合って面白い。例えば例文を

{お酒/涙}{をガマンスル/*にタエル}

のように書いて、{}中の「/」は選択、冒頭に「*」がある場合は選択できないことを示すらしい。冒頭に「?」がある場合は、選択可能だがやや意味に変化が加わるケースっぽい。{}が具体的な例文を示すのに対し、抽象化したスキーマは<>で書くらしい。

参考文献の参照(cite)は人によって差が大きい。少なくとも括弧書き補足として使ってる場合には括弧書き以外を使って欲しい気がする。また、連名に指導教員が併記されてない人が殆どっぽい。文系(?)だとこういうスタイルが多いのかしら。

座長さん次第なのか1件あたりの時間が長いからなのか分からないけど、発表者間の交代の時間が比較的長く、民族代移動も多々。

発表の仕方にも、プロジェクタ等使わずに論文をベースに読みながら解説を加えるというスタイルの人もいました。殆ど問題無いけど、図ぐらいは投影しながら指し示して説明して欲しいかな。


一般セッションの公共広告について調査分析してた話によると日本人は主観的事態把握をしてしまうらしい。つまり、自分自身の視点で物事を捉え自身の体験と結びつけて読み込み解釈をしがちで、モノローグ的な広告をすると「直接的には書かれていないこと」に対して反応してしまうことがあるとか。モノローグ的な広告か否かではなく、主観的事態把握をしてしまうか否かの方が有意ってことなのかは謎。

シンポジウムでは、認知科学/言語心理学/神経心理学の辻先生が司会役を担当し、認知・発達心理学の今井先生脳神経・神経内科学の大槻先生認知言語学の堀江先生らの発表を聞きながら、会場との質疑応答という内容。パネル討論チックなのを創造してたのでやや期待はずれでしたが、先生方の発表自体はとても面白かった!

今井先生曰く、

そもそも「ことば」で何かを表現するという行為は、「ことば」で世界をカテゴリーに分割・分節するということ。
連続的に推移する世界を離散的かつ多層的に捉える行為であり、概念の括り方は言語により異なる。

というのはその通りだよなぁ。このあたりが脳神経的にどう絡んでいるのかとか知らない事だらけなんだけど、今日のシンポジウムのお陰でいろんなリファレンスも頂けたので大満足です!


<目次>


「ガマンスルとタエルの類義語分析-力動性の観点から-」滝理江(名古屋大学[院])

(1) {痛み/寒さ}{をガマンスル/にタエル}
(2) {お酒/涙}{をガマンスル/*にタエル}
(1)のようにガマンスルとタエルは類義関係にあると考えられるが、
(2)のように置き換えられない場合の理由は明らかでない。
両語において心理動詞と考えられる別義について力動性のモデルを用いて表し、
意味の相違点を明らかにすることを目指す。


naltoma: 類例をスキーマ抽出&分類して傾向分析するのは分かるし、
 そこに力動性モデルから考察を加えている点も理解できるけど、
 その先に目指しているものは何だろう?
naltoma: KOTONOHAのようにコーパスとして例文はDB化されてるのがあるようだけど、
 そこからスキーマ抽出なりスキーマ検索するには人手でやらざるを得ない?
naltoma: 抽出したスキーマや力動性モデルが現象をうまく説明できたとしても、
 人間がそのように認知・理解しているとは限らないし、
 スキーマは静的なものではなく時代と共に動的に変動することも考えられるが、
 このギャップはどうしたら埋めることができるだろうか?


Q: 例文2で「他人の涙に耐える」なら置き換えられそうだが。
A: 例文2では「自分の涙」が対象なので置き換えられないという解釈。
Q: 類義語分析という点では「置き換えにくい」のような曖昧な表現ではなく、
 そこを分析して明確にしていくことが大切だと思う。
A: 置き換えにくい、許容度が下がるといった曖昧な表現になっているのは、
 個人差もあって明確な境界が引けないため。

Q: 格助詞のニ格とヲ格は関係していないのか?
A: 今回は意図的に揃えた例文を用意した。


「「おかしい」と「変」の類義語分析-「評価性」と「判断基準の活性化の度合い」に注目して」閔ソラ(名古屋大学[院])

「おかしい」と「変」の多義語分析から得られたそれぞれの別着を比較して
類義語分析を行い、両語の意味の相違点を明確にすることを目的とする。


naltoma: 一つ前の分析と一緒だが、実際にはどのぐらいの分量を分析したのだろう。
 全部でなくても良いけど、偏った例を持ってきてたりしてない?


Q: 「おかしい」と「変」はモデルが違う気もする。
 「おかしい」は何かやらなければならないケースでは。
A: 同じことを感じている。
Q: 別義4の「性的な面において社会的に健全」というのは決め打ち過ぎに思う。
 性的以外なものが殆どないのなら良いが。
A: 確認してみたいと思う。

Q: 例文10では「おかしな男」にすると通じる。
A: 同じ意見を聞いていて、分析中。

Q: 「おかしなX」は多くあるが、「おかしいX」という構文は統計的にどのぐらい多いのか。
A: 統計はまだ確認していない。体感上だが「おかしいX」よりは「〜おかしい」の方が多い。


「日本語話者が好む公共広告の表現-日英の観点から-」田中優美子(昭和女子大学[院])

JTの喫煙マナー啓発広告を中心に、日本語と英語が併記されている公共広告を取り上げ、
日本語話者に効果的に訴えると思われる表現の特徴を英語表現と対比、検討した。

事態把握:人が発話する際に、それに先立つ認知の営みを捉えるもの [池上2000,2003,2004,2006]

日本語話者:<主観的事態把握> 独和型:モノローグ的
英語話者:<客観的事態把握> 対話型:ダイアログ的


naltoma: 広告は作成者と依頼者の意図が絡み合って制作されると思うが、
 広告毎の意図の違いは問題にならないのか?
naltoma: 「モテ色」の例で、日本人は「自身との関わりを軸に感情をこめて捉える傾向、
 つまりこの色を塗った自分が持てると解釈する傾向が高い」、米国人は「その色自体が
 好まれていると解釈する傾向が高い」とあったが、これは言葉単体で本当にそう解釈する?
 広告、環境等その他の文脈でそう解釈させてない?
naltoma: 対話型で直接的な要求になると、自身のマナー改善に繋がらないと解釈したのは何故?
naltoma: 独白型だと自身の経験に照らし合わせて解釈することで共感を集めることが
 できるのは分かるが、それが効果的になると考えた理由は?


Q: 英語は客観的に第三者ということ? 三者というよりも聞き手の方だと思うがどうか。
 話者と聞き手とその他の第三者と分かれると思うが、英語は第三者を中心にするという理解?
A: 英語では自分自身も「他人を見ているかのように表現」している。
Q: イギリス英語やアイルランド英語は日本広告に近い雰囲気があるように思う。
A: 日本で作られたものしか取り上げていないが、今後は英語が母語になっている所の事例も
 調べてみたい。

Q: JTで使われてる英語表現はネイティブチェックを受けているとは思うが、個人的には
 完璧な純粋英語としては読みにくく感じる。かなり直訳に近く、日本人が理解しやすい
 英語になっている。必ずしも客観的把握をしているとは感じられない。
A: JTの例ではネイティブチェックはしているとのことだった。ただし、日本の人が作成した
 英文をチェックしてもらうという形なので、日本人が読みやすい英文になっていると思われる。
Q: アフォーダンス理論で魚の水の関係と紹介されたが、広告とどう繋がるのか。
A: 読み手は広告だと分かった瞬間、自分に対して影響を与えるものだと認識して好感を
 持って読み込む。と解釈している。
Q: 少し解離があるように感じた。
C: 若者の流行語表現を使うのも独和型だと感じた。


「距離から共同注意へ-「聞き手の注意」を用いた「中距離指示」のソ系の再分析-」平田未季(北海道大学[院])

言語を用いたコミュニケーションにおける共同注意の中でも、指示詞は密接に
関わる形式であり、一義的な機能は「対話相手の共同注意的な焦点を調節する」
伝達機能であると論じられている。
日本語指示詞の「中距離指示」のソ系も「中距離」という距離概念ではなく、
聞き手の注意という共同注意形成に関わる概念を用いて分析しうることを示す。

聞き手の注意:聞き手の視線、アクセス可能性、言語的要素に向けられる注意


naltoma: 「聞き手の注意」を調節するという観点で変化するという点は面白いが、
 目に見えないものについても同じように説明できるのだろうか?


Q: 聞き手の注意に関して、聞き手が対象に対してアクセスが可能であることと、
 注意が実際に向いていることの両方を「聞き手の注意」に含めているように感じた。
 「その机をごらん」の例は、見える範囲にあることで聞き手の注意が向いていると
 解釈しているが、実際にはまだ注意が向いていないものを指している。
 この違いを区別する必要は無いか。
A: 最初の例は先行研究を紹介したものなので本来の解釈がどうなのかは分からない。
 自分で出した例でのピンポイントで注意を向けさせる例。

Q: 距離感が重要で無くなるのか? 例えば「あの時計」が話してるうちに
 「これさ」のように変化してくる場合とか。
A: 距離は距離として残り続けるが、加えて注意が関与してくるという解釈。


「手触りの質を表すオノマトペの有効性-感性語との比較を通して」坂本真樹(電気通信大学)・渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所・東京工業大学大学院)

被験者による触感評価を行う際、感性語を評価尺度としたSD法や多次元尺度構成法を
用いてあらかじめ定量化された尺度で感性評価を求めるという手法がとられてきた。
このような方法では、素材の物理特性との対応を取れる一方、触対象を触った時に
生じる好き・嫌いや快・不快といった個人差がある感性的な側面は測定できなかった。
また、被験者の触覚認識がその尺度の種類と幅によって制約を受ける。
そこで本研究では「さらさら」といったオノマトペに着目する。


naltoma: オノマトペと感性語の事なり語平均個数ではオノマトペの方が多かったということで、
 多様に表現しやすいとのことだが、被験者個別に見ると逆の人もいたようだ。
 これは何を意味するのだろう? ただの例外にするには勿体無い気もするが。


Q: 快・不快といったことについて、脳的な根拠までいわないと分かりにくということは無いか。
A: 脳のことに興味を持ちながらやってはいるが、脳科学の人らはまさにその部分を計測
 しながらやっている。こちらではディスカッション・レベル。
Q: 感性語だと側頭ようまでいくが、オノマトペだとそこまでいかないのでは。この点が
A: オノマトペだと日本人しか分からないが、言語不変なより本能的な表現を用いた場合との
 脳の作用がどう関与しているのかについて調べて行くべきかなと感じている。
Q: 動作によって脳の中での活動の仕方が異なるはずなので、そこを考慮した考察はできないか。
A: 参考にさせて頂きます。

Q: 形容詞とオノマトペ全体の語彙数を調べて、全体の語彙数とは関係がないとの話だったが、
 語彙数全体を見るというのは大雑把に感じる。形容に関するオノマトペはどのぐらい
 あったのか。例えば痛みについては殆どオノマトペでしか表現できない。
 元々触覚ではオノマトペが多いとかそういうことはないのか。
A: まさにそこが気になっていて、まとめている最中。
 なぞるや押すに関するオノマトペは圧倒的に多い。
 その他の場合には感性語が多いように感じている。
 触覚にも使えるというマルチモーダルな分類。


シンポジウム:意味の獲得・変容・喪失:認知言語学と関連分野との対話


辻幸夫(慶應義塾大学):もう一つの意味論、意味を多角的に捉える

今回の主題:もう一つの意味論、意味を多角的に捉える。
意味の三角形:観念表象、記号、指示対象
 「箱」に「ネコ」と書いた絵を見せただけでも、
 そこから受け取るものは文化等の影響を受けて大きく異なる。

何か喋ろうと思うと自然と言葉が出てくる。
話を聞こうと思うと耳を通して聞こえてくる。
何か理解しながら喋ってるか、聞いてるか分からないけれども、
音や文字を通して、身振り手振りも交えて話をして認知しているらしい。

言葉で考え会話をしているが、何をどのように考えているのだろう?
認知言語学にとらわれず、音声、身体性、脳神経、心理学、様々な観点から
一般的な意味での「意味」について考えてみよう。


今井むつみ(慶應義塾大学):カテゴリーの発見、創造、修正:ことばの意味の習得過程

認知科学(認知・発達心理学、言語心理学、教育心理学)、言語認知発達、語彙・概念獲得、問題解決過程、第二言語習得

大人が外国語を学ぶ場合
 外国語のシンボルを母語のシンボルに置き換えるプロセス
子どもの母語の語彙習得は?
 シンボルを説明するシンボルを持たないところからはじめなければならない
 世界を記号に設置させる
  環境音と違うことに気づく
  聞こえてくる音列が単位(音列の塊)に分節されることに気づく
   *「意味」の存在を知らない状態で分節するようになる
  分節された音の塊が外界の何かに対応することに気づく
  世界の何かに対応するだけではなく、「意味」を持つことに気づく
 母語の記号体系を自分の中にとりこむ

(そもそも言葉で表現するということは)言葉は世界をカテゴリーに分割する
 世界はことばによって離散的に分節される
  連続的に推移する世界を離散的に捉える
  多層的に捉える
   概念の括り方は言語により異なる
 ことはば違う種類の概念に対応する
 違う種類のことばは世界を異なる基準で切り取る
  モノ(名詞)、動作(動詞)、関係(動詞)、モノの性質(形容詞)
 naltoma: ことばによって離散的に分節するとのことだが、「ことば」自身は離散的なラベル?量子的なラベル?

ことばの学習の問題(赤ちゃんの視点)
 ことばのカテゴリーを自分で発見しなければならない
 ことばを使うことができる→カテゴリーの境界がわかるということ
 事例からの一般化でカテゴリーの基準(内包)とそれによって決まる境界を決めなければならない
  たまたまうまく推測できたとしても、一般化の問題がある
 カテゴリーの内包はカテゴリーの成員の共通性を分析することによって理解できる
  *事例が集まるまで待てない
 カテゴリーの境界は概念領域を当該言語がどう決めるかによって決まるので、
 全体がどう分けられているか知らなければ個々の単語の意味が分からない
  *全体のシステムは当初から知りようがない
   本当は全体を知らないと分かりようが無いが、
   少数のピースから推測して解決して行く必要がある。

一般化の問題
 初語から数ヶ月:10〜14ヶ月
  「パパ」→写真。「アヒル」→風呂桶に落ちた時だけ。「ワンワン」→四足動物+毛布。
   何を基準にして一般化して良いか分からない。
   他の特徴は捨てなくてはいけない。
 語彙爆発以降
  「カテゴリー」のために何を基準にし、何を捨てれば良いかが分かる。
 naltoma: 1年程度同様のことを「身体性を有するロボット」にさせるためには何が必要?
  すでに名前を知っている動物についた新しい名前
   一般名詞/固有名詞の違いを理解(2歳程度)
 ただし、上位カテゴリーの学習は難しい(5歳でも困難)
 動詞の学習も難しい(3歳で半々)
  モノの名前ではないということは理解。
  変数を変数としておいといて動作だけに注目するということができない。

アクションイベントの動詞への対応漬け
 動詞が名詞と「ちがう」種類のことばであることへの気付き
  形態的な違いから? 中国語の問題
 モノと動作を切り離し、動作だけに注目して一般化することの難しさ
 動詞の多様性:様態、結果、様態+結果
  動作のどこに注目すれば良いのか
  一つの動詞の範囲が言語によって違う
 7歳児でも大人と比較して60%未満
  長い期間をかけて徐々に学んで行く

一般化によるカテゴリーの形成と類義語との差異化
 事例からのマッピング
 マッピングの規則を探す
  一般化を制約するバイアスの発見→語彙爆発
 アナロジーによる創造的一般化
  いちごのしょうゆ(コンデンスミルク)
  せなかでだっこ(おぶって)、葉でくちびるを踏む(噛む)
 新しい語を学習することで、既存の語の意味を修正、さらに類義語どうしの境界を修正
  学習しっぱなしではなく、語や境界も修正して体系化していく
   同じ概念領域の単語が語彙にある程度たまればシステムを構築
   新しい単語、既知の単語の新しい用法を学習する度にシステムの修正
   非常に早い時期からこのプロセスの繰り返し
   →レキシコンを創り上げていく


大槻美佳(北海道大学):脳損傷からみる言語のしくみ

医学(神経学・神経内科学、脳血管障害、高次機能障害、神経心理学)、神経科学一般、認知神経科学
高次機能障害:失語、失行、失認
記憶障害

神経生理学のひとつの方法:動物実験
 動物:能のある部位を破壊→どんな症状が出現するか
 ヒト:能のある部位が損傷→どんな症状が出現するか
  →神経心理学

臨床研究からみた口頭言語における要素的症状と病巣の関係
 「要素的機能と局在」とも言い換えることができる
 音韻の選択・配列、単語の意味処理、、、等を機能分担していることは分かっている
 脳の機能の原則:機能要素毎に分担されている≒言語も機能要素毎に障害される
  音韻、意味、把持、想起
  単語を理解:音韻+意味で重層的に理解
  文を理解:音韻+意味+把持で重層的に理解

脳機能の大枠
 脳の内側vs外側
 脳の前方vs後方
  言い誤り(錯誤):意味性錯誤(後方)、無関連錯誤(前方)
  仮説1:
   前方: 標的カテゴリーに至る前段階?カテゴリーを決める?→NG
   後方: 標的カテゴリーの中から、ターゲットの単語を選ぶ?
  仮説2:
   前方: ターゲットの語が引き出された後、発語実現までの調整?

言語:音+意味+経時的処理(ワーキングメモリ)
 ワーキングメモリ=作動記憶:視空間性スケッチパッド音韻性ループ
  中央遂行系
   文レベルの処理(どこまで喋ったか、どのように話すか、、etc.)

症状の詳細(壊れ方)から、見えること
意味に関与していると言われている部位:前頭葉、側頭葉
 意味野へのアクセス障害:単語理解障害/呼称障害(時々で言えたり言えなかったり)
 意味野の機能障害:あたかも「りんご」が存在しないかのような状態
  語彙における「意味」の喪失(語義失語)
   語彙そのものが喪失: in/out共に障害
  「語彙」と語彙に関係ない「音の操作」は保存
  非言語性の意味は保存
  単語さえ分かれば文理解の問題は無い

特定の感覚様式に選択的な意味記憶の障害
 単語がわからないだけ?
 対象物の視覚情報が障害?
 言語を介さない課題
 他のモダリティーと比較する:聴覚的認知、擬音からはOK。視覚からはNG。
  OK: 非視覚情報→呼称、単語→非視覚情報
  NG: 視覚情報→呼称、単語→視覚情報
   意味記憶の中でも「視覚情報」のみに障害

カテゴリー特異性のある障害
 生物VS人工物(個人差大きい)

様々な入力モダリティ(様態)を前提としたモダリティフリーな意味野を構築していると
考えられてきたが、共通の意味システムがあるという話では説明できない。
 複数の特化した意味野があると考えるしかない?
  「意味野」は単一ではない
  「意味野」は特定の感覚様式毎に解離する構造を持っている
  入力モダリティー毎に意味システムがあるのか?


堀江薫(名古屋大学):認知類型論の応用的展開:第二言語習得研究との関連を中心に

認知言語学、言語類型論、機能(主義的)言語学、対照言語学、応用認知言語学、認知類型論、日韓対照言語学、文法化、言語接触、第二言語習得

言語類型論とは?
 言語の全体像やその構成部分の分類を、それらが共有する形式的特徴に基づいて行う学問分野
 語順による言語類型
  SOV, SVO(主語先頭)
  VSO, VOS(動詞先頭)
  OSV, OVS(目的語先頭)
  OV言語 vs VO言語
 世界の言語の語順類型論:SOV, SVOが圧倒的多数、約80%。VSOが約10%。
  SがOに先行する強い選好的傾向
   S(主語)は既に前の文脈から分かっている情報(古い情報)を表す傾向が高く、
   O(目的語)は「新しい情報」を表す傾向が高い。
   情報の流れは「旧情報」→「新情報」

言語類型論と第二言語習得
 通言語的な関係節の作りやすさ
 習得順序が階層性を反映:主語>直接目的語>関節目的語>斜格目的語
  ただし、日本語に関しては必ずしも該当せず [大関2008]

認知類型論(Cognitive Typology)とは?
 類型論的に異なる文法的特徴を有する言語間の構造的相違点・類似点
 「する言語」vs.「なる言語」 [池上1981,2000]
 Person-focus vs. Situation-focus [Hinds 1986]
 Reader/Speaker-responsibility [Hinds 1987]

社会言語学的類型論(Sociolinguistic Typology) [Trudgill 2011]
 社会的要因が、当該言語において見られる言語特性の分布や言語構造(例:
 形態的カテゴリー)の複雑さの程度と相関しているという仮説
  社会要因→構造的複雑性

「枠付(framing)」による言語類型 [Talmy 2000]
 移動表現に合成されている二つのイベント
  動詞枠付 vs. 衛生枠付
 第3の枠付パターン: E-languages (例:中国語)
  経路も様態も動詞に
 枠付が異なる言語の学習は困難。中級〜上級にかけて大きな差が。

枠付による言語類型の3分類(衛生枠付、動詞枠付、equipollently-framed)を支持
 E-languiage≠衛生枠付言語
e-framed言語母語話者は動詞枠付言語母語話者よりも衛生枠付言語の習得が早い
移動様態動詞+前置詞が習得し難い
学習者は母語の経路動詞を「go+前置詞」に入れ替える傾向がある
 母語からの負の移転
英語教育への提案
 習得しやすくて化石化しやすい表現を避ける
  ラテン語起源の移動同士enterなど
 前置詞の「移動を表す」などの様々なはたらきに気づくように明示的に指導する必要
  形態動詞を加えるとどのような意味になるか

<質疑応答>
他者とのやり取りの間で何をどうしているのか。
認知的発達の中で相互作用しながら言語が発達していく。


naltoma: E-languagesである中国語を母語にする人は英語に対する学習が比較的良好
 とのことだが、逆にネックになってある一定以上向上しにくくなるという影響は無いのか?


Q: 動詞の習得が遅かったのは静止画だったからでは?
A: 今井:動画で行った。ただし音声は無し。

Q: ペンギンの時には固有名を選択したが、ボールには固有名を取らなかった。
 ぬいぐるみということが影響している?
A: 今井:有性無性ではなく日常的に培われた「何に名前を付けるか」が関わっているかと思う。

Q: 子どもは修正し続けるということだが、大人とで対応が異なる?
A: 今井:子どもは明示的に直さなくても徐々に直っていく。
 (外国語を学ぶ)大人の場合には明示的に直さないといけない。そもそも注意がされにくい。

Q: ある単語を聞いたとき、何をどのように想起していくのか。
 意味野がモダリティーフリーとあったが、一度視覚に入ったものは必ず意味野を通るのか。
A: 大槻:いろんな所から入力として入ってきた「パターン」を概念とかコアなものと
 呼んでいると思われる。意味野が入力システム毎に異なるという意味は、
 発火パターンが異なるという意味だと解釈している。

Q: おかしな言語習得をするという話があったが。
A: 大槻:脳障害の人で再構築する過程でどうなるかは分からない。
 上位概念的に共通事項を抽出する能力が落ちると、崩れていくということはあり得る。

Q: 失語症の症状は改善するか?
A: 大槻:改善はする。ただし、再獲得されやすいものとしにくいものがある。

Q: 類型論における主語の定義は?
A: 堀江:フィリピンのように主語を定義するのが難しい言語もあるが、
 認知言語学のプロトタイプ的な考え方を採用している。
 動詞との一致を引き起こすとか、語用論的な観点とかから選択的に決まる。

Q: 動詞枠付は程度の問題だと考えると、新たなタイプとしてE言語を考える必要はないのでは?
A: 堀江:チャレンジングな話。説明をするために便利だということで使っている側面もある。
 前置詞のようなはたらきをしている動詞は衛生に近いと考えると、
 E言語を解消するということも考えられるが、まだ決着はついていない。

Q: 語順とか特定のものについては類似論で説明がつくと思うが、
 文法とか全体としては何を提供できるのか?
A: 堀江:全体類型論についてはいろいろ批判があることは事実。
 パーツの類型論に走って、全体として特徴付ける類型論は避けられてきた。
 アドバンテージがあるとしたら、「する言語」ならこういう構文が好まれるとか、
 ある種の特徴付けを提示することはできるかもしれない。
 少なくとも教育的なアドバンテージはある。

日本認知言語学会 第13回全国大会 1日目 #JCLA

土曜日, 9月 8th, 2012

大会初日は残念ながら雨。とはいえ小雨程度なので持ち歩いてる折りたたみ傘で十分。なんだけど、道路上はところどころで「歩道幅全体が埋まる程度の水たまり」があって歩きにくい。しくしく。昼前には雨も上がって、帰る頃には快適快適。

ということで日本認知言語学会 第13回全国大会の1日目が終了しました。一昨日の日記でも書いたけど
 ・ワークショップ4並列
 ・昼食
 ・会長挨拶、開催港挨拶
 ・特別講演: Mysteries of meaning construction
 ・通常セッション5並列(1件あたり35分もあるのね)
 ・懇親会
という流れ。

昨日のプレ・イベント参加者が100人弱ぐらい? だったので今日もそのぐらいかと思ってたら本番は200名強集まってたっぽい。(多分)

ワークショップはどれも面白そうだったんですが、折角なので事前知識が少しでもある方をということで涙をのんでWS1「場の言語学とは何か」に参加してきました。複雑系では一般的な話ばかりだと残念だと思ってたんですが、
 ・自己組織化による環境(場や他人)との相互作用によりコミュニケーションが発達。
  (鶏が先か卵が先かという意味では、上記の相互作用が生じる「場」があった)
 ・身体と身体、身体と環境とが相互作用してコミュニケーションが産まれる。
 ・当初はミラーニューロンのような「他者の行為を見ただけで理解」したり、
  音声言語が発達。文字的な意味での言語は大分後になってから産まれた。
 ・身体は環境と相互作用するための媒体。
 ・「場所」の状態は「身体」を介して「場」の情報として個人に直接伝えられる。
 ・言語はコミュニケーション・ツールの一つ。その言語は身体を通して伝えられる。
 ・身体を通した場の役割を捉えることで、言語の役割に迫れるのではないか。
といった考え方を聞けて、そして関連文献をいろいろ教えてもらえてとても良かった!

午後は門外漢過ぎてサッパリでしたが、これは想定内。

一般セッション(と呼んで良いのか良く分からないけど一般の研究発表)は、一人35分という長丁場なことも影響してるのか、一人終わる度にガラッと結構な人数の聴講者が移動しまくり。「セッション名」が付いてないスタイルは初めて見たけど、一応近そうなものが同じ部屋になるように分類されてるのかな。(門外漢なので分からないけど、一応近そうには感じた)

以下、例によって當間個人で解釈した概略メモです。誤解/誤認等多々あるかと思いますのでご注意を。


<目次>


ワークショップ1: 場の言語学とは何か

ワークショップの目的
 「場の言語学」の原理を明らかにする
 ケーススタディを通して「場の言語学」の理解を深める

経緯
 アスペクト/存在論から捉える
 個よりも場所とか場面が優先される社会構造:場面論、主語不要論、etc.
 「場所」から日本語の文法に立ち向かう
 →【場所の哲学】
  ケーススタディ:XはY
  (参照言ということよりも場を制限することが重要?)

場における事物の相互作用のパラダイム:場の量子論
一般理論としての「場の理論」
言語学への適用としての「場の言語学」


WS1-1「場の言語学と認知言語学 -その統合と発展」岡 智之(東京学芸大学)


場の言語学と認知言語学の統合可能性
 認知科学の主要な発見:身体化された心、認知的無意識、概念メタファー [Lakoff & Johnson 1999]
  基本レベル概念、意味論的フレーム、、、:「場」に関連

認知言語学のパラダイムと場所論の親和性
 メタファー思考
  述語的同一性:女性は輝く+太陽は輝く→女性は太陽だ

認知言語学でとりあげる「場所」の限界性
 認知科学で理論化される場や視点はあくまで主体と外界、つまり<我とそれ>の関係
 に焦点が当てられた場である [メイナード]
 場から独立した視点(主客分離)と場に埋め込まれた視点(主客非分離)

言語習得と心の理論(共同性)の問題
 心の理論
 共同注意(joint attention)
 問題性
  ヒトの言語習得が、他者の意図を読むという「心の理論」を前提とするか?
  →類人猿やさるでも見られる特性

やまだ[2010]の言語習得論
 乳児においては「ここ」という心理的場所(トポス)だけがあり、
 そこでは、ヒトは個としてあるのではなく、場所の中に溶けこむ形で存在


naltoma: 「場」はどのようにして生まれるのだろう?


WS1-2「言語学における場の理論とは何か」大塚正之(早稲田大学)

言語の外から言語を見る立場で取り組んでいる
場の理論から言語を捉えることの意義
 (1)言語をコミュニケーション一般の枠組みの中で理解できる。
  場においては、身体の相互作用から無意識的な相互作用が存在する。
  言語はコミュニケーションにおける一要素。
 (2)場における相互同期現象を説明できる。
  談話における「あいづち」現象などの無意識に発言する相互同期現象。
 (3)言語を複雑系の枠組みにおいて理解できる。
  物事は秩序から非秩序に、崩れる方向に流れる
  逆方向、エントロピーが減る方向に流れるのは何故か?
  言語は、複雑系における自己組織化現象の一つ。
   自己組織化現象は「場における相互作用」として生じるが、
   どのような自己組織化が起こるのかは予測できない。
   カオスにならずに秩序が生み出される。
    人と環境とのインタラクションの中で自己組織化が生じ、言語が生まれた。
 (4)言語以外の学問分野と統一的理解が可能となる。
  生物は環境との相互作用の中で生物として自己組織化される。
   ES細胞は周囲の環境によって何になるかが決まる [福岡伸一:世界は分けても分からない]
   主体と客体の例
    人間の主体というのは最初から個として存在していたのではなく、
    主体と環境の中で相互作用することで個が自己組織化されることで環境と分離し、
    主体と客体が生まれてくる。
  意識を伴う精神場(CMF)の理論 [Libet1993]
   ニューロンの結合単体を見るのではなく場として考える
 (5)言語類型の存在を統一的に説明できる。
  言語を主体のみの能力ではなく、環境との間で自己組織化する存在として理解をすれば、
  様々な言語類型が生まれることを説明できる。
 (6)文法理論の普遍性と言語の相対性を統一的に理解できる。
  遺伝子的な基礎と場における相互作用が統語構造を形成する。
   遺伝子的基礎:ある程度の共通性
   場における相互作用:言語の双対性

場の理論による言語理解の基礎
 (1)主体が先か、場における相互作用が先か?
  認知言語学の捉え方
   言語を話す主体がまず存在。(まずそういう存在があるんだろうか?)
  場の言語学の捉え方
   身体と身体、身体と環境とが相互作用してコミュニケーションが産まれる。
   そこから次第に主体的な意識が形成され、言語が使用できるようになる。
    ミラーニューロン:他者の行為を見ただけで同じニューロンが発火=理解(認知)
     人と人は繋がっている。言語は身体的なコミュニケーションのずっと後に生まれた。
 (2)複雑系における自己組織化としての言語現象
  自己組織化によるコミュニケーションの一部として捉え、その拘束条件
  (言語によるコミュニケーションを可能にする条件)を明らかにする。

場の理論の理論的背景
場の理論の特徴
 1. 無意識的な身体的相互作用が先にあり、そこから、言語と共に主体としての自我が形成されてくる。
  場において、自我と同時に他者が形成される。他者に対して自我となる。
 2. 全体は、個々の要素の寄せ集めではない。
 3. 場における自己組織化から個物が生まれる。
 4. 場において個物は生成死滅する。固定的な実体は存在しない。
  全体の構造を場から見る必要がある。
 5. 同一性は、個物的同一性ではなく、場において形成される秩序構造の同一性である。


naltoma: 言語を形成する拘束条件がまだ分からないというのは、絞りきれていないという意味?
 まだそれらしいものも見つかっていないという意味?
naltoma: そもそもどういう「実験」をしたら証明or強い根拠になるのだろう?


WS1-3「場の理論からみた言語」井出祥子(日本女子大学)、櫻井千佳子(武蔵野大学)

何故「場の理論」か
 [井出 2006] わきまえの語用論
 多様な人称詞:東アジアの諸言語なぜ多様性があるのか
 多様なモダリティ表現
  他言語にもあるが、日本語では構造上義務的なモダリティ:命題とモダリティ
   モダリティ表現をどのように使っているのか?
    変異理論(バラエティ理論)では解けない
    例:敬語の使い方
     「敬語は削って、削るもの」NHKアナウンサー加賀
     →場を読む

場とは:意味的スペース
認知言語学の問題を場の理論で捉える
 客観的事態把握と主観的事態把握
 主観性と視点構成
 伊豆の踊子:「高等学校の学生さんよ」「He is a high school boy.」
  主観的事態把握にないもの:主語、動詞、冠詞
   どちらがベターとかいう話ではなく、違いがある。
  場の考えでは、自他分離(外的)視点。
   話し手・聞き手が場の中に埋もれた視座を持って発話。
   配慮をモダリティで示す。

清水博の「場の理論」
 1. 静的モデル:卵モデル
  自己の二重性: Dual-mode Thinking
   自己中心的自己(大脳で認識される意識)
   場所的自己(身体で知覚される無意識)
 2. 動的モデル:即興劇モデル
 3. 共存在の深化


naltoma: 場が意味的なスペースだということは、
 場にも様々なレベルがあるということだと思うが、「場」はどのようにして生まれるのか?
naltoma: 「場」は生得的に持てる?


WS1-4「場における身体性と言語」河野秀樹(目白大学)

言語は身体を通して行われるもの。
身体を通した場の役割を明確にすることで、言語の役割を明確にできるのでは。

身体性を通じた間文化的関係構築と共創 [Kono 2008]
 言語的な情報交換、働きだけではなく、一つの繋がりが存在。
 場の定義
  個人間の振る舞いの間に整合性を持たせながら集団全体の表現を
  自律的に生み出す関係性の枠組み。
 「場」理論における「身体」の位置付け
  場の情報伝達を取り持つ身体
  「場所」の状態は「身体」を介して「場」の情報として個人に直接伝えられる [清水2000]
  【「場所」と「場」は明確に区別】
  「場」は一つの働きであり、直接目には見えない。

場の情報の非記号的性格
 暗黙知としての記号化のできない情報。
 場の情報は「場所」の印象、雰囲気などとしてしばしば情意的意味付けを伴って自覚される。
 環境と自己との関係を快・不快感などの内的感覚として反映する。

「場」における「身体」の意味
 可視的な肉体のみでなく、場の情報を伝える身体の「はたらき」を含む概念。
 身体のはたらきには、直感・情動等場所の状態把握のための心的機能を含む [清水2000]

身体論からみた「場」における身体
 はたらきとしての身体
  環境と個人、個人と個人を結ぶ身体の自律的はたらき [河野2011]
   場所の状態の認識と身体の自律性。
   閉じた系として作用するものではない。
    気分によって世界の見え方が変わる。
   匿名的身体性による自他非分離な関係 [山口2002]
   同調行動の基盤としての主客未分化

「場」における身体的コミュニケーションの共創
 共創=文脈を共に創っていく
  身体性を介した二者間の動作の整合性の生成実験 [三輪2000]

場における音声言語・言霊の役割
言語による身体的認知の補完
言語化できないものをどう言語化していくか


naltoma: 場は意味的なスペースであり、働きであって直接目には見えないというが、
 身体を通して感じる・知覚するものということは、表現する手段として言語だけでは
 不足しているかもしれないが、表現手段は言語以外にもある。
naltoma: 「意味的なスペース」は人間固有の把握能力?
 「意味的なスペース」を把握or認知or理解or創造するためには何が必要?


WS1-全体討論


Q: 日本語は話し手が「場」に埋もれて、存在していてものを捉えるため、自分が持っている
 ものを指示することができない。英語ではitでもtheでも指示することができる。
 「場」の理論は日本語についてはうまく解釈できるように思うが、英語ではどうか?
A: 日本語と英語の違いという問題だと思うが、場としては音声が届く範囲を越えてはいない。
 音声言語が中核。そこから離れて行き、場を共にしていない所では、主語を入れるとか
 モダリティを加えるといったことをしていかないと情報が伝わりにくくなる。
 という理解をしている。
A: 場の理論で日本語を見直すと、英語から見ておかしいと言われる部分が真っ当に見える。
 そういう点でうまく使っていけば良いのでは。

Q: 言語は複雑系における自己組織化現象とのことだが、ここでいう「自己」とは何か?
 ヒト?言語?
A: 自己組織化という言葉自体は複雑系科学で生まれてきた。いろんなものが相互作用することで
 組織化される。生命、言語、ヒト、自我もその一つ。自己組織化の「自己」とは非常に
 広い意味。「私」とかの自己ではない。環境との作用の結果として生まれてくるもの。


特別講演: Mysteries of meaning construction

古くは「(「意味」のように)観測できないもの」を対象としたものは「非科学的」だった。

conceptual mappings in cognitive linguistics:
 conceptual metaphor theory
 cognitive grammar
 fictive motion
 mental spaces & conceptual blending

x is the y of z
 find domain, structure, mapping –> emergent meaning?
 at least, emergent them to get “something”

Mapping schemes
 Input space Blended space Input Space(base space)
 compose the mapping: “what the domain is?”

“They (mirror neurons) get more complex as they are studied more and more.” [Michael Corballis’ talk]

Blending and meaning retrieval
“Make this envelope disappear”
 analogy -> identity -> uniqueness
 emergent -> blended -> re-construction
 blending level
 partial information (meanings)
 guess/imagine parallel scenarios

Composition of casual chains
parallel scenarios
Setting up a hypothetical mental space


naltoma: ドメインを言語化・共有化できると初めて「新しい概念」を共有することができる?
naltoma: 一方で、共有化できた(認知できた)と思った時点で情報欠落が起き、
 自己組織化的に秩序化とカオスを繰り返し、体系化していく(ように感じている)?
naltoma: 言語毎に特有の部分と、共通の部分は何か必然があってそのように分かれているのか?偶然?


Q: 言語毎にマッピングの仕方やマップのブレンド方法は異なるのか?
A: 異なるだろう。文法上の違いに出てくることもあれば、マッピングの仕方の違いとして
 出てくることも、それ以外の部分で表出することもあるだろう。

Q: マップが階層的に構築されるのだとすると、一番ベーシックな、generic spaceのような
 共通基盤に相当するマップはあるだろうか?
A: あると思う。


第3室



1「英語副詞の通時的意味変化に見られる放射状パターンとその認知的制約」小笠原清香(立教大学[院])

「強意」と「迅速」の意味を持つ副詞の通時的意味変化に着目
 具象領域→抽象領域→具象領域を繰り返す変化パターン。
 変化と意味の相関性を図式化すると、放射状カテゴリーの一端を想起させるパターンを描く。
 意味拡張には認知的制約がかかり、通時的意味変化が共時的な多義性に繋がる。


naltoma: 「変化と意味の相関性を図式化すると、放射状カテゴリーの一端を想起させる
 パターンを描く」とは何を意味する?


Q: 面白い観点だったが、コーパスがあるのにそれを使用せずに数例を持ってきて傾向を見る
 というのはどうかなと感じた。
A:

Q: p.112の表としてまとめることで新しい傾向が観察できたということについて、
 その要因については何か考察しているか。例えば年代や地域の影響など。
A: 年代と背景というのは気になっているが、まだ研究に直接活かしてはいない。
 調べるのに時間がかかることもあり、まだ着手できていない。
Q: 6.1の用例でfastがどちらの意味にも解釈できるということだったが、
 このようなケースは比較的多く出てくるのか?
A: そういう例があることを示したくて持ってきた。

Q: 新しい変化パターンがでてきたことで、推測する際に過剰な予測になってしまうことは起きないか?
 例えば予測をとめるような事例であるとかは見つからなかったのか。
A: そちら側からの話は考えていなかったが、制約を課すことは大切だと感じた。


2「英語前置詞byの意味ネットワークにおける〈差分〉用法について」平沢慎也(東京大学[院])

差分の用法と他の用法の関係を探る
共時的な分析の可能性と限界についての考察
通時的な視点の必要性についての考察

メトミニー [atode]


Q: 差分クラスタと呼んでいるところにネットワークが出来ているのは良く分かったが、
 例文1〜7がまとまりを見ているということ、例文6〜8にはちょっと繋がりが良く分からない。
 これらを全てに共通するスキーマはあるのか?
A: そこは考えていない。

Q: 例文3,4とではaがつかずtheがつく例で、差分クラスタには含めたくない。
 その場合にはどうするのか?
A: 定冠詞が現れる場合は、by単体の意味を記述することにどれぐらいの意味があるのかに疑問がある。
 by単体の意味は無くて、
 byが出てくるコロケーションといったものについて意味が定義されるべきではないか。
 例文3,4は「by 単位」という例ではなく、「by the 単位」という例として考えている。

Q: byの意味ネットワークについての研究とのことだが、
 プロトタイプのようなイメージ・スキーマ的なものがあれば教えて欲しい。
 中心的なイメージ・スキーマがあるなら、差分クラスタとの繋がりが知りたい。
A: 意味の抽象的なスキーマが表出できるかどうかと、
 絵画的に表現できるかは別の問題だと理解している。
 スキーマを描くことで理解が深まったのは over での物理的空間的用法の例。
 byについては空間用法の「近い」については、コーパス上頻度が1%程度で低い。
 さらに、空間的な近さ以外も含まれるため描くことにはあまり意味がないと思う。

Q: 用例13,14のかけ算の場合はたまたま一緒だっただけで、そうじゃない場合には違うことがないか?
A: 日本語、中国語を出したのはヨーロッパ圏以外という程度の意味合い。
 決して少なくはない。
 面積と寸法、乗算は比較的結びつきやすいことが影響していることに妥当性があるということではないか。
 乗算に限っての話。


3「語彙の多義性を再考する: 前置詞の意味と機能の連続性を中心に」大谷直輝(埼玉大学)

意味論に留まっていた語義の多義性に関する研究を、
語用論、統語論、談話理論などと関係づけ、
多義性の研究が持つ可能性と広がりを検討する。

連続性問題
 従来は、意味と機能は離散的という暗黙の前提。
 これまでは中心的意味→拡張的意味への連続性を扱ってきた。
 拡張的意味→文法化(機能)への連続性は無いのか?


Q: 内容は意味と異なるものととして機能がある? 異なる必要があるのか?
 内容の詳細化によって話者の意味の特定に繋がるのではないか。
 内容語と機能語という区別は従来来からあるが、今回提案された3機能は機能なのか。
A:

Q: 前置詞というが副詞も含めたparticle?
A: その通り。
Q: 例文10のアスペクトは、文法アスペクトではなく語彙アスペクト?
A: 従来の文法アスペクト/語彙アスペクトとは違う分け方で、最も広い意味での文法。

Q: 機能と呼んでいるものは「一つの意味の連続体としてある」ように感じた。
 強意のoverはどこに含まれる?
A: 文法機能が近いように思われる。今回は定着度の低い例がメインだった。
 to不定詞やoverは比較的定着度が高いため、別の観点が必要があるのが自然かもしれない。

日本認知言語学会 第13回全国大会 0日目(プレ・イベント) #JCLA

金曜日, 9月 7th, 2012

日本認知言語学会 第13回全国大会のプレ・イベント、セミナー「認知言語学と日英語対象研究-ことばからこころと文化に迫る-」に参加してきました。初潜入なのでわくわくドキドキですよ。

参加してきたといっても沖縄からの移動なので、空路で羽田に向かってから陸路で電車乗り継ぎまくってようやく着いたのですが。Webで適当に見つけておいたお店ハーブ&おいしい野菜塾レストランは個人的にはアタリ。前菜+スープ+メイン選択+デザート+ドリンクのセットで1500円。メインは肉/魚/ピザ/包み焼きピザ/今月の一品みたいな感じで数種類あってどれも美味しそうだったし、土日も空いてるようなので時間取れそうなら行こう。

会場の大東文化大学はお店からも近く、徒歩数分で到着。駅からでも20分弱ぐらいでそんなに遠くは感じなかったのだけど、会場での話を耳にする限りでは遠いと感じてる人も少なくなかったっぽい。あと何か高校と連携してるのかたまたまイベントか何かあったのか分からないですが、JKの皆さんが一杯いたな。

肝心のセミナーの詳細は以下を眺めてもらうとして、個人的には現象ベースの話で、
 ・スキーマ抽出能力:特定の状況化で共通するスキーマを把握する力。
 ・プロトタイプ:特定状況を想定していない状態、デフォルトでの意識レベル。
 ・フレーム:ある概念を理解するための前提となる背景的知識(の総体)。
 ・ブロッキング:特殊な表現の方が複合的表現より優先される言語体系に根ざした制約。
といった話を聞けたのが良かったかな。

一仮説ぐらいの位置付けでもちょっとすっきりした感。とはいえ、こういう能力なりをどうやったら生得的/経験的に得られるのかは別問題だけど。リファレンスたっぷりの資料貰えたのと、何かあったら改めて質問できるなということでやっぱり参加して良かったかな。

ちなみにホテルについてから気づいたんだけど、明日は浅草流鏑馬なんてイベントがあるらしい。がっつり学会日程と被ってるので見れないけど。しくしく。

以下、當間個人で解釈した概略メモです。誤解/誤認等多々あるかと思いますのでご注意を。


<目次>


第1講義: 語の意味の対照研究

現象は誰にでも開かれているので、現象から考える
対照言語学
 個別の異なる側面が強調されがち
言語相対主義
 言語は話し手の思考や経験のありようにも影響を与える
  (この点をさらに押し進めた理論→言語決定論)
認知主義
 概念化の問題
 相対主義を無視することはできないが制限ない相対主義は
 「人間言語に共通の認知的仕組みが働いている」点を見落としてしまう危険性がある

「水」とwaterをめぐる相対論
 英語には「湯」に当ることばがない。
 明確に区別する必要がある場合にはhot waterと言うことも出来るが、
 waterは、温度に関しては元来中立的な性質を持っている。
 →一つの言語の中で終始生活していれば「ものとことばの関係」は懐疑の対象にはなりにくい。
  他言語と比較することで「特定言語に依存している恣意的な区別にすぎない」ということ
  が初めて理解できる。
  →【共通の認知基盤は無い?】

「水」と「湯」の対立と中和@液体当てクイズ
 ガソリン/アルコール/湯/etc.,,,といった様々な液体が用意された状態で、
 「液体の正体をあててください」という状況下では「湯」であっても「水」と答えるのが
 自然ではないか。
 →日本語でも湯と水を区別しないことがあり得る。
  「一定の用途」という文脈を離れると、「中和」という現象が見られる。
  「水」と「湯」の対立だけに見られる現象ではない。
  →共通スキーマの抽出/スキーマの把握/カテゴリー化能力

中和の類例
 「米」とrice:もみ/稲/米/ごはん
レトリック論
 意味の伸び縮み:シネクドキ(提念)
  *一種のスキーマ化能力?

waterのプロトタイプ
 waterも元来温度に対して中立という訳ではない。
 言語論から離れて一般的なカテゴリー論でいう「プロトタイプ」が無標の概念に相当。
 プロトタイプに基づいた一般化。
 とはいえネイティブに尋ねても様々な要因が絡んで必ずしも適当な答えが出るとは限らない。
 →類例に頼る
  naltoma: 判例が出てきた場合には例外として扱う?理論を見直す?
   時代/環境などの様々な要因が絡む部分もありそうだが。

プロトタイプから特殊化/特定化されるのは文脈に依存する
 山田は走れない
  (1)山田はリハビリで歩けるようにはなったが、まだ走れない。
  (歩く/走るレベルでの走る)
  (2)山田は先頭打者には向いていない。走れないから。
  (走るの中でも「速く走る」というレベルでの走る)
   *「速く走れないから」と【言い換え】ることも可能だが、省略しても通じる。

naltoma: プロトタイプと特殊化という考え方をするということは、
  ひょっとして認知言語屋さんにとっては「言語」は表層的なものだけではなくもっと
  厳格なものとして認知し合っていると考えてたりする?

「熱い水」とブロッキングの法則
 複合的な表現とすでに存在する特殊な表現が同じ意味を表す場合、特殊な表現の方が
 複合的表現より優先される。
  話す→話せる
  スポーツをする→スポーツが{*すれる/できる}
 殺す=死なせる:死なせる⊃殺す
  「殺した」ら「死なせた」のと一緒だが、「死なせた」からといって「殺した」とは限らない。
  *分業が生じる。「死なせる」は「殺す」より長い語として作られたので、より広い意味を持つ。
 ブロッキングは様々な要因が影響
  例えば「頻度」。あまり普段使われない用途だと複数共存する。
  schema/schemata/schemas
  例えば「フォーマリティ」。昨日/本日/明日。きのう/きょう/あす。
   意味にも様々な段階がある。

水とwaterに関する概念化の背後には、
言語的違いスキーマとプロトタイプによるカテゴリー化の仕組みが同じように働いている。
→強い相対主義のいう「外的世界に対する認識のありようの恣意性」を指示するものではない

常識
概念理解とフレーム:ある概念を理解するための前提となる背景的知識(の総体)
 言語だけでは違いが強調されすぎる
  飴を口に入れる/煙草を口にくわえる:put in one’s mouse
  常識的知識があるからどちらも put in one’s mouse と言える。


naltoma: 常識とかフレームと呼んでいるものは、工学的に実現できないのか?
naltoma: 人間同士の対話では即興的に文脈を擦り合わせていくことでカテゴリー化や
 特殊化をしていると思われるが、即興的に気づいた文脈であっても何度も繰り返し
 起こることで普遍性の高い文脈を獲得する、つまりスキーマを抽出した際の文脈を
 築き上げて行くと思われる。この文脈獲得とスキーマ抽出は「鳥と卵」にも見えるが、
 人間は生得的にどちらの機能も有しているのだろうか?
 文脈獲得とスキーマ抽出が必要な環境で育てられるから教育効果として獲得しているのか?
naltoma: 文脈獲得とスキーマ抽出があれば一般的な意味での「言語」を獲得できる?
naltoma: 学生が新しい事物について学んでいるとき、文脈獲得やスキーマ抽出が
 できていないと応用が利かない?


第2講義: 言語における主体性の対照研究

(第1講義の補遺)
概念理解とフレーム
 状況を見る時に「一定の背景知識」を持って見る。
 e.g., 日常的フレーム/科学的フレーム
  普遍的に使われるようになると辞書にも登録されるが、それまではフレームでしかない。

リフレーミング:対象の捉え方を変える
 fat -> horizontally challenged
 short -> vertically challenged
 個人のレベルでの「心の持ち方」
 →言語レベルではより普遍的な(特殊化された)文化や文脈にも繋がる。
  見方を変える、心の持ち方を変えるためには「言葉」が必要。
  *様々な状況把握を実現する語彙力が重要

naltoma: パターン・ランゲージ?

(第2講義ここから)
言語学で言う「主体性」:ことばで自己を表現すること
 日本語から見た日本人は、個としての自己意識が強く、だからこそ逆に、
 対人関係には敏感となる。日本人にとって対人関係は建前として重視しなければならないが、
 その影には本音としての強い自己意識がある。

日本人は「集団主義的」である?<- [高野2008]で批判(肯定する人もいる)
言語行動の集団モデル
 日本人の言語行動は「ウチ・ソト」の対立等に見られる集団性の論理によって支配され、
 個の主体性は集団に同化・埋没する。
 →西洋語以上に強い個の意識に根ざした言語体系が存在することを言語的証拠で示したい

一人称代名詞
親族指示語の使い分け
授与動詞(くれる/やる/あげる)の使い分け:ウチ・ソトに基づく自己意識の流動性
尊敬語・謙譲語の使い分け

ウチに同化しない絶対的な自己
 心理述語の文法:自他の厳密な区別に基づく
  e.g., わたしはうれしい母は{うれしがっている/うれしそうだ}
 「話し手は自己以外の他者の心理を直接知ることができないという一般的認知制約」
  I am happy You are happy
   言語上は違いが出て来ないが「うれしい/うれしそうだ」という認知になっているはず。
   *常識が言語体系に現れて来ない例

日本語における絶対的自己の優位性
 絶対的自己の意識は言語修得の早期に現れ(自然獲得され)るが、
 相対的自己の概念獲得はかなり後(教育によって教え込まれる)。
  書店に相対敬語の本が並ぶ様はある意味で奇異。

naltoma: 言語が思考や経験のありように影響を与えるのであれば、
 「社員教育としての相対敬語」をなくすとどのような影響を及ぼすと考えられるか?

普遍的概念としての自己とその二面性
 絶対的自己:言語主体としての自己(普遍的概念)。
 思考表現の手段? コミュニケーションの手段?
 公的自己:(意識のレベルで良い)聞き手と対峙する伝達の主体としての側面。
 私的自己:聞き手を想定しない思考・意識の主体としての側面。
  日本語は「公的表現」「私的表現」が発達している言語

naltoma: Twitter TimeLineでのメンションを使わない「談話」は
  公的自己と私的自己が渾然一体となっている状態?

声色が果たす役割

「裸」の自己とその衣服
 「ぼく/わたし/お父さん/先生」などの表現は、その私的自己に場面に応じて着せ分ける衣服。
 衣服を脱げば、個としての意識の主体である「自分」がそこにある。

naltoma: 言いたいことは分かるけど、礼儀/忠誠心と関係させて「衣服」という
  例えは無理矢理すぎるような。。

日本語に反映される日本人の自己概念
言語というのは思考表現する機能と、コミュニケーションする機能の2面性がある。
概念的なレベルでの共通化するのを「外から内」に向けて共通化するか、
「内から外」に向けて共通化するかの違いがある。

naltoma: 内とか外と表現しているもの自体が概念的であり、
 どちらがデフォルト(プロトタイプ)なのかを解釈する人が
 どういう文脈で解釈するかだけの話では?


質疑応答


Q: 関西における2人称の「自分」が何故残っているのか。
A: 独自に進化したものが普遍化している例。他者のままだと対立構図の側面が強くなるが、
 他者を通して自己として表現することで厳しいことを親身さを持って伝えることができる。
 「自分」は近親憎悪まではいってない良好な状態。

Q: 水と湯の例で、液体のように上位に考えがいかないのは何故か。
A: basic levelと呼ばれている。上位概念には液体のように
 subordinet/superordinetを考えていくのもあるが、
 その中核にはbasic levelがあり、普段の生活には無いレベルは生じにくいという考え方。
 [Mori, Yuichi 2006]
Q: 特殊化について、水1が文脈に応じて湯に特殊化されたという話があったが、
 水2が拡張して湯に特殊化されたという解釈はできないか?
A: 水1,水2のようにインデックスを振ってはいるが、こういう解釈自体がおかしい可能性もある。
 数字を付けてしまった時点で一人歩きしてしまう側面もある。
 水と湯では水の方がより日常的だと思うので、上の方に来るのが自然ではないか。

Q: ある言語で区別されてるからその区別が意識に上りやすくなるという話があったが、
 逆方向は無いのか。例えば英語圏よりも湯が日本では身近な存在なので区別されたのではないか。
A: それ自身がどういう段階にあって、段階に応じて取るべき対応を取る必要がある。
 そこを区別するために異なる特別な名前を付けることで意識しやすくなるのが最も単純なアプローチ。
 重要なものには名前を付けることで、それを重んずる文化が深まる。
Q: 言語的な区別が出発点なのか、認識に上りやすいのが出発点なのかどちらが先かというよりは両方?
A: 言語を通じて教えるというのがあると思う。自分より年上か年下かとか。
 言語として文化的側面も刷り込まれる。
 縦社会年功序列という側面と、成果主義という側面とが出てきたことで、
 旧来の価値が言語的に残りながら新しい社会的価値が対立している状態。

協力して共に歩むことが必要なことがあれば引き蘢って一人でやることが必要なこともある

火曜日, 8月 21st, 2012

マスターズ(FAN発表練習)の二日目が終了しました。全員分やれなかったのは心残りですが、仕方ない。まだ本番まで時間あるのでその間にやれると良いかな。ちなみに今回は、

後でGoogle ドキュメントも用意するので、【遅くとも前日中には質問を記入】すること。
当日の発表でも分からなかった部分、当日気になった点については積極的に質問すること。
(質問する練習、アンテナ立てて聞く練習、質疑応答の練習を兼ねています)

という名目で通知してあって、互いに討論できるよう事前準備させた上で長めのQAタイムを取ってました。比較的赤嶺研の学生が積極的に質問・コメントしつつ他研究室がぽつぽつみたいな感じでしたが、セッション終了後の休憩時間にも討論続けるといったことが自然と行われてたので成果としては十分かなと。

今回あまり討論に対して直接的に絡めなかった人は、一言二言なんでも良いので感じたこと、疑問に思ったこと、気になる点などを発言できるよう頑張ってみよう。特に今回は学内イベントでもあるんだから失敗してナンボだし、そのために今回は初学会発表者も含めて「事前に読んで準備して!」としたんだし。社会に出たら様々なことに対して「貴方の意見は?」という場面に遭遇します。自分がやってることだけ把握してたら良いのではなく、他人のやってることについてもそのストーリーやアプローチを把握し、問題点が無いか種々の観点から洗い出すための一歩を踏み出そう。

一緒に集まってやるイベントをなるべく効果的に実施したいということを昨日の日記に書いたけど、その逆に引き蘢って一人の時間を作って集中するというのも同じぐらい大事。その点、SICP勉強会はソロ活動しつつ相談したい時に各自が話合ったり、皆がやってるから自分もやらないとという気分になったりと良いとこ取りの実施方法だとは思います。気分転換イベントも企画してるっぽいしね。またタイミング合う時にでも差し入れ持ってくので頑張ってください。

今日はマスターズ以外にもイベント多発な日で、山口先生による集中講義最終日と講演「組織運営と情報管理」白土せんせいによるインターネットソフトウェア初日が開催されてました。学生も教員も関係者各位お疲れさまでした。

FAN2012@沖縄の募集が始まりました

月曜日, 4月 16th, 2012

第22回インテリジェント・システム・シンポジウム(FAN2012 in Okinawa)の募集が始まりました。CFPSICEからも会告が公表されています。

詳細は上記サイトで確認してもらうとして、スケジュール周りのみコピペ。

5月15日(火):一般講演発表,企画セッション講演発表申し込み締め切り
5月29日(火):採択通知
6月29日(金):原稿投稿締切
8月30日(木)〜31日(金):シンポジウム開催日

申し込み締め切りまで1ヶ月程度しかありませんが、沖縄の真夏を味わいたい方は是非是非ご応募ください!勿論県内の人もご参加ください!(台風来たらごめんなさい!)

公式連絡先・問い合わせ先は公式サイトにある通りです。中の人の一人として、@naltoma 宛も可能な範囲で承ります!

言語処理学会第18回年次大会(NLP2012)を振り返る

水曜日, 3月 21st, 2012

自然言語処理学会第18回年次大会(NLP2012)が日程上終了しました。

記録のため、見つかる範囲でNLP2012関連ブログ記事を整理すると以下のようになります。

當間レポートでは基本的に質疑応答を中心とした備忘録がメインでした。
この記事では、「聴講した発表」で興味深かった内容等についてつらつらと書いてみます。


<目次>
知識表現について

不勉強を承知の上で書きますが、知識の表現方法として様々な取り組みが行われているにも拘らず未だにうまい解決方法が見つかっていない。問い方が悪いという側面も意識はしていますが、representation 問題に関するモヤモヤ感が拭えません。乾先生のチュートリアルで紹介のあった「Distributional semantics」というのも一つの道だと思いますし、propositionalとの融合という道も分かりますが、直感的にはうまくいきそうに思えないです。ここでいう「うまくいきそうにない」は、私にとっての設問が人工生命・人工知能寄りの話であって、固定ドメインでの固定タスクに特化させたアプローチとしては十分機能すると思います。そういう意味では「Distributional semantics」という考え方は興味深い。

(目的に応じた)特徴量表現について
前述の知識表現と絡む話ではありますが、「文書分類するなら/深層格抽出するなら/同義語抽出するなら/etc.こういう特徴量」というような、大雑把にまとめてしまうと「目的に応じた代表的な特徴量表現」というのがあるかと思います。研究の掘り下げ度に応じて新たな表現形式が日々生まれてくるのは良いとして、目的に応じてユーザが取捨選択するというのではなく、取捨選択まで含めて低コストで最適化できないのかなぁ。

単純な定式化方法としては「予め候補を列挙しておき、最適な組み合わせを見つける」みたいなのが思いつきますが、うーん。そこまでやるならもう一段メタ的にレベル挙げて、対話的に背景・目的・目標・例題等を提示しながら問題設計をサポートしてくれるような所を目指した方が嬉しそうではある。災害関連テーマセッションの全体討議で出たような「ポイントが別にもあって、災害時にはガソリンが無くなるとは誰も思っていなかった/原発壊れる/計画停電などなど、予測できなかったイベントが多かった。どういう情報を抜いてくるかが分からない状況下で「抜いてくる」というタスクは一つ大きな面白いタスクだと思う。」への一つの解としては、そういうのを低コストに実現する必要があるのかなと想像。より現実的なエキスパートシステムとか、実際に現場で利用できるレベルでの知識の蓄積の仕方、と考えても良いかもしれない。専門家に相談したら良いという話でもあるけど、それも難しい状況があるわけで。

そういう状況&タスクに相当すると思われる一例として、行政に関するSNS上のコメントの自動分類とか、「東日本大震災関連の救助要請情報抽出サイト」構築と救助活動についてあたりのタスクは、前述の「より現実的なエキスパートシステムがあればそのレベルは一定程度解消できる」ように思う。前提が曖昧過ぎますがw

IEICE SIG-WI2関連のツイート(@m2nrさん)で見かけたのですが、減災情報システム合同研究会なるものが4月に発足するらしい。

含意関係認識について
RITEに含まれてる1タスクですが、NIIの宮尾さんが大学入試関連の発表で言われてたように「記憶していることと問われていることが意味的に一致しているかどうかを認識するタスク」という観点から「人間がテキストを介してやっているものは何か」ということへの解明に迫ろうとしている点はとても面白い。去年のキックオフシンポジウムでもあった「含意関係認識以外にどういうタスクがあるのか、それらを積み重ねていったその先にあるものは何か」という点は、何があるのだろう。一方で、ここで挙げた「知識表現/特徴量表現」みたいなことを考えると、実は今回の取り組みもまだ「実はロジックで記述可能な文章」に制限されてたりしないかという気もする。

いろいろ関連発表ありましたが、個人的に続きが気になるのは数量表現を伴う文における含意関係認識の課題分析

発話文の前提の推定
対話のような複数主体が共同活動するには「必要な知識・信念(=前提)」を共有化する必要があり、対話を通してその前提をどう作り上げていくかという話。英語テキストでは前提推定に役立つ手掛かりに関する研究が多々あるけど、今回は日本語でやってみたらしい。「前提」という考え方が良く分からないけど、「対話」を対象にしているだけあって他には無い視点(だから理解し難いの)かもしれない。

説明生成に基づく談話構造解析の課題分析
対象は英語談話で、Boxerというセマンティック表現に変換するシステムを利用しているらしい。特に「接続詞が非明示的(implicit)な状況での意味的関係」を推定するタスクの解決が目的で、現状ではF値4割程度とのこと。日本語だとどのぐらいやられているんだろう。深層格推定にも近いタスク?

複数ドメインの意見分析コーパスを用いたアンサンブル学習による意見分析システムの提案
「ドメイン」そのものを自動抽出というか自動分類するようなシステムがあると良さそう。目的に応じて異なりそうなので、そこも加味する必要ありそうだが。

定義文から自動獲得した言い換えフレーズペアの分析
人手でアノテーション精査した後でALAGINフォーラムで公開予定らしい。いますぐ必要なデータというわけではないのだけど、あれこれ言語資源が提供されてるという点ではとっとと使える状態になっておく方がベターだとも思う。ぐぬぬ。

法令文の構造的書き換え
タスクとして面白いのだけど、アプローチとしては情報処理学会全国大会であった係り受け構造アライメントを用いた文間の差異箇所認識の方が実用面で使いやすそう。法令文ならではの特有タスクもあると思うけど、より一般化されたタスクという点で。

2ツイートを用いた対話モデルの構築
最終的な目標をどういうところに設けているのか分からなかったですが、個人的には「より人らしく見えるbotのモデル化」みたいな視点で話を聞いてました。人らしく見えるというだけで、提案/推薦/相談とかいろんなタスクへの心的負荷軽減に繋がるんじゃないかなーとか。もやもや。

同じような点では、市川先生による招待講演での「対話言語」という切り口での仮説や検証結果がとても面白い。こんな話されたら「書籍:対話のことばの科学」を即ポチリますとも。

コールセンタ対話における話者の知識量推定も、ある意味「早い段階で対話相手の知識量を把握することができれば、それに応じてより適切な対応を取りやすくなる」みたいな話に繋がるんだろうな。

何をつぶやいているのか?:マイクロブログの機能的分類の試み
ツイートを機能面で分類しましょうという話で、まずは分類体系について検討したという話。こんな感じであまり良く考えずに「まずやってみてから問題点を洗い出す」というアプローチも、ある程度の知見を得られたのでやって良かったではありますが、もう少し後先の事を考えてアクションに移すべきだったか。とはいえ、今はまた「体系なりの指標をシステム構築者が設計する」というのに限界を感じてたりするので、別アプローチ取ってても同じ道を歩んでいたとも思う。いくつかの代表的な俯瞰目的にはこういう体系化が大切なんだと思う。

俯瞰目的によっては、意味検索のプロトタイプシステムの構築や、料理レシピテキストの構造解析とその応用のようなアプローチの方が良さそう。前者だとあるキーに対する機能的側面による絞り込みがしやすそうだし、後者だとフローチャート化することでストーリーを加味した抽象化ができそうな予感。ストーリー性という点ではストーリー性を考慮した映画あらすじからの類似度計算というような話が情報処理学会全国大会でありました。

小学生のための新聞読解支援に向けた重要語抽出の検討のように、注目されやすい/説明を聞きたくなりがちな観点での重要語を自動抽出することで「デフォルト視点」みたいなのを設計することもできそう。

ランダムフォレストを用いた英語習熟度の自動推定
今回「作文・校正支援」関連の発表を聞けていないのですが、こういう「習熟度推定」という側面も一つの校正支援ができそうだなと思って聞いてました。

作文事例に基づいた児童の「書くこと」に関する学習傾向についての分析−小学四年生による紹介文・感想文を中心に−も、校正という観点からどういう風にアノテーションしたら良いのかという点でとても参考になりそう。大学での課題指導か、論文指導版であれこれ校正コーパスあると嬉しいよなー。

違う観点になりますが、機械生成した作文でも同じ特徴量で評価できるのかしら。


同じく校正の一例としては冗長な文の機械的分析と機械的検出みたいな話も。

辞書の意味を利用した日本語単語と英語単語の難易度推定
情報処理学会全国大会でも同じく「日本に住む外国人」にとっての日本語の難易度推定という話がありましたが、こういうのを突き詰めていくと頭脳プロジェクトでいうところの「外国人向けの誤解し難い制御された文」みたいなものを生成できるようになったりするのかな。

論文間参照タイプ判定の細分化に基づくサーベイ補助システムの構築
是非とも実用レベルに仕上げてCiNiiに組み込まれて欲しいw

住民参画Webプラットフォームにおけるコンサーン・アセスメント支援機構
個人的に学会イベント参加する度に「イベントレポート」として文章化(記録化)していることもそうなんですが、こういう学術交流に関する「論文」以外の交流(質疑応答とか)をうまく残すことってできないのかなー。pingpong project(ピンポンプロジェクト)の一側面とも思ってたんですが、久しぶりにブログ見直してみるとあまり続いていない(?)ように見えるし。うーん。

安否情報ツイートコーパスの詳細分析とアノテーションに関する一考察
災害関連については既に書いたのでここではANPI_NLPの今後について。全体討議でも話題になりましたが、「災害ツイートコーパスがないとできないことと、そうでないことはあるか」が気になります。憶測・デマ混じりの中で云々というのはそのタスク例なのかな。A4:テーマセッション3 : 災害時における言語情報処理(1)ではそれ関連の発表が多かったらしい。